2022年は、日本商工会議所創立100周年に当たる。そこで、今号は記念企画第1弾として、創業100年以上を誇る老舗企業の経営者であり、地域の商工会議所会頭も務めている当主に、創業以来取り組んできた経営の極意と会頭としての地域への思いを語ってもらった。
時代のニーズを捉え事業を多角化 「競争」ではなく「共存」を貫く
地域密着型の地域総合商社として100年超の歴史を持つ四国物産。5代にわたって受け継がれてきたのは、経営の「攻め」も「守り」も顧客第一主義を貫いてきたことだった。時代のニーズに応じた多角経営は、同時にリスクヘッジとなり、大手企業や同業他社とも競わない、共存共栄の経営術を生み出していった。
快適な生活を提案するため同業他社とも共存共栄を図る
四国物産の事業は多岐にわたる。創業は1918年、香川県を中心とした肥料と砂糖の製造販売から始まった。その後、石油製品、食肉加工、ガソリンや灯油、LPGなどの燃料供給、学校給食用パンの委託製造、ミネラルウォーターの宅配、再生可能エネルギー(太陽光発電)の売電などに広げていく。現在は多角化した事業を、食品関連、エネルギー関連、環境関連の三つの部門に分け、〝三位一体〟の事業展開で業績を伸ばしている。
だがやみくもに事業を増やしていったわけではない。どれも、時代のニーズをくみ、人の暮らしに必要不可欠な事業であるという共通点がある。それは五代目で代表取締役社長の守谷通さんの代でも変わらない。
「創業当初から地域密着型の顧客第一主義に徹しています。戦中戦後の混乱期にも事業を継続し、雇用を創出し続けてきたことで、地域の信用と信頼を築き、その後も地域の皆さまを大切にした快適生活提案企業であり続けたことが、100年続いた秘訣(ひけつ)ではないかと考えています」
信用、信頼を得るために四国物産が続けてきたことの一つに地元企業との共存共栄がある。それも同業他社も含むというから懐が深い。例えばガソリンスタンドの経営一つとってもそうだ。四国物産は、観音寺市と隣の愛媛県新居浜市で3軒のガスリンスタンドを経営しているが、「地域で一番安くは売らない」と断言する。
価格ではなくサービスで顧客満足度を上げるとともに、他社のガソリンスタンドと価格競争はしない。
一方、同商圏で競合するLPG他社と業務提携を締結、両社の供給配送網を最大限活用できる環境を構築、競合他社と経営資源を共有することでWin-Winの関係性が成り立っている。
結果、双方の顧客にこれまでにない利便性を提供している。地域の快適生活提案企業としてあるべき姿を示し続ける。
「多角経営=リスクヘッジ」 持続可能な仕組みを構築
多角経営は、時代のニーズをくみ取っての展開だが、同時にリスクヘッジにもなった。リスクを分散できたことが業績維持につながったと、守谷さんは説く。直近の例としてコロナ禍を挙げた。
「当社でも食品関連やエネルギー関連事業が大きな影響を受けました。しかし、肥料や培土、農業用資材販売などの環境関連事業の踏ん張りがあり、業績を悪化させることなく推移しています」
柔軟な経営術もすでにシステム化されている。中期経営計画の策定はもとより、先行管理型レビューシステムを導入して目標を実現させるための行動、情報、商材、企画などをしっかり検証する体制を整えている。また自社の食品工場では、ジャストインタイム方式を導入。必要なものを必要な時に必要な分だけつくるという、トヨタ自動車が考案した生産方式で、効率的に生産性を上げている。
「仕組みづくりは得意かもしれません」と守谷さんは目を細めた。
顧客も従業員も大切にして信用と信頼を培う
さらに、自社のリスクヘッジだけではなく、地域全体のリスクヘッジも守谷さんは常に視野に入れている。
「観音寺市は少子高齢化が進むまちの一つです。まちが疲弊しないようにするのも地域商社である当社の役目と考えています」
例えば、小麦粉を卸している製麺所からの製麺の買い上げを製麺所が閑散期のタイミングにすることで、製麺所の売り上げの安定化を図る。新規就農者に対しては作付けする作物に最適な土壌分析・改良を含めた農業資材全般のコンサルティング支援や肥料の早期配送など、困り事にいち早く対応するなど、数々のサービスを実施している。
こうした顧客第一主義の前提には従業員満足度の向上が必須と、人事報酬制度の刷新も進行中だ。
「近い将来にある事業承継に向けた社内の整備を進めています。業務遂行に必要な知識やスキル、それを得る場を『教育計画マスタープラン』という5カ年計画に取りまとめて、戦略的に人材育成制度を再構築しているところです」と守谷さん。自社の財産は培ってきた信用であり、顧客であり、従業員だと捉え、その財産を守るために地域貢献、多角経営、そして組織力を強固なものにしてきた。次の100年に向けても「事業は人なり」の理念で、顧客満足度の増進に挑み続ける。
会社データ
社名:四国物産株式会社(しこくぶっさん)
所在地:香川県観音寺市昭和町二丁目4番5
電話:0875-25-2144
HP:https://www.shikokubussan.co.jp/
代表者:守谷通 代表取締役社長
創業:1918年
従業員:170人
【観音寺商工会議所】
※月刊石垣2022年1月号に掲載された記事です。
商工会議所をリニューアルし、県内初の防災協定を締結
2016年より17代会頭を務め、就任より商工会議所のリニューアルを進め、19年に実現させました。耐震性向上、エレベーターの設置などのバリアフリー化を図って、市と防災協定を締結。災害時の避難場所として、また平時より相談しやすい商工会議所の運営に努めています。
日本商工会議所においては、国のコロナ禍による中小事業者への支援策に対し、会員企業の意見を反映した対応で臨まれたことに、心強さを感じております。
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