コロナ禍を乗り越えて前へ踏み出す「Beyondコロナ」の時が来た! 国内外の社会・経済も活発化してきている。今や人の活動が積極化し、AI技術が加速するなど、社会全体が大きな変革期に入っているともいえる状況だ。そこで、コロナ禍の逆境もチャンスと捉え、一歩先を見据えた経営を進める地域企業の取り組みを紹介したい。
海外向け動画を自社制作し新たな営業ツールとして活用
福井県福井市にある松浦機械製作所は、世界を相手にものづくりをしている工作機械メーカーである。海外顧客との取引が多い同社では、コロナ禍によって「自社工場まで足を運んでもらう」というこれまでの営業スタイルがとれなくなった。そこで営業担当者からの提案もあり、動画制作を開始し、新たな営業ツールとして活用して認知度を上げている。
精度にこだわるものづくりグローバルニッチトップも
松浦機械製作所がある福井県は古くから繊維の産地で、それに伴い機械産業も発達してきた。1935年に旋盤の生産と販売から始まった同社は「人のやらないことをやる」という哲学の下、徹底して精度にこだわったものづくりを行い、70年代には従来の横形ではなく立形マシニングセンタを開発して米国ヘ輸出を開始した。マシニングセンタとは、金属などの加工に必要な工具を自動で交換できる機能を備えており、穴あけや平面削りなどの切削加工を1台で行うことができる機械である。
90年代には無人運転対応5軸マシニングセンタを開発し、72時間連続無人運転を可能にした。5軸加工はマシニングセンタの3軸(X・Y・Z)に、回転と傾斜の2軸を加えた切削加工である。同社は「5軸制御立形マシニングセンタ」で経済産業省が選定する「2020年版グローバルニッチトップ企業100選」に選定されている。
コロナ禍で工場見学できず自社で動画制作を開始
同社の売り上げは北米が約4割、欧州が約3割、日本を含むアジアが約3割と海外との取引が多く、米国やドイツなど世界6地域に営業拠点もある。多品種少量生産向けの機械を自動化や無人化するのが同社製品の大きな特徴で、工作機械の中でも高性能で高価格な製品だけに、海外からも本社へ工場見学に来てもらい品質の良さを分かってもらうという営業スタイルだった。このため20年以降は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を大きく受けた。
「コロナ禍でわれわれも海外へ行けず、お客さまも来ることができなかった。どうやって商売しようかと悩みました」というのは同社社長の松浦勝俊さんである。
海外拠点の営業担当者から、見込み客に対してアプローチするためにオンラインマーケティングが必要という強い要望があった。このため急きょ、本社の若手社員2人による「DX推進室」を立ち上げ、海外向けに社長が英語でメッセージを伝