長引くコロナ禍や円安状況、中小企業にとっては逆境が続いている。しかし、小さくても特定の分野において国内はもとより世界でもトップシェアを維持している会社がある。独創的な発想による製品開発からトップシェアを維持し続けるグローバルニッチトップ企業の世界戦略に迫る。
長野県中野市に拠点を置く眼科医療機器専門メーカーのタカギセイコーは、製造下請け業から1971年に自社ブランドの眼科審査用機器を開発し、翌72年から海外展開を始めた。海外とのネットワークがない中、国際展示会の出展で地道に販路を拡大。〝メイド・イン・ナガノ〟のモノづくりで、世界に高く評価されている。
下請け業者から転身を図り海外に活路を見いだす
「大きな志や野心を持って海外に飛び出したわけではありません」
タカギセイコーの代表取締役社長の髙木一成さんは、そう言って苦笑した。同社の創業は1955年、医療機器と釣り具の部品加工の下請けからスタートし、医療機器の中でも眼科医療機器の受注が増える中、加工だけではなく、塗装や組み立ても請け負う一貫体制ができていったという。だが、取引先からの価格低減要求の厳しさから、71年に自社ブランドの眼科審査用機器を開発する。72年には医療用具製造業許可を取得して、下請け業者からメーカーへの転身を図った。そして、既存メーカーが市場を占める国内よりも海外に商機ありと判断し、同社は海外市場を開拓していったのだ。
「海外とのコネクションはなく、当時は英語が話せる社員はほぼおらず、初代も先代も話せませんでした。そこで注目したのが国際眼科学会です」
同学会は、眼科における世界最大規模のもので、医学専門分野の中でも最も古い歴史がある。4年に1回(2008年以降は2年に1回)開催され、開催国は毎年変わる。タカギセイコーは78年の京都開催に照準を定めて初出展を果たし、以後、海外で開催される学会にも出展を重ね、地道に各国との関係性を築いていった。
先駆的な製品を生み出し技術×PRで認知を獲得
「2017年に私が社長就任した時には30~40年の付き合いになる米国や英国、インドやパキスタンの販売代理店がありました。海外は、今でこそオンラインで簡単にコミュニケーションをとれますが、それでも国内よりは顔が見えにくい取引です。信頼を得て、関係を継続していくには確かな品質があってこそ。『壊れにくい』『性能がいい』という評価をいただけて今があります」と髙木さんは語る。
自社ブランドの開発は、失敗からの改良、改善の連続で、70年代から〝世界初〟を掲げる先駆的な製品開発に挑戦し続けたことで、世界で通用する技術力を磨いてきた。主力製品であるスリットランプ(眼球に光を当てて目の疾患を診察するマイクロスコープ)は、1986年の第25回国際眼科学会に、世界初の電動ズームタイプを披露したことで、一気にTAKAGIの名を高めた。世界市場で手応えを感じ始めたのは94年の改良版の発表以降。米国を筆頭に80カ国以上、輸出比率は約70%をマークするようになる。同社のスリットランプは国内でもトップ3のシェアを占めるまでに成長していった。
「高品質な製品は、製造現場の力がものをいいます。特にここ数年は、人材育成、設備投資にはかなり力を入れています。人材は技能検定取得の奨励制度やOJT(日常業務を通じた職業教育)、勘やコツに頼らない作業のマニュアル化・数値化など多角的に改革を進め、先進設備も毎年のように導入しています。ここ5年で製造量も増え、売り上げは約3割伸びています」(髙木さん)
拠点である長野県は精密機械工業が盛んだ。協力会社のレベルも高く、連携、調達もスムーズ。リソースの獲得やトラブル回避も含めて〝メイド・イン・ナガノ〟で輸出できるのも強みの一つだ。
先進国と新興国どちらもニーズは右肩上がり
同社の評判を聞きつけて、海外からのオファーもある。眼科医療領域で世界トップクラスのレーザーメーカー、オーストラリアのエレックス社では、レーザー照射時に用いる顕微鏡を手掛けた。認知拡大とともに、診察用から、より高度な手術用製品の開発が求められる機会が増えているという。さらに20年10月には眼科遠隔医療サービスを提供している日本のベンチャー企業、MITAS Medicalと資本提携し、スマートフォンを活用して遠方の眼科医と情報共有できる「MS1モバイルスリットランプ」を開発した。コロナ禍で完全ロックダウン体制をとった国々や、眼科医不足の新興国・発展途上国からの期待値が高く、新たなニーズの開拓も進む。
こうした取り組みが評価され、同社は22年1月に「はばたく中小企業・小規模事業者300社」の「需要獲得」分野に選出されている。今夏からの記録的な円安ドル高でさらに勢い付くように見えるが、「手放しで喜べない」と髙木さんは慎重だ。
「円安ドル高で原材料、電気はコスト高、それも月単位で上がっています。売り上げに比べて利益は少ないです。ドル以外の通貨の為替、競合メーカーの国の景気など総合的な分析が必要です。それに国ごとに独自の医療機器に関する法規制があって、法規制対応の専属スタッフ3人を雇用するなど海外市場の取引は複雑かつ難解です」と髙木さん。それでも、眼科医療機器の海外市場は「伸び代あり」と言い切り、先進国、新興国の両軸で海外展開は広げるという。今、注目しているのはアフリカ市場で、ヨーロッパに販売拠点を置き、顔の見える取引に努める。「守る」のではなく「攻める」姿勢で、トップを走り続けている。
会社データ
社名 : 株式会社タカギセイコー
所在地 : 長野県中野市大字岩船330-2
電話 : 0269-22-4511
HP : https://www.takagi-j.com/jp/
代表者 : 髙木一成 代表取締役社長
従業員 : 約190人
【信州中野商工会議所】
※月刊石垣2022年12月号に掲載された記事です。
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