人材なくしては、企業も地域の発展も望めない。とはいえ、ここ数年来のコロナ禍により業績も落ち込み、優秀な人材の確保が一層難しいという声も聞く。しかし、苦境だからこそ人材を雇用し育成することが、業績の向上だけではなく地域の未来も担うことにつながる。100年後の会社も地域も任せられる〝人財開発〟の育成に取り組む企業に迫った。
多様な働き方を認めて一人一人が活躍できる環境を整備
IT企業のキャップクラウドは、「生産性の向上」と「活躍できる人材を増やす」をテーマに、サービスを通じて多様な働き方を社会に伝える事業を展開している。同社自体も「働き方、パーソナライズ」の理念の下、働く場所や時間の選択肢を増やして、人材の確保・育成、社員の活躍、モチベーションの維持などにつなげている。
働き方選択制度で生産性向上と他社との差別化
コロナ禍でテレワークが普及し、多様な働き方が受け入れられつつある今日。2014年に設立したキャップクラウドは、「働き方、パーソナライズ」を理念に掲げ、早くから社員一人一人が自分に合った働き方を選べる「働き方選択制度」を実践している。
同社は主に、中小企業向けのクラウドソリューション事業と、山梨県富士吉田市における地域活性化事業の⼆つを展開している。前者は、勤怠管理や給与明細の電⼦化などのクラウドサービスの提供や、基幹業務処理を効率化するシステム開発。後者は、コワーキングスペース「ドットワーク富士吉田」の運営を通じて、地域に雇用や人流の創出を目指す。どちらも生産性向上を強く意識している。
「少子高齢化で労働人口が減少している今、これまでと同じ働き方では活躍できる人材の確保は難しくなります。多様な働き方を、サービスを通じて広く社会に伝えることをミッションとしています」と同社執行役員兼社長室室長の松永文音さんは説明する。
かつて同社は、東京本社に朝出勤して夜に退勤する勤務体制だった。平⽇昼間=仕事という融通のなさに働きづらさを感じたことをきっかけに、入社5年目だった松永さんは、インターン中から組織刷新に携わり、多様な働き方ができる社内制度づくりの旗振り役として活躍してきた。
「社員それぞれに事情があり、ライフステージによっても変わっていきます。それに合わせて働き⽅や働く場所が選べる仕組みをつくりたいと社⻑と何度も打ち合わせをして、本格的な仕組みづくりがスタートしたんです」と語る。
理由はほかにもある。周囲にIT企業が数多(あまた)ある中、自社のどこに魅力を感じてもらうかは採用面で大きな課題だった。働き方に選択肢があることが他社との差別化になり、優秀な人材の獲得にもつながると考えた。
富士山の見えるサテライトオフィス開設で地域と交流
そうした経緯から、新たなワークスペースとして18年に開設したのが「ドットワーク富士吉田」だ。同社社長の萱沼徹さんに、自身の出身地を盛り上げたいという思いがあったこと、また、都心から高速バスで約2時間とアクセスが良く、富士山が間近に見えて非日常感が味わえる環境にビジネスチャンスを感じたことが同地を選んだ理由だ。
「実際、富士吉田に事務所を構えてから、求人への応募者がすごく増えました。採用が決まって契約する際には、どこで働きたいか、どんな働き方なら活躍できるかなど、一人一人と話し合って雇用条件を決めています」
同社は本社、ドットワーク富士吉田、自宅のほか、同社のサービス「anyplaceパスポート」で提携したワークスペースが全国に300カ所以上ある。各自最初にメイン勤務地を設定するが、申請すればどの場所でもフレキシブルに働くことができる。
また、同社には社員、契約社員、アルバイトがいるが、業務によっては社員が業務委託の形をとったり、アルバイトが途中から社員になったりと、雇用形態も柔軟だ。
「働く環境を自由に選べることは、仕事のやりやすさや作業効率アップにつながり、会社の利益になります。働き方選択制度の導入前後の比較は難しいのですが、会社の売り上げは順調に伸びています」
社員が働き方を選べることで、互いに顔を合わせる機会が減り、孤立やモチベーションが低下する可能性もある。その対策として、部署ごとにZoomを常時接続し、朝と終業のあいさつのほか、困っている人がいたら声掛けしたり、仕事を指導したりできる体制をとっている。ビジネスに関することは、勤務地にかかわらずチャットワークを使って共有できるように配慮もしている。
どこでも仕事ができる仕組みで働きやすさと地域活性化を追求
また、ドットワーク富士吉田を単なるサテライトオフィスではなく、コワーキングの機能を持たせたことも大きいと、松永さんは語る。それにより社内外の人との交流が生まれて、社員が地元のフットサルチームに参加したり、富士吉田市に移住したりと、地域の活性化にも寄与している。
この流れをさらに加速させるべく、同社は今年度、「富士吉田市まるごとサテライトオフィス構想」を始動した。同市内の各所にワークスペースを用意し、それを複数の事業者がシェアすることで、低リスクかつ安価にサテライトオフィスを持つことができるという同市と連携した取り組みだ。
「今夏、サテライトオフィスの一大拠点として当社が運営する『ドットワークPlus』が、富士急行・富士山駅ビルの2階にオープンします。ワークスペース、人、宿泊施設、飲食店など、さまざまな情報を集めたビジネス版観光案内所の役目を果たすこの施設を起点に、ビジネスにまつわる交差点づくりを強化して、さらなる働きやすさと地域活性化に貢献していきたい」と松永さんは目を輝かせた。
会社データ
社名:キャップクラウド株式会社
所在地:東京都千代田区平河町2-5-3(本社)
電話:03-6824-1006
代表者:萱沼徹 代表取締役
従業員:30人
【富士吉田商工会議所】
※月刊石垣2022年6月号に掲載された記事です。
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