Ⅰ 国土を巡る現状認識/基本的考え方
・ わが国の国土は、人口減少・地方の衰退という構造的課題を抱える中で、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、大都市への過度な集中によるリスクが顕在化。一方、デジタル技術の普及によって地理的な制約が減少し、働き方や暮らし方に対する価値観が多様化したことで、安心・安全・快適な住環境を持つ地方圏への関心が高まっている。
・ また、迫りくる巨大地震・火山噴火、激甚化・頻発化する自然災害への備え、急速に進むデジタル化、脱炭素化機運の高まりによる産業構造の転換、地政学リスクの拡大によるサプライチェーンの再構築が急務。
・ わが国は大きな歴史的転換点を迎えているが、現下の厳しい財政制約や将来の人口減少にとらわれて、縮小均衡に陥りかねない状況。
・「真の豊かさ」を実感できる経済発展・幸福増進を実現し、豊かな状態のまま国土を次世代へ引き渡すためには、「国土=国富の器」と捉え、各地に存在する多様な産業・地域資源に着目し、そのポテンシャルを最大限引き出すべく、未来を展望した戦略と明確な目標を打ち立て、官民連携による積極果敢な先行投資を喚起し、国土を再構築していく発想が不可欠。
Ⅱ ローカル/グローバル/ネットワーク~全てに共通する意見
1.地域産業アップグレードによる成長促進と、安心・安全な経済・社会の構築に向けた国土の強靭(きょうじん)化
(1)地域産業アップグレードによるさらなる成長の促進
経済安全保障の観点から、効率優先・国際分業を前提とするサプライチェーンの在り方を戦略的に見直し、「戦略的ゆとり(リダンダンシー)」の確保と、国際的優位性のある産業育成を図る必要。
→医療・素材・食料・エネルギーなど戦略分野における国内回帰・地方分散、わが国の産業構造の転換、新たな成長産業の集積を見据えたインフラ・研究開発拠点の整備などにより、時代に応じた地域産業のアップグレードを後押しすべき
(2)災害などに対する経済・社会のレジリエンス強化
大規模災害などの脅威に対し、レジリエンス強化が急務であるが、わが国は、公共投資が削減されてきた結果、インフラの老朽化が進む。
→強い経済を実現するため、長期的展望・明確な戦略の下、ストック効果を一層重視しインフラ整備を進めるべき
(3)過度な一極集中の是正による都市と地方の共存共栄
・ 多くの地方圏は人口流出による地域経済の衰退が続く一方、大都市圏は、増加する人口ほどの成長が実現できていない。特に東京圏は過度な集中によって、生活面での非効率性などによる「負の外部性」が発生。
→多核連携型の国土形成に向け、危機管理・経済成長の両面から、本社・研究開発機能を含む国内拠点の地方分散、首都機能をバックアップする代替拠点の整備
→子育て・教育、医療・介護、モビリティなど地方公共サービス分野のデジタル化の推進など、地方圏においても利便性を享受できるデジタル環境の早期整備
2.多様性を受容し、魅力ある豊かでサステナブルな暮らしを創出する拠点・環境づくり
(1)デジタル技術を活用した、地域における新しい暮らし方・働き方の促進
・ コロナ禍を契機に進展したデジタル化は、地理的・時間的制約を減少させ、地域が直面する需要減少・人材不足を解決し得る。
・ 他方、IT企業の多くは大都市に集中しており、ベンダーロックインによる地方から大都市への雇用・所得の流出が懸念される。
→相互運用性・データ流通性・拡張容易性を備えた「データ連携基盤」の整備・地方展開や、デジタル拠点の地方立地などを通じて、地方でのデジタル産業の育成を推進すべき
(2)脱炭素社会への移行に対応した地産地消型エネルギーや新たな産業の構築
・ 自社のみならず、サプライチェーン全体の脱炭素化を進めるため、取引先に対して再生可能エネルギーなどの利用を求める企業が増加。脱炭素エネルギーの調達のしやすさが、企業立地や産業の集積に影響を及ぼす可能性がある。
・ 特にCO2排出量の大きい産業が立地する地域では、エネルギー転換(化石燃料→電化・水素化など)が円滑に進まなければ、地域の産業が空洞化する恐れも。
→地産地消型再生可能エネルギー源の確保、発電・蓄電・供給・消費が一体となった再エネ基盤の構築を
