2011年3月11日に起きた東日本大震災から12年の歳月がたった。課題が残るものの、東北各地の被災地では順調に復興が進んでいるように見える。地域一体となって取り組みを進め、被災地の完全復興へ加速度を上げている東北各地の"元気企業"を紹介する。
ものづくりの楽しさ伝えるブログやイベントで販路拡大
青森県弘前市にある弘前ブラザーは、青森県におけるミシンの普及を目指し1948年に設立された。現在はミシン需要の落ち込みに悩みながらも、専門店の強みを生かして「弘前ねぷた」のペーパークラフトを作成して公開したり、キッチンカーならぬ「ミシンカー」を導入したりするなど、ものづくりの楽しさをオンラインとオフラインの両方で広め、販路の拡大に成功している。
東日本大震災後に事業承継を決意
弘前ブラザーは、世界的なミシンメーカーであるブラザーの特約店で、家庭用ミシンや業務用刺しゅう機などさまざまなアイテムを販売している。業界全体でミシンは最盛期の1970年代には主力商品が1台10万円以上で、年間販売台数は約150万台だったが、近年では主力商品の価格帯は2万~3万円台で、年間販売台数は約50万台と、低迷しているという。
ミシン需要が落ち込む中、同社は機械の販売だけではなく、店内で洋裁教室を開催して手づくりの楽しさを伝えている。また青森県では2001年から毎年、弘前商工会議所が事務局となって「全国高等学校ファッションデザイン選手権大会(通称・ファッション甲子園)」が開かれている。優勝賞品はブラザーのミシンで、その賞品提供をメーカーにつないだのが同社の現会長だという。長年、ミシンによる地域貢献を続けている。
「洋裁教室ではハイスペックなミシンを使って自分の好きなものをつくれるので、洋裁好きの生徒さんたちが集まるコミュニケーションの場になっているんですよ」と言うのは、現社長の久保田宗さんである。
久保田さんは東日本大震災が発生した11年当時、青森県内の百貨店に勤務していた。同年、がんを患って入院し、長期の闘病生活を送った。それをきっかけに家業を継ぐことを決意し、父が社長を務めていた同社へ14年に入社した。
家業とはいえ「ミシンのことは何も知らなかった」という久保田さんは、ベテラン社員からミシンの修理を教えてもらった。その様子をスマホで写真撮影して「修理日誌」というブログを書いてホームページで公開した。
同社では店舗での販売のほかに大型商業施設での販売会も行う。当初、久保田さんが接客してもミシンは売れず、当時の社長(現会長)から「ミシンを買う気がない人に対しても、興味を引いて売り込む」と教えられた。そこで刺しゅう機搭載型ミシンを使って実演販売を行った。刺しゅうを使った手づくり商品をつくり、その制作過程もブログで紹介していった。
コロナ禍で家庭用が大人気その後再びミシン離れに
その後、メーカーがカッティングマシンを発売した。これはハサミやカッターを使わずにタッチパネル操作で紙や布を切ることができるもので、久保田さんはこれを使ってペーパークラフトなどをつくった。これも制作過程をブログで紹介したところ、県外から問い合わせが来るようになった。それまで同社では県外への販路はなかったため、久保田さんは「自分が動いた分だけ成果が出る」と手応えを感じたという。
同社が創立70周年を迎えた18年、久保田さんは代表取締役に就任する。その2年後の20年、新型コロナウイルス感染症が拡大し、予防のためのマスクが不足した。マスクを手づくりする人が急増し、家庭用ミシンが爆発的に売れた。同年1月~3月には同社でも在庫がゼロになるくらい売れ、メーカーにも在庫がなくなった。その後もコロナ禍の影響で同社に依頼される修理台数が例年の10倍ほどに増えた。
しかし、あれから3年がたって久保田さんは「おそらく今ミシンを使っている人は当時の購入者の2割以下ではないか」と再びミシン離れを危惧し、ライトユーザーが簡単につくれる巾着袋を紹介するなど情報発信を続けている。
「ミシンカー」を仕立て屋外イベントにも出店
久保田さんが社長になってから同社で増えたのが、青森県内で行われるイベントへの出店である。イベントで刺しゅうの実演をしていると人が集まってくるという。また、地元で知り合った「弘前ねぷた」の絵師の協力を得て、カッティングマシンを使ったオリジナルペーパークラフトや刺しゅう入り商品を制作したり、弘前特産のりんごに絵柄を施したりした。地元の畳店とコラボレーションした、誕生祝い用の「命名畳」もつくって販売している。
22年10月にはキッチンカーならぬ「ミシンカー」をつくった。それまでは店内イベントが中心だったが、ミシンカーで屋外イベントにも出店できるようになった。ミシンカーをつくる際には補助金を活用したため、弘前商工会議所に相談に乗ってもらった。
「ミシンそのものを売るというよりも、ミシンでこんなに楽しいことができることを伝えていきたい。弘前ブラザーという社名やさまざまな機械があることを知ってもらうための啓蒙(けいもう)活動です。あれこれ考えるよりも今できることをやって、それが積み重なり成功に結びつくと思います」
久保田さんは今後もブログやイベントなど情報発信を続けていきたいと意気込みを語った。
会社データ
社名 : 株式会社弘前ブラザー
所在地 : 青森県弘前市城東中央2丁目2-1
電話 : 0172-27-5291
HP : https://hirosakibrother.com/
代表者 : 久保田宗 代表取締役
従業員 : 8人
【弘前商工会議所】
※月刊石垣2023年3月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!