菓子処・金沢で100年超の歴史を誇る北陸製菓。同社が販売する揚げあられ「ビーバー」は、1970年の発売以来、地域で親しまれてきたソウルフードの一つだ。いくつかフレーバーがある中、富山湾特産の白えびの味わいを加えた「白えびビーバー」が、北陸地方限定商品ながら全国から注目を集めている。
地域に長年親しまれてきた菓子文化と味を残したい
「ビーバー」は、北陸地方で50年以上販売されている揚げあられである。北陸3県産のもち米に日高昆布を練り込み、鳴門の焼塩を効かせた味わいは、発売当時から忠実に守られてきた秘伝のレシピに基づく。さらに、サクサクとした食感は揚げる時間や乾燥の度合いによるもので、食べ始めると止まらなくなる。地元に親しまれてきたのも納得だが、そもそもなぜ商品名が「ビーバー」なのか。
「名前の由来はよく聞かれます。これは1970年に開催された大阪万国博覧会のカナダ館で展示されていたビーバー人形の歯と、あられを2本並べた形が似ていたことから、商品名になったそうです」と製造元の北陸製菓社長、髙﨑憲親さんは説明する。
同社は1918年に日本あられ株式会社として設立し、石川県産のもち米を使ったあられの製造でスタートした。その後現在の社名に変更して、ビスケットやカンパンの生産にも乗り出し、北陸を代表する菓子メーカーに成長した。とはいえ、ビーバーは同社がつくったものではなく、もとは県内の福富屋製菓が製造して70年に発売した商品だ。経営難に陥って96年に福屋製菓が事業を買い取ったが、そこも経営破綻して一時は市場から姿を消した。しかし、「この味をなくさないでほしい」という地元の要望を受けて、2014年から製造販売を引き継いだ。
「長年、地元に親しまれてきた菓子文化を残したいという思いがあり、同じレシピ、同じ製法でつくっています」
有名アスリートの動画投稿で人気に火が付く
北陸のソウルフードともいえる同商品が、全国区の人気商品へと階段を上り始めたのは2018年のことだ。同社が設立100周年を迎えたこの年、髙﨑さんは先代である父親に直談判の末、26歳で社長を引き継いだ。50年後も持続可能な会社であり続けるには、「北陸一の菓子ブランド」をつくることが必要だと考え、白羽の矢を立てたのがビーバーだった。
「ちょうど誕生50周年を迎えるタイミングでしたし、地元で根強い人気があります。ただ、メイン購買層は中高年で、正直、私自身もあまり手に取ったことがなかったので、子どもや若い世代にもっと商品を知ってもらう必要があると。そして北陸といえば、このお菓子! と言われるようにしたいと思ったのです」
同商品には当時、プレーン、白えび、のどぐろ味の3種類があった。それを周知させようと、SNSでの発信を強化した。商品キャラクターの着ぐるみをつくって、地元スーパーで試食品を配るなどの販促を開始する。イベントにも積極的に参加し、露出を増やしていった。キャラクターをモチーフにしたオリジナルLINEスタンプも制作した。さらに、プレーン味の販路を北陸限定から全国のスーパーに広げ、19年7月にはカレー味を発売した。
そんな矢先、思いもよらないことが起こる。NBA(北米男子バスケットボールプロリーグ)で活躍する八村塁選手が、出身地である富山県名産の白えび味のビーバーをチームメートにお裾分けしている動画をアップすると、瞬く間に拡散されたのだ。
「まさに寝耳に水の出来事でした。全国から問い合わせが殺到して製造が間に合わず、一時は商品が店頭からなくなったこともありました。白えび味は北陸3県でしか販売されていない商品なので、全国から取り扱いたいとオファーが舞い込みました」
しかし、髙﨑さんは北陸に特化して販売する道を選ぶ。目指すのは「北陸一の菓子ブランド」であり、北陸でしか買えないという希少性を優先した。
さまざまなコラボ企画で全国的な知名度を上げる
同社はその後もさまざまなプロモーションを仕掛けていく。例えば、22年秋、八村選手が出場したNBA Japan Games 2022(さいたまスーパーアリーナ)の公式スポンサーに名を連ね、来場者に同商品を配布した。また、地元のプロバスケットボールチームの支援にも力を入れ、バスケットボール大会の開催にも尽力している。「ドラえもん」のオリジナルデザイン缶や、映画「すずめの戸締まり」とタイアップして限定パッケージのビーバーを発売したり、アニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」ともコラボレーションしたりするなど、新たな客層の開拓に向けた活動を積極的に展開している。
積極的なPR活動が功を奏し、同商品は目標としていた「北陸ナンバーワンの米菓ブランド」を20年に達成、売り上げも7~8倍に急伸した。今後も白えび味と、のどぐろ味は北陸限定での販売を継続するが、それ以外の味については全国、さらに世界にも広く届けていく予定だという。
「時代が目まぐるしく変わっていく今、当社の商品をより多くの人に知ってもらうための体制強化に集中したい。女性や母親目線を大いに生かして、幅広い世代の人に食べてもらえるお菓子に育てていくつもりです」と髙﨑さんは明快に語った。
会社データ
社名 : 北陸製菓株式会社(ほくりくせいか)
所在地 : 石川県金沢市押野2-290-1
電話 : 076-243-1000
HP : https://hokka.jp/
代表者 : 髙﨑憲親 代表取締役社長
設立 : 1918年
従業員 : 110人
【金沢商工会議所】
※月刊石垣2023年5月号に掲載された記事です。
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