新事業に取り組む企業が増加
経営理論として近年注目を集めるのが「両利きの経営」です。知の深化(既存事業の強化)をしながらも、知の探索(新しい知を求めた冒険)を行うという考え方。将来予測が難しい時代はさまざまな知を探索し、既存知の新たな組み合わせを発見すること、すなわちイノベーションが必要です。特に、他者との共創によるオープンイノベーションが重要なのです。
例えば、電力会社が既存事業の領域で、電力供給事業の構造改革に取り組みつつ、競争力強化と収益性向上に取り組む。その一方で、スマート社会実現事業の創出を目指した蓄電池、太陽光発電、電気自動車などを活用した次世代エネルギーサービス事業や、家庭の見守り、エネルギーマネジメントなどのサービスを提供する暮らし・ビジネス関連サービス事業に取り組むなど新規事業の開発にも注力するイメージです。
全国の企業が次世代の生き残りを懸けて探索に取り組むようになってきました。それだけ既存事業に閉塞(へいそく)感があるからだと思いますが、既存事業の強化も並行して行うことを忘れずに取り組みたいものです。
中小企業にも可能性 諦めず続ける覚悟で
ただし、両利き経営で紹介される事例は大企業ばかり。中堅企業では無理なのかと言えば、そのようなことはありません。
例えば、熊本県で電気・電力関連の整備工事を行っている白鷺電気工業は知の探索から農業関連の新規事業を立ち上げました。探索のきっかけは熊本地震の経験。食の大切さを改めて実感して、農業分野の事業を探索。サツマイモやタマネギなどもつくりながら試行錯誤し、商品化に至ったのがニンニクです。その収穫したニンニクを乾燥、熟成させ、黒にんにくに加工。加工した黒にんにくペーストを練り込んだクッキーも製造販売しています。
まずは1アイテムのビジネスを立ち上げ、将来的には食の世界で幅広くビジネスの展開も考えているとのこと。既存事業に比べれば、小さな売り上げかもしれませんが、高い志を持って事業を続けているようです。
こうした新規事業は立ち上げからうまくいくものではありません。新たな取り組みですから、失敗も起きます。既存事業で業績が長く、成功体験が豊富にあると、失敗に慣れていないために、「やめてしまおう」と新規事業を諦めてしまう企業が大半かもしれません。
ここで大事なことは試行錯誤です。経営陣も諦めずに改善を重ねて続ける覚悟と勇気が必要。さらに探索に取り組む社員をたたえる風土を醸成することで、両利き経営は大企業でなくても実現可能だと思います。 (立教大学大学院非常勤講師・高城幸司)
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