長引くコロナ禍により多くの食品製造・加工業者が業績の低下に悩んでいるが、一方で地域の特色を出したり、消費行動に対応したさまざまなアイデアや販売方法を駆使したりして業績を上げている食品製造業もある。そこで、コロナ禍という逆風に負けず、自社の味にこだわり奮闘している各地の“食のものづくり会社”の取り組みを追った。
高い志で障がい者とともにつくるスイーツで地域にも貢献
北海道岩見沢市にあるジューヴルは、障がい者が働く場として飲食店と菓子製造業を運営している。同社は障がい者支援という枠組みだけではなく、ベテランのパティシエを雇用し、地元生産者の農産物を使ってスイーツを開発しており、本物の味を追求している。地域貢献と障がい者の経済的自立を並行してできる企業を目指す同社代表の矢島幸子さんに、その思いを聞いた。
起業し障がい者が働く場を商工会議所と青年部が応援
同社は精神保健福祉士でもある矢島幸子さんが障がい者の経済的自立という社会的課題の解決を進めるため、2017年に設立した。運営する「patisserie soraka」(パティスリーそらか)では、就労継続支援B型の認可を受け、同店で販売する洋生菓子、焼き菓子、パンやカフェメニューの全てを、障がいのある施設利用者とともに製造販売する。パティシエが商品を開発し、障がい者個々の能力に合わせた細分化した工程で技術指導を行っている。重度の障がい者もプロのスイーツづくりに携わることができる組織体制を整備している。
「昔ながらの福祉施設は、障がいのある方がつくったので見栄えはよくありませんが社会貢献と思って買ってください、というものが多かったのです。でもそれでは売り上げは上がらないし、つくる側にもプライドが生まれません。だから、プロのパティシエが商品開発したこだわりのレシピでよいものをつくり、おいしいから買ってもらうという商売として当たり前のことをやっています」と矢島さんは語る。
福祉施設として、誰が何をどうつくるかという仕組みはできたが、起業当時は商売の仕方が分からなかった。そんな矢島さんを助けてくれたのが岩見沢商工会議所と同所青年部(YEG)だった。三重県出身で、いわゆるよそ者の矢島さんには不安が多かったが、YEGの仲間が応援してくれた。
コロナ禍で催事が中止でもYEGの協力で売り上げに
同社は直営店舗のほか、全国の百貨店での物産展にも出展し、福祉事業だからと言い訳しないことをモットーに業績を上げている。百貨店の催事出展は18年からスタートし、19年から本格化したが、20年は新型コロナウイルスの影響を受けて急きょ中止の連続となった。起業から3年後、チャンスが来た矢先のコロナ禍だった。
幸いにも矢島さんはコロナ禍直前、同店のリブランディングをしようとSNS活用の準備をしていた。催事用につくった菓子が余剰在庫となったが、SNSで在庫処分の旨を伝えたところ、YEGの仲間が買いに来てくれた。さらにSNSを積極的に使ったところ、遠方に外出できなくなった地元の人が来店した。カフェメニューのテイクアウトを増やしたこともあり、売り上げが増えた。
また、コロナ禍前に各社のバイヤーと卸売りの商談を進めていたことも功を奏した。生協の通販カタログに掲載されたり、東京などにある北海道のアンテナショップ「どさんこプラザ」で商品が販売されたりした。こうして販路が広がり、事業の柱の一つである百貨店の催事が中止になったにもかかわらず、20年の売り上げは前年比マイナス9%にとどまった。
矢島さんはこうした経験を踏まえ今後も販路を分散させようと考えている。現在の売り上げ割合は卸売りが25%、百貨店の催事が30%、店舗の売り上げが45%である。
商品で地域貢献と活性化プロの意見で開発・改良
同社では、地元で生産される米などの農産物を加工して菓子やパンを製造販売しており、グルテンフリーでデザインも重視しているため好評を得ている。また、岩見沢市観光協会関連施設のオリジナル商品を開発するなど、地域活性化にも貢献している。
矢島さんは自社商品について「地産地消と地産他消」を掲げている。地元の素材を使った商品をしっかりと食べて、この土地の恵みを味わってもらうのが「地産地消」である。そして次に、矢島さんが商品を百貨店の催事などで販売して全国の人に知ってもらうのが「地産他消」で、販売しながら岩見沢のことを広く伝える。そうすると、地元の人が喜んでくれる。「地産地消と地産他消」はこのような相乗効果を狙っている。
同社は、店舗や催事ではエクレアなどの洋生菓子を中心に、卸売りでは日持ちのする豆菓子や焼き菓子を主に販売しているが、各社のバイヤーが集まる商談会には洋生菓子から焼き菓子まで全ての商品を持参する。商品開発や改良にはバイヤーの意見も参考にするためである。例えば、看板商品のエクレアはバイヤーの意見により、以前よりも形を少し細くしてスタイリッシュにした。矢島さん自身がSNSなどで他社の商品をチェックして「映える」見た目にすることもある。
「パティシエやバイヤーといったプロの意見に加えて、どのような工程にすれば障がいのある方が作業しやすいか、スタッフと一緒に考えます。それが一般的なスイーツ店とは違うところ」というのが、同社ならではの工夫である。
障がい者が誇り持ち生きる女性起業家大賞「優秀賞」
矢島さんは、福祉施設でつくっている商品であるということを前面には出さない。理由は「スイーツに必要な情報ではないし、彼らのプライドにもつながらないから」だという。障がい者の中にはパティシエを目指す人もおり、製菓の国家資格を取得したいと考える人には同社がバックアップを行っている。
「例えば、社会人になりたてのときにもらったお給料は誰でもうれしいように、自分でお金を稼げるようになるのはうれしいですよね。だから、彼らも自分で稼げるようになって自立できるよう、単なるはやりものではない『売れる商品』をつくりたい。人としての幸せと喜びのため、プライドを持てる商品をつくりたいんです」
障がい者が誇りをもって生きていける雇用の創出に積極的に取り組み、持続可能な開発目標(SDGs)が達成できるよう努める同社の活動は高く評価され、20年に全国商工会議所女性会連合会が主催する「第19回女性起業家大賞」スタートアップ部門の優秀賞を受賞した。続く21年には経済産業省の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」人材育成部門に選定された。
同社では「障がいのある方を一人でも多く雇用する」「重度の障がいがある方でも働けるような設備投資をする」という目標を掲げており、これから数年以内に製造所を拡張したいと考えている。設備投資をして可能な部分は機械化し、売り上げを現在の5倍にすることが当面の目標である。
「とはいえ、今後ビジネスが拡大して販路が広がっても、岩見沢の店舗はしっかりと営業して、地元のお客さまをお迎えできるように続けていきたいと思っています。岩見沢を大事にすることが私のポリシーです」と、矢島さんは地元愛を語った。
会社データ
社名:株式会社ジューヴル
所在地:北海道岩見沢市6条西1丁目4番地3
電話:0126-35-1945(patisserie soraka内)
HP:https://www.jouvre-inc.com/
代表者:矢島(現姓 池添)幸子 代表取締役
従業員:19人(福祉的就労25人)
【岩見沢商工会議所】
※月刊石垣2022年7月号に掲載された記事です。
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