「ものづくりサービス企業」を掲げる日本ツクリダスは、金属加工、生産管理システム開発・販売、デザイン制作を中心に、PC機器販売、コンサルティングも提供する。昨年、同社は全国中小企業クラウド実践大賞「近畿総合通信局長賞」を受賞した。高評価されたのは、自社開発した生産管理システム「エムネットくらうど(M:net)」だ。
現場の見える化を重視した生産管理システムを開発
2009年に代表取締役の角野嘉一さんの個人事業(ホームページの作成・相談業務など)として創業、13年に株式会社に法人化し、機械部品などの販売商社として事業を開始した。
歴史が新しい同社は、IT導入には積極的だった。現在は、コミュニケーション、フロントオフィス、バックオフィスの三つのカテゴリーで、用途に合ったクラウドツールを採用している。例を挙げれば、コミュニケーションでは、業務連絡に中小企業向けビジネスチャットの「Chatwork」、情報共有では社内掲示板にグループウエアの「GoogleWork space」、フロントオフィスでは、営業管理にタスク管理ツールの「Trello(トレロ)」、名刺管理の「sansan」、文書管理の 「Dropbox」、メイン管理ツールとして、後述する自社開発の「エムネットくらうど(M:net)」、オンライン会議には「Zoom」など。バックオフィスでは、スマホでタイムカード打刻ができる「ジョブカン」、会計に「Money Forward クラウド」などを使っている。数あるクラウドサービスの中から、自社の業務に合った使いやすいものを選択している。
同社は多品種小ロットという業態のため、毎月800図面から1000図面の注文を受けると角野さんは言う。
「1図面1個という注文が多いので、毎月1000種類ほどの製品を自社3割、協力会社7割に分けてつくっています。そのため、自社ではどの注文を誰が担当して、どこまでできているのか、協力会社に発注した分については、発注管理から納期管理までが必要になります」
そこで生産管理システムの出番になる。生産管理システムは一般に①生産計画、②現場や工程の見える化、③集計・分析という三つのパーツがひとまとめになったもの。ところが、角野さんは「多くの生産管理システムは、①生産計画と③集計・分析には強いのですが、②現場の見える化の対応が弱い」と既存のシステムでカバーしきれない部分があると感じていた。
「生産計画をきちんと立てることができれば、後の工程はスムーズに流れるという考えなのでしょう。でも、当社では生産計画の部分は社員がなんとかするので、②現場の見える化がしたかった。現場が見えていなければ、生産計画を立てることができないからです」
角野さんはこうも考えた。製造の途中で不具合が起きたときは、生産計画の修正に時間を使うよりも、不具合に対応した方がいい。それで手が足りなくなったら、別の人に応援に入ってもらえば、いつの間にか元の状態に戻る。
そこで角野さんは、会社設立早々に「町工場向け」の生産管理システム「エムネットくらうど」の自社開発を決断し、システム会社などの協力を得て14年に完成させた。テスト運用を始めると、変化を避けたい一部の社員から反発が起こった。そこで角野さんは、「全ての機能を使わなくてもいい、自分の業務に役立ちそうな、便利そうな機能だけを使ってもらえばいい」と説いた。社員の反発も織り込み済みの設計になっていたのだ。そうやって便利さを実感してもらっているうちに、反発の声が消え、全社員がほとんどの機能を利用するようになった。
現場の見える化によって考えて動く人材が育つ
現場の見える化により、同僚の作業の状況が分かるようになり、助け合ってチームワークがよくなった。だが、恩恵を受けたのは、生産現場だけではなかった。例えば営業宛てに顧客から生産状況の問い合わせが来たとき、営業担当者は現場に電話をかけずとも(現場の作業を止めなくても)、「エムネットくらうど」の画面を見れば即座に答えられる。
検査担当者の悩みも解消されたと角野さん。
「以前なら検査担当者の前に完成品がぽんと置かれて、『今日中に出荷するから検査して』『無理やし』というやりとりがありました。「エムネットくらうど」導入後は画面を見て、検査の準備ができます。もっと言えば、工程の遅れに現場が気付いていないことを検査担当が気付いて教えるケースだってあります」
このように社員が自社の仕事に関心を持つことで考えて動く人材が育つと、角野さんは喜ぶ。
「エムネットくらうど」は14年10月から社外販売を始め、すでに112社が導入している。今後はコミュニケーション機能の強化などが予定されており、町工場のツールが一層使いやすくなる。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・ 設立当初からIT導入には積極的だった。しかし、社員のITスキルには差があるため、8年かけて簡単で小さなデジタル化をコツコツと積み重ねた
・ 要となる生産管理ソフトは価格が高く、高機能・高性能な分、扱いが難しく自社開発を決断
導入したITシステム
・ クラウドアプリのChatwork、GoogleWorkspace、Trello、sansan、Dropboxなど
・ 自社開発生産管理ソフトの「エムネットくらうど(M:net)」
IT化後の状況
・ 町工場向けの「エムネットくらうど」により、現場の見える化が実現。納期遅れが激減し、取引先の評価が高まり受注が好調
会社データ
社名 : 日本ツクリダス株式会社
所在地 : 大阪府堺市南区豊田1540番地2
電話 : 072-290-2223
代表者 : 角野嘉一 代表取締役
従業員 : 25人
【堺商工会議所】
※月刊石垣2022年11月号に掲載された記事です。
〈お知らせ〉 日本商工会議所などで構成するクラウド実践大賞実行委員会は12月21日、「全国中小企業クラウド実践大賞 全国大会」をオンラインで無料配信する。
詳細はコチラ ▶ https://cloudinitiative.jp/#about
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