政策担当者の交代は政策を見直すよい機会となるが、担当者が変わっても代々引き継いでいくべき政策もある。その一つが、衰退産業を撤退させる政策だ。技術革新の波は、ほぼ100年間隔でやってくるが、新しい時代の先駆けに、かつて繁栄を極めた産業をどう終了させていくか、息の長い取り組みが必要となる。
▼18世紀末、石炭がエネルギー源として登場した後、19世紀末には石油火力が席巻し、20世紀末にはデジタル革命で社会が一変した。こうした技術革新の波を社会が受容するためには、衰退期に移りつつある産業を保護するのではなく、前向きに撤退させる必要がある。衰退産業の撤退は、市場に任せるものではない。
▼石炭を輸入に頼る日本が、国内の石炭産業の合理化にかじを切ったのは、朝鮮戦争による特需が終わる1950年代である。その後、この石炭産業の縮小政策は担当者が変わっても脈々と受け継がれた。映画にもなった常磐炭鉱は、石炭産業から観光業への転換に成功した事例として有名だ。リゾート施設が開設したのは閉山の5年も前であり、関係者の間で周到な準備をしていたことが分かる。閉山の歴史は、時間とエネルギーをかけて官民が共同で立ち向かった政策の歴史でもある。
▼政治や社会は、とかく目先の利益を確保すること、今ある痛みや不満を解消することに没頭しがちだ。しかし、20年、30年先、いや100年先を見据えて、より根本的、長期的な時間軸に立った政策設計に取り組むべきだ。それは、その地域やそこに住む将来世代が享受する利益を最優先することでもある。経済発展の陰での退出を官民が一体となって完了させることで、新しい時代の展開が加速する。 (NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)
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