景勝地として有名な恵那峡を擁する岐阜県恵那市。同市に創業して約50年の歴史を誇る食品製造卸の銀の森コーポレーションが、2018年にクッキー缶「プティボワ」を発売し、製造が間に合わないほどの人気を博している。店舗販売はもちろんのこと、コロナ禍で通販サイトの売れ行きが急増し、今や同社の業績をけん引する存在となっている。
個性的な森の食材を使った種類豊富なクッキー
まるで宝石箱のようだ。缶のふたを開けると、とりどりのクッキーがぎっしりと隙間なく並んでいる。「プティボワ」はフランス語で「小さな森」を意味し、その名の通り、国産どんぐり粉、木苺(きいちご)、山査子(さんざし)、クマ笹、山椒(さんしょう)、クコの実といった個性豊かな森の食材が使われており、独特の香りや食感が楽しめる。昨今、クッキーといえば個包装されているものが一般的だが、あえて形や大きさの違うクッキーを、1枚1枚パズルを組み合わせるように詰め込んでいるところも特徴的だ。
「『プティボワ』は2018年に立ち上げた新ブランド『パティスリーGIN NO MORI』の商品の一つで、10年ほど前から扱っているスイーツ商品の中でも新参者なんです」と同商品の製造販売を手掛ける銀の森コーポレーション社長の渡邉好作さんは説明する。
同社の成り立ちはなかなか興味深い。1950年ごろに豆腐の製造でスタートし、やがて業務用すしの製造にも乗り出す。さらにホテルや結婚式場に卸すことを目的に冷凍食品を扱うようになり、その関連でおせち料理もつくるようになった。その後、レストランや宅配事業を始めるなど順調に事業を拡大していき、2011年に和菓子、洋菓子、節句料理、和惣菜、地場食品などを販売する店舗やレストランが点在する施設「恵那 銀の森」をオープンした。
「事業がだいぶ変遷していますが、実はつながっているんです。豆腐屋は油揚げもつくるので、そこからいなりずしや巻きずしをつくるようになり、さらにちらしずしも扱うようになりました。週1日は休みを取りたいと冷凍食品の製造卸を始めて、扱う食品の種類が増えたのでおせち料理もつくるようになり、それが当社の主事業となりました。『プティボワ』に多様なクッキーが仕切りを使わずぎっしり詰まっているのは、おせち料理の技術が生かされているから。基本的な考え方は、全部つながっているんです」
売れる商品は「お客さまが引っ張ってくれる」
同商品の開発を始めたのは発売の2年前だ。新ブランドを立ち上げるに当たって、まずは綿密なブランディングを行った。最終的に固めたコンセプトは、「森の恵みを日々研究し、新しい味を生み出す料理長のチェスと、五感を頼りにおいしい食材を探すのが得意の副料理長ナッツという2匹のリスが、アイデアあふれるお菓子を手づくりする」という童話のような世界観だ。そのイメージに合うお菓子として、パイ、クッキー、コンフィチュール(果物を砂糖と一緒に煮詰めた保存食)を扱うことが決まり、パイをメイン商材に据えた。
「もともとクッキーをあまり扱ってこなかったこともあり、当初からパイに力を入れていました。クッキーは客寄せ商品という位置付けで、あまり売れないだろうと予想していたんです。ところが、いざ販売を開始すると、圧倒的に『プティボワ』の方が売れていきました」
渡邉さんは、売れる商品というのは「お客さまが引っ張ってくれる」と表現する。いかに熱い思いを込めて商品をつくっても、客が引っ張ってくれなければ売れない。客の価値観と商品が見合うことで、初めて買ってもらえるのだ。客の価値観と見合った商品は、小細工をしなくても、少々高価でも買ってもらえる。同商品は見た目の美しさやほかにはない独特の味わいで客をとりこにし、ファンを増やしていった。さらに、多くのフォロワーを持つYouTuberやインスタグラマーたちが同商品をお取り寄せし、食べた感想を思い思いに発信したことで口コミが広がり、たびたび注文に製造が追い付かなくなるほどの人気商品となっていった。これは渡邉さんが仕掛けたわけではなく、すべて客が引っ張ってくれた結果だ。こうして現在、1年でシリーズ11万缶を売り上げる同社の看板商品となった。
森の恵みに〝健康〟のイメージをプラス
「恵那 銀の森」は、県外客が7割を占める観光スポットにもなっていたが、コロナ禍では集客数が激減したという。ホテルや結婚式場向けの業務用冷凍加工品の卸売りも95%減となり、いまだにコロナ前の水準には遠く及ばない。一方、巣ごもり消費の拡大によってオンラインショップの売れ行きは好調だ。特に、同商品は瞬間的に400%増を記録。平均して150%増で推移しており、事業全体の売り上げは右肩上がりを続けているという。
渡邉さんは今後に向けて、『パティスリーGIN NO MORI』のコンセプトのさらなる進化を考案中だ。「森の恵み」から連想される〝健康〟のイメージを付加しようと、さまざまな効能がうたわれているキノコなどの食材を使った新商品のアイデアを温めている。
「たとえ新型コロナウイルス感染症が終息しても、世の中は元には戻らないでしょう。アフターコロナを考えるとき、ますますブランディングが重要になってくると考えます。『プティボワ』が多くのお客さまに気に入ってもらえたのは、見た目や味もですが、チェスとナッツのストーリーがあったから。特にネットやSNS上では、ストーリーがあると心に刺さりやすいと感じます。『プティボワ』も人気にあぐらをかかず、必要に応じてリニューアルしながら進化させたい」と渡邉さんは会心の笑みを見せた。
会社データ
社名:株式会社銀の森コーポレーション(ぎんのもりコーポレーション)
所在地:岐阜県恵那市大井町2711-2
電話:0573-25-2095
代表者:渡邉好作 代表取締役社長
設立:1972年
従業員:280人
【恵那商工会議所】
※月刊石垣2022年1月号に掲載された記事です。
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