超微細な気泡「ファインバブル」を活用した製品の製造・販売で2007年に設立したサイエンス。同社が18年から販売しているシャワーヘッド「ミラブル」は、爆発的なヒットとなった。その秘密は、複雑な構造から繰り出されるミスト水流により、油性ペンのインクも軽々と落とす高い洗浄力と、肌年齢を若くさせる美顔効果にある。
シャワーだが、コンセプトは浴室で使う美顔器
泡には、2017年にISOで定められた国際標準規格がある。直径100µm(0・1㎜)未満の泡は「マイクロバブル」、直径1µm未満の超微細な泡は「ウルトラファインバブル」、二つを合わせて「ファインバブル」と定義されている。
サイエンスが18年に発売したシャワーヘッド「ミラブル」は、この「ウルトラファインバブル」の出し方が最大の特長だ。同商品を装着すると、1㎤あたり約2000万個の気泡を含んだ水流が噴射される。しかも、水流は1秒間に約2000回転の渦を巻きながら出てくるため、毛穴の奥まで届いて優しい研磨剤の役割を果たし、汚れを浮かせて洗い流してくれるのだ。20年には、この機構で特許を取得した。
「ミラブルはシャワーヘッドというよりも、浴室で使う美顔器と位置付けています。美容器具は買った当初こそ熱心に使っても、だんだん使わなくなってしまいがちです。その点、毎日使うシャワーが美顔器の役割を果たしてくれれば、一石二鳥と考えました」と同社会長の青山恭明さんは説明する。
その機能を端的に世に知らしめたのが、同社のテレビCMだ。女性の頬に付けた油性ペンのインクが、シャワーの水を当てて軽くこすると消えてしまうという衝撃的なもので、最初は水のCMと勘違いされたという。
使われ続けるものでなければ意味がない
青山さんが同社を立ち上げたのは、三女の強度のアトピー性皮膚炎がきっかけだという。何とか治してあげたいと水に着目し、脱塩素効果のあるシャワーヘッドをつくったところ、2~3カ月で肌の状態が改善していった。そうした実体験を足掛かりに、家庭用水道の元に取り付ける脱塩素システムを開発する。それが大手マンションデベロッパーに採用され、経営は軌道に乗った。
その後、超音波による気泡で半導体を洗浄する技術に着想を得て、浴槽内にマイクロバブルを発生させ、お湯に清かるだけで肌の汚れや老廃物を取り除くシステム「ミラバス」を発売し、好調な売れ行きを示す。その利用者アンケートの中に、気になるコメントを見掛けるようになった。
「何とお湯の中に潜っているというんです。驚きましたが、美顔を追求する人にとってマイクロバブルを浴びたいのは、むしろ顔や頭皮なんだなと思い至りました」
そのニーズに応えようと、ファインバブルを発生させる美顔器の開発に着手した。ところが、あと一歩で完成というところで、青山さんは開発の中止を決断する。
「当社の理念は『すべての人々に感動を与え続ける』です。与え続けるには、使われ続ける商品でなければなりません。生活シーンで毎日使うもの、それがシャワーだったんです」
これが、技術的に簡単ではなかった。水が顔に当たるまで距離があるため、単に水流にマイクロバブルを混ぜるだけでは、肌に十分な洗浄効果をもたらすことができないからだ。3年にも及ぶ試作の末、バベルの塔のような形の突起で高速渦流を生み出す技術を編み出す。そこに外気を巻き込んで、さらに細かいウルトラファインバブルを発生させる「トルネードミスト方式」の開発に成功し、特許を取得。商品化にこぎ着けた。
「初回生産数は3000本ほどで、年末までに完売すればいいと考えていました。ところが、テレビの情報番組で取り上げられた途端、当社HPのサーバーがダウン。増産体制を敷いても、生産が追い付かない状態がしばらく続きました」
翌19年には、水道水中の残留塩素を低減する付属部品を追加した「ミラブルplus(プラス)」を発売する。コロナ禍でも売れ行きは衰えず、シャワーヘッド単体で年間10万本売れたら大ヒットといわれる中、現在までの約3年で累計100万本以上を売り上げた。
ファインバブルの可能性を異分野を含めて模索
顔や体の汚れを落としてくれるシャワーヘッドと浴槽システムがあれば、もはやせっけんで洗う必要はなくなる。同社はその特性を生かした、日本初の「洗い場のない浴室」を今年お披露目する予定だ。洗い場が不要ならその分浴槽を大きくでき、ワンルームマンションなどでも足を伸ばした入浴が可能になる。他にもファインバブルを活用した野菜や果物の栽培実験を行っており、農業分野や医療分野への可能性も模索している。
こうした青山さんの水と泡をテーマにした創造力の原点は、1970年の日本万国博覧会(大阪万博)だという。大手電機メーカーが展示していた「人間洗濯機」に衝撃を受けた少年時代の記憶が、現在につながっている。
「当社では、30年にSDGsの四つの目標達成に向けた10カ年計画が進行中です。その中間年に当たる25年に開催予定の日本国際博覧会には、大阪パビリオンにて『未来の人間洗濯機』で参画を目指しています。この人間洗濯機はお湯に清かるだけで汚れが落ちるというだけでなく、自律神経を計測して体調が今どのような状態なのかも判定してくれる優れものです」
青山さんはそれを機に、大きくリードしている日本のファインバブルの技術力を世界に向けて発信し、グローバル展開も視野に入れたいと意欲をのぞかせた。
会社データ
社名:株式会社サイエンス
所在地:大阪府大阪市淀川区西中島5-5-15
電話:06-6307-2400
HP:https://i-feel-science.com/
代表者:水上康洋 代表取締役社長
設立:2007年
従業員:84人
【大阪商工会議所】
※月刊石垣2022年3月号に掲載された記事です。
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