東日本大震災に見舞われた2011年、その年に私が書いた『幸せに生きるための法則』という本があります。震災後の7月に出版した本です。あの災いを経験し、当時、日本人の一人一人が、人生を考え直したのではないでしょうか。当時の自分の考えを改めて読み返してみました。今こそ、皆さんにもお伝えしなくては、と思えることがありましたので、今回はその中の「試練や挫折は幸せの道しるべだ」を紹介したいと思います。
人の教養とは、知識と経験の積み重ねだと私は定義しています。ここでいう経験とは、成功よりも失敗のことで、その「試練や挫折」の中から人は多くのことを学び、たくましく這い上がり、力を付けるのです。
私が船井総研の社長に就任してから始めたことの一つに、「社員ノート」という備忘録ノートがあります。600人の社員の中の300人ほどに関して、自分の視点で気が付いたことをメモしたものです。
ある日、常務が私の元にやって来て、名前が書かれた書類を差し出しました。「この3人をチームリーダーから、グループマネージャーにしたいので、承認をお願いします」。その3人は私の「社員ノート」から判断すると、全て不適格でした。しかし、現時点ではその3人しか候補者がいないと言うので常務にこう答えました。「分かった。ならば3年、時間をかけて様子を見よう。それでもだめなら躊躇(ちゅうちょ)せず降格するように」
結果は、3年を待たずに全員降格という事態になりました。役員会議の後、常務が私の部屋を訪ねて来て、私に質問しました。「これまでもそうですが、どうして社員のことがそこまで分かるんですか。人を見る目について、ぜひ教えてください」
私は答えました。「子供のころから、住み込み従業員の間でもまれ、人事で苦労する親父を見てきた。実家の仕事に就いてからも人間の嫌なところをいや応なしに見た。そういう私の人生の経験と同じ経験をしてみないと、これは分からない。残念ながら説明しようがないよ」
業績が上がる隣人に対してチラリと見せる嫉妬の色、部下を詮索しすぎる上司の言動など、ほんの些細(ささい)な行動の端々に人の特徴が現れます。その細かい部分を備忘録に記していくことで、「この人は部下6人しか面倒を見ることができない」(まだチームリーダーまでの力量)とか、「30人までは問題ない」(グループマネージャーが任せられる)の明確な判断につながるのです。
皆さんの仕事でも、苦労や挫折は次から次にやってくると思います。しんどいと思います。しかしそれを乗り越えて得た経験は、必ずや皆さんの教養を高め、正しい方向への道しるべとなるはずです。
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