基本的な考え方
・ コロナ禍の出口は見えつつあるが、足元では、急激な円安が資源価格などの高騰に拍車をかけ、複合的要因による物価上昇が国民生活や企業経営に甚大な影響を及ぼしている。
・ 今後も円安や物価上昇が見込まれる中で、現状をわが国経済が諸外国並みの経済成長、生産性向上、物価上昇、賃金上昇の好循環に向かう契機と捉えて、デフレマインドからの脱却を図るべきである。一時的には痛みが生じるため、政府には真に困窮する者の再建へのきめ細かな支援を求めたい。
・ 日常生活が回復する中、人手不足が深刻化し、多くの中小企業はコスト上昇分を価格に転嫁し切れず、収益が圧迫されながらも人材確保のための賃上げに取り組まざるを得ない状況に直面。
・ 中小企業の自発的な賃上げには、原資の確保が不可欠。BtoBでは「パートナーシップ構築宣言」の実効性を高め、取引適正化を進める。BtoCも勇気を持って価格転嫁できる環境が必要。
・ 投資や賃上げの原資となる付加価値拡大に向けて、事業再構築など、中小企業の自己変革への取り組みや円安を活用した輸出拡大やインバウンドなどを強力に後押しする対策の拡充が必要。
・ 国内投資は、生産性向上やイノベーションを喚起し、良質な事業と雇用を生み出す原動力。デジタル化、脱炭素など、成長分野への長期計画的な政府支出で企業の成長期待を高め、民間投資を大胆に呼び起こす対策が必要である。
・ 「停滞から変革」への転換期を迎える中、地域総合経済団体である商工会議所は、地域の官民連携の中核となり、社会課題の解決と経済成長の同時実現を目指し、生き残りをかけた中堅・中小企業・小規模事業者の挑戦を一丸となって伴走型で支援していく。
・ 政府には、物価高を克服し、中小企業の自己変革や投資を呼び起こす経済対策とビジネス環境整備を強く求めたい。
Ⅰ 足元の物価高、コスト増の克服に向けた対策
1.エネルギー価格高騰への対策と原発再稼働を含めたエネルギー安定供給
(1)エネルギー価格高騰対策と省エネ・脱炭素への取り組み支援の強化を
・ ガソリン価格や電力料金高騰への負担軽減策が必要。一方で、市場メカニズムをゆがめる恐れあり
・ 企業と家庭の省エネ・脱炭素の取り組み支援を拡充し、エネルギー危機を乗り越えることが必要
【主な要望】
○省エネ・脱炭素に関する情報提供の強化と設備導入・更新に対する資金面での支援の拡充
○企業間連携によるサプライチェーン全体の省エネ・脱炭素の取り組みに対する支援の拡充
○地域における企業間・産官学連携によるエネルギーの地産地消、地域脱炭素の取り組みへの支援の拡充
(2)原発早期再稼働を含めたエネルギーの安定供給を
・ 原油やLNGの安定確保のほか、電力安定供給のため、既存原発の早期再稼働や運転期間の延長、次世代革新炉の開発・建設を含めた原発の位置付け明確化など、原子力政策の一層の加速化
2.コスト上昇分を価格に転嫁できる取引適正化の一層の推進
・ 「パートナーシップ構築宣言」宣言企業の増加への周知、宣言企業へのインセンティブの拡大
・ 同宣言の実効性確保に向けた取り組み強化、下請Gメンによる実態把握や取引適正化対策の徹底・監視強化、下請中小企業振興法に基づく助言・指導の実施に加え、悪質な企業は企業名を公表するなどの踏み込んだ対応が必要
・ 国と地方自治体が連携した円滑な価格転嫁に資する取り組みの一層の推進
3.真に困窮する事業者の再建への取り組み支援
・ 年末・年度末を見据え、事業継続に向けた、実情に合わせた最大限の資金繰り支援の徹底(既往債務の条件変更、実情に応じた超長期間での借り換え、新規融資や資本性劣後ローンなど)
・ 活動制約の影響を大きく受け、過剰債務などに苦しむ、飲食・宿泊・観光・イベント・交通運輸業などの事業者に対する事業再生支援の一層の強化
Ⅱ 中小企業の自己変革や人材育成など、潜在成長率を底上げする対策
1.DXやGXによる生産性向上など、中小企業の自己変革への挑戦支援
・ デジタル化による生産性向上、事業再構築、設備投資、販路開拓、収益力回復や事業再生・再チャレンジ、事業承継・第二創業、創業・スタートアップ支援など、中小企業が持ち前の自己変革力を最大限発揮できる対策の拡充とビジネス環境整備
・ 支援策を含めたロードマップを早期提示し、企業の予見可能性を高め、GX投資の拡大支援
【主な要望】
○事業再構築補助金、生産性革命推進事業の拡充・基金化
○中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制の延長、研究開発税制などの延長・拡充など
○研究開発・技術支援を推進する機関などによる中小企業の技術開発から製品化までの一貫支援