→カーボンニュートラル・コンビナートの立地促進などにより、脱炭素エネルギーなどの供給拠点の整備促進を
(3)多様なキャリアや価値観を持つ人材を引き付ける寛容性の高い地域づくり
・ 次世代にわたって「真の豊かさ」を実現するためには、多様なキャリアや価値観を持つ人材を引き付ける地域づくりが不可欠である。
・ 地域が多様な価値観を持つ人材を確保するためには、個人の働き方や暮らし方の選択肢を増やし、自らが決定できる「社会的寛容度」に着目した環境整備が求められる。
→創業・起業の促進や、農林水産業など地場産業のスマート化などにより、地方においても、若者、女性、外国人、高齢者など、多様な人材が活躍できる環境整備が必要
Ⅲ ローカル/グローバル/ネットワーク~各視点についての意見
1.ローカル
(1)都市構造の再構築に向けた取り組み
・ コンパクト+ネットワーク、ウォーカブルなまちなか創出などを推進する一方、コロナ禍の長期化により中心市街地は一層苦境に。
→民間の需要創造活動と連携した身の丈・連鎖的な市街地整備促進を通じてまちなかの魅力向上を
→公民共創による低未利用不動産(空き地・空き店舗など)の戦略的活用(オープンスペース活用、緑地転換、リノベ促進など)を
(2)地域資源を生かした魅力ある地域づくり
・ 定住人口、交流人口に加え、地域に多様な形で関わる「関係人口の拡大」に着目し、人々から選ばれる地域づくりが注目を集めている。
→地域の魅力を高める地域資源をストックとして捉え、その質を持続的に高めていくため、関係者とビジョンを共有し、人材・投資を呼び込む仕組みづくりが必要
(3)多様な価値軸による事業評価制度の新設
・ 国土のインフラ構築を経済価値や効率化の観点のみで事業を評価すると、削るだけの投資となるなど、国全体が縮小均衡に陥る恐れ
→B/C(費用便益比)にとらわれない評価制度の新設に向けた検討を
2.グローバル
(1)インフラの質的・量的向上による国際競争力の強化
・ 国力の増強、都市部と地方の共存共栄、国際競争力の強化などインフラが果たす役割は大きい。
→長期的視点に立った戦略的な投資によるインフラの量的・質的向上を
→スーパー・メガリージョンの早期実現により、首都機能バックアップ体制の整備、産業活性効果の全国的な波及促進を
(2)港湾・空港の機能強化
→クルーズ船などの航路充実や、港湾付随の物流機能強化を
→路線や空港施設、空港ビル機能など、空港の利便性向上を
(3)インバウンド再開を見据えた観光再生
・ 観光関連産業の再生・変革、観光需要の地方分散と高付加価値化が必要
→デジタル技術を活用した観光サービスの変革(観光DX)、地域資源を活用した観光コンテンツの高付加価値化を
3.ネットワーク
(1)地域間の連結による新ビジネス・イノベーションの創出
・ 途切れのないシームレスなネットワーク構築は、多核連携型国土を形成し、「ネットワーク効果」により製造・流通・観光など地域産業の活性化に寄与。
→高速道路、新幹線網の維持・拡充に加え、空港・港湾・鉄道駅・高速道路ICなどから、市内・産業エリア・観光地などをつなぐ2次・3次交通網の整備促進を
(2)地域内の移動を支える地域公共交通の確保
・ 鉄道・バスといった地域公共交通は地域経済の基盤であり、地域住民の移動を支える重要な社会インフラだが、人口減少やコロナ禍により厳しい経営状況が続く。
→地域住民の「ファーストワンマイル(自宅からの最初の一歩)」を支える地域交通の再生・再構築を(公設民営・公設民託方式の導入検討、地域交通のバリアフリー化促進など)
→多様な環境に対応したMaaSやグリーンスローモビリティといった新たな技術やモビリティの開発・実装を
(3)物流機能の維持と効率化に対する取り組みの推進
・ 物流は経済を円滑に回すために不可欠な社会インフラである一方で、物流需要と輸送能力のバランスが崩れつつあり、「物流クライシス」が起こりかねない状況。
→物流の自動化・標準化、オープンな共同配送網の構築などによる新たな物流システム(フィジカル・インターネット)の実現、物流と連動したまちづくりの推進を地域内の移動を支える地域公共交通の確保
最新号を紙面で読める!