「中小企業の事業再生等に関する研究会」(事務局=一般社団法人全国銀行協会)と、日本商工会議所と同協会が共同事務局を務める「経営者保証に関するガイドライン研究会」はこのほど、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」と、「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」をそれぞれ取りまとめ、公表した。座長は両研究会とも小林信明弁護士(長島・大野・常松法律事務所)。日商では、中小企業の事業再構築・事業再生の環境整備や、経営者保証に関するガイドラインの明確化などに活用してもらうことなどへの期待を表明している。
倒産時の個人破産回避を
政府は、2021年6月21日に策定・公表した「成長戦略実行計画」で、「コロナ禍の中で企業の債務の過剰感が高まっており、事業再構築を進めるためには、債務処理の問題は避けては通ることができないことを踏まえ、事業再構築・事業再生の環境整備を図る」という考えを提示。特に中小企業については、「中小企業の実態を踏まえた事業再生のための私的整理等のガイドラインについて検討すること、中小企業の倒産時に個人保証を行う経営者が個人破産となるケースが多いことは、中小企業の経営者にとって事業再生の大きな阻害要因になっているとの指摘があり、経営規律に配慮しつつ、対応措置を検討する」と記載された。
さらに、同年11月19日に閣議決定された「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」では「中小企業の私的整理等のガイドラインを本年度内に策定し、来年度から運用を開始するともに、倒産時の個人破産を回避するため、経営者保証に関するガイドラインの内容を明確化し、活用を促す措置を検討する」と明記。これを受けて、全銀協と日商の共同事務局による研究会を設置し、検討結果を公表している。
各段階で役割を明確化
「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」では「平時」「有事」「事業再生計画成立後フォローアップ」の各段階において中小事業者や金融機関の役割を明確化。中小企業の事業再生などに関する基本的な考え方を示すとともに、迅速かつ柔軟に中小企業者が事業再生などに取り組めるよう、準則型私的整理手続きである「中小企業版私的整理手続き」を定めた。公正中立な第三者支援専門家の関与の下、「再生型私的整理手続き」と「廃業型私的整理手続き」について、手続きの開始から、金融機関の債務猶予・債務減免などの支援を受けた後のモニタリングに至るまでの手続きなども示している。
「中小企業の事業再生等に関する基本的な考え方」では、「平時における対応」として、中小企業と金融機関の信頼関係の重要性を示すとともに、中小企業に対しては、①収益力向上と財務基盤強化、②適時適切な情報開示による経営の透明性確保、③法人と経営者の資産などの分別管理、④環境の変化への対応や、有事の兆候の報告など予防的対応に努めることなどを記載。一方、金融機関に対しては、①中小企業の経営課題の把握・分析、②最適なソリューションの提案、③開示された事実だけでなく、経緯なども踏まえた対応、④有事の兆候を把握し、実効性のある課題解決の方向性を提案するなどの管理を求めている。
「有事における対応」については、中小企業と金融機関が一体となって事業再生などに取り組むことを明記するとともに、中小企業に対しては、①平時以上の適時適切な情報開示、②自律的・持続的成長に向けた本源的な収益力の回復、③実行可能性・経済合理性などの確保された事業再生計画策定に取り組むことを要請。金融機関に対しては、①合理性や実現可能性を踏まえた事業再生計画策定の支援、②実務専門家、外部機関などを活用した支援などを求めている。
また、私的整理検討時の留意点として、「経営者保証に関するガイドライン」の周知と活用を進め、保証人の保証債務は、主債務と保証債務の一体整理に努めることを記載。中小企業者が法的整理を実施する場合にも、保証人は「経営者保証に関するガイドライン」を活用することを求めている。
事業再生計画成立後のフォローアップについては、中小企業の対応として、①事業再生計画の実行に向けた取り組み、②金融機関への適時適切な状況報告に努めることを記載。金融機関については、連携先の実務専門家などと協力しながら、事業再生計画の達成状況を継続的にモニタリングするとともに、経営相談や経営指導を行うなど、達成状況を適切に管理することを求めるとともに、必要に応じて事業再生計画の見直しへの対応も求めている。
「再生型私的整理手続き」については、中小企業は、主要債権者の同意に基づいて第三者支援専門家を選定。5年以内の実質的債務超過の解消や経営者退任などを必須としない、中小企業の実態に即した事業再生計画案を作成すると明記した。
具体的には、第三者支援専門家の作成する事業再生計画案に対する調査報告書を受け、全ての対象債権者と債権者会議を開催。債権者が事業再生計画案に反対する場合は、反対理由の説明を必要とすることとした。保証債務については、「経営者保証に関するガイドライン」を活用し、一体整理に努めることなどを記載した。
「廃業型私的整理手続き」については、中小企業が作成した弁済計画案について、第三者支援専門家が調査報告書を作成。債権者会議により弁済計画を成立させる。
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