○インボイス対応も見据えた、バックオフィス業務のデジタル化の伴走支援・専門家支援体制の拡充
○サプライチェーン全体のサイバーセキュリティ強化に不可欠な、中小企業の対処能力向上支援
2.賃上げやリスキリングなど「人への投資」の拡大
(1)中小企業の賃上げや人材確保・育成投資への支援の拡充を
・ 投資や賃上げ原資となる付加価値を生み出すエンジンは人材。生産性向上に資するリスキリング、副業人材の活用など人材育成を含め、賃上げに挑戦する中小企業への税制や助成措置の拡充
【主な要望】
○賃上げ実施企業に対する税制・助成制度の拡充(賃上げ促進税制の繰越控除、業務改善助成金など)
○生産性向上に資する従業員の能力開発への支援拡充(人材開発助成金など)
○成長分野・人手不足産業への円滑な労働移動の促進(未経験分野への就労を支える公共職業訓練メニューの拡充、業界との連携による求職者の能力開発から就職まで一貫した支援策の基金化)
○健康経営に取り組む企業への融資や自治体入札などへのインセンティブ措置のさらなる拡充
(2)「外国人に選ばれる日本」を目指した生活・就業環境の整備を(本文)
・ 将来のわが国の経済社会を支える外国人に対する日本語教育の拡充など生活・就業環境の整備とともに、特定技能の受け入れ対象分野の拡大、書類・手続きの簡素化などの推進
Ⅲ 円安を活用した外需取り込みや国内回帰などを促進する対策
1.中堅・中小企業の海外ビジネス展開の強力な推進
・ 当分の間、円安が継続することを想定し、円安メリットを最大限生かすため、越境ECなどを通じた中堅・中小企業の海外展開を強力に支援し、輸出を拡大
【主な要望】
○地域産品の共同出品や越境ECテストマーケティング事業など、越境ECへの取り組み支援の拡充
○地域官民連携で海外ビジネスの促進に取り組む商工会議所への支援強化(専門家派遣など)
2.インバウンド再開を契機とした観光再生と高付加価値化
・ 水際対策の緩和に伴い、円安メリットを背景にしたインバウンド観光需要の拡大が見込まれる。「全国旅行支援」も開始される中、インバウンド再開を契機とし、2025年大阪・関西万博などを起爆剤に、地方への交流人口・関係人口の拡大の取り組みへの支援強化
・ 「デジタル田園都市国家構想」が各地の創意工夫の下に進められるよう情報提供強化、地域の持続可能性を支える地域交通の再構築などを含めた成長基盤整備に対する予算確保・拡充
3.経済安全保障に向けた、製造業などの国内回帰とサプライチェーン強靭(きょうじん)化の推進
・ 地政学リスクが高まる中、円安急伸で生産拠点の国内回帰が始まるなど半導体はじめ重要物資の国内での供給網整備を進める好機を迎えている
・ サプライチェーン途絶によるカントリーリスクが大きい重要製品などの国内生産拠点やサプライチェーン強靭化に係る補助金の増額と継続的な支援を支える基金の創設。重要技術の育成に係る支援を増額し、スタートアップや技術を有する地域の中小企業などが参画しやすい環境整備
・ 経済安全保障への官による介入は、明確なロジックの下に限定して実施すべき
・ 諸外国の高度な人材・技術・豊富な資金を呼び込み、海外経済の活力を各地域に取り込むため、対日直接投資を強力に後押しする税制や補助金などの支援の抜本的な拡充
Ⅳ コロナマインドや将来不安の払しょくによる消費・需要喚起
1.コロナマインドの払しょくによる消費・需要喚起
・ 新型ワクチンの接種と治療薬の早期承認と供給を急ぐとともに、第8波の感染拡大やインフルエンザとの同時流行が発生しても耐えられる保健・医療提供体制と活動を止めず回していける出口戦略を明示し、国民のコロナマインド払しょくによる消費・需要を喚起
・ 新型コロナを日常的な病気として共生していくため、感染症法上の2類から5類相当への見直し
・ 人流回復に向け、諸外国を参考に、日本だけの過度な規制は早期に緩和・撤廃
【主な要望】
○新型ワクチンの計画的接種の促進と、国民への各種ワクチンの効果や副反応などの適切な情報提供
○治療薬の早期承認と広く医療機関などで活用できる安定供給に向けた体制整備
○コロナとインフルエンザ同時流行に備えた保健医療体制整備、両方を検査できるキットの早期供給
○マスク緩和などのさらなるメリハリのある対策、業種別ガイドライン見直しによる過度な規制の緩和
○新たな感染症危機に備えた、平時から非常時への円滑な移行対応が可能となる感染症法などの改正
2.将来不安を払しょくする社会保障制度改革などの断行
・ 将来への不安が国民の消費や投資意欲を委縮させている
・ 社会保障制度改革や将来的な財政再建への道筋提示、人口減少対策などへの本腰を入れた対応
最新号を紙面で読める!