ドラマ、映画、舞台と大活躍の俳優の城田優さん。抜群の歌唱力で音楽活動も、190㎝の長身とスペイン系ハーフの容姿を生かしてモデル業もこなす。だが、オーディションに落ちること100回以上。成功しないと言われ続け、それでも諦めなかったから今がある。劣等感にさいなまれても、才能を開花させた。
良くも悪くも目立つ周囲との〝違い〟
身長190㎝で容姿端麗。日本人の父とスペイン人の母を持つ、俳優の城田優さんは、5人兄弟の4番目で、3~7歳まではスペインで暮らしていた。幼少期から歌うことが好きで、テレビでドラマや映画、バラエティー番組を見てはまねをする子どもだったという。エンターテインメント全般に興味を持ち、「楽しむ側」ではなく「楽しませる側」になりたいと、13歳の時に自ら履歴書を作成し、芸能事務所に応募したというから、その熱意と行動力には驚かされる。
「親の反対もなく、かといって親に勧められたわけでもありません。学校の勉強も強要されたことはなく、子どものやりたいことに寛容な家庭で育ちました。でも好き放題ではなく、食事や掃除、人に迷惑をかけない行動などにはかなり厳しかったです」
しつけが行き届いた美少年で、日本語だけではなくスペイン語も堪能、英語も独学で学んでおり歌もうまい。事務所に入って引く手あまたと思いきや、城田さんは苦笑して首を左右に振った。
「オーディションに100回以上落ち続けました」
14歳で身長はすでに180㎝を超え、彫りの深い顔立ちは目立つが故に役にハマらない。スペインで暮らしていた頃はアジア人として揶揄(やゆ)され、日本の小、中学校では「外国人」として扱われてしまう。そして、容姿が夢に立ちはだかった。「人は見た目ではない」とよく言われるが、城田さんの場合は中身で勝負する前に見た目で区別され続けた。
「悔しい思いは数え切れないほどしました。オーディションも落ちてばかりで、泣いて帰ることもありました。『日本人離れしている』『背が高すぎる』、もっと辛辣(しんらつ)な言葉を浴びせられたことも少なくありません。それでも心が折れなかったのは、やっぱりエンタメが好きだからです。『みんなと違う』と言われ続けたことで、人一倍承認欲求が高まり、同時に諦めない気持ちが強くなっていきました」
そして、17歳でミュージカル『美少女戦士セーラームーン』のタキシード仮面に抜擢されたのを機に、風向きが変わっていった。
駆け抜けた20代から自分で考え、判断する30代へ
「抜擢されたうれしさよりも、悔しさがありました。僕は芸能人が多く在籍する堀越高等学校に進学したので、クラスメートに上戸彩ちゃんや山下智久君らがいて、すでに話題のドラマや映画に出演して活躍していました」
来る仕事は全て受け、とにかく全力で走り続けたと振り返る城田さん。舞台や映画で主演を務めるようになり、テレビドラマの出演も『ハケンの品格』『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』『ROOKIES』など話題作が増えていく。人気番組「オールナイトニッポン」のパーソナリティーやNHK大河ドラマ『天地人』で初の時代劇にも挑戦するなど、悔しさと焦燥感をバネに才能を開花させていった。気付くと休日は1日もなく、睡眠が2~3時間の日々が続いた。
「20代は走りながら、ひたすらインプットとアウトプットを繰り返すハードスケジュールで、もう頭の中がバグっているのが当たり前の状態でした」と笑う。
セリフを覚え、歌い、踊り、殺陣(たて)も決める。持って生まれた容姿は、いつしか城田さんの強力な武器となり、諦めない精神が才能を磨く努力となって実績につながっていった。とりわけミュージカルでは2010年に『エリザベート』でトートという人ならざる黄泉(よみ)の帝王の役で文化庁芸術祭演劇部門新人賞を、16年には読売演劇大賞優秀男優賞に輝く。だが、この二度の受賞の間に転機があった。
「きっかけとなった人や作品があったわけではないのですが、20代後半に、疾走し続ける働き方ではこの先、続かないと思うようになりました。たった一度の人生、やりたいこと、やりたくないことを整理しようと思って、仕事も『選ぶ』『選ばない』『つくる』の三つの軸で取り組むようにしました。仕事の規模やメジャー、マイナーにかかわらず、自分がやってみたいと思った仕事を選ぶ。それが7割で、残り3割は選ばない仕事。矛盾していますが、好きなものばかり食べていると栄養が偏ってしまうのと同じで、仕事もやりたいことだけに絞ると幅が狭まり、偏ると思うんです。好きな仕事だけやるという働き方は、まだまだ先の話。今はバランスよく栄養を取っていく時期です」と熱く語る。
一つの役を掘り下げつつ作品全体を支える側へ
そして、「つくる」という新たな領域に、城田さんは軸足を移しつつある。10年ほど前から演出にも興味を持つようになり、16年には演出家としてデビュー。19年にはミュージカル『ファントム』で、22年2月には『カーテンズ』で主演・演出を務め、好評を博した。台本を何度も直し、美術や照明、衣装などスタッフと打ち合わせを重ね、出演者全てのセリフ回しや演技指導もしながら、自分が担当する役の長セリフを頭にたたき込む。
「『カーテンズ』の時は、体重が9㎏も落ちました。役づくりでもストレスでもなく、常に頭をフル稼働していたらカロリーの消費が激しくて。主演と演出の二足のわらじは相当大変なので、どちらかを選べるなら今後は演出に力を入れていきたいです。裏方として作品全体に関わり、表現できることにやりがいと楽しさを感じています」とプロデュース業に意識を向ける。20年10月に芸能事務所から独立し、独立して1作目のチャレンジだったと『カーテンズ』を振り返るが「自己評価は78点」と辛口だ。
「既存の作品には何かと表現の制約があって、自由にできるところとできないところがあります。その中でどう表現するかが力の見せどころではあるのですが、一方で作品をゼロからつくりたいという気持ちもあります。独立して2年が過ぎ、来年からが本格的に城田優個人としての力が問われるフェーズです。表舞台に立つよりも裏方としての活動を増やしていく予定で、ジャンルもあえて絞らず、人と人との縁やタイミングで柔軟に対応したいです。海外での活動も興味がありますし、今はSNSで自ら発信することもできる時代。ジャンルレスにいろいろな場所、人との出会いを大切にしながら、全力で向き合っていきたいと思います」
billboard classics SNOOPY Premium Symphonic Christmas Concert 2022
城田さんがゲストボーカルとして参加する、今年で3年目を迎えたスヌーピーのクリスマスコンサートが名古屋、東京、西宮で開催されます。詳しくは以下のホームページをご覧ください。
https://billboard-cc.com/classics/snoopy2022/
城田 優(しろた・ゆう)
エンターテイナー
2003年に俳優デビュー以降、テレビ、映画、舞台、音楽など幅広く活躍。最近の主な出演作品に、ドラマ「TOKYO MER~走る緊急救命室~」(TBS)「カムカムエヴリバディ」(語り手)(NHK)、映画「コンフィデンスマンJP英雄編」「バイオレンスアクション」などがある。舞台では 10年にミュージカル「エリザベート」 で第65回文化庁芸術祭「演劇部門」 新人賞をはじめ、数々の賞を受賞。近年は舞台作品のプロデュース・演出も手掛ける。現在ミュージカル「キンキーブーツ」にローラ役で出演中。23年夏には演出・出演するミュージカル「ファントム」も再演される
写真 ・ 後藤さくら
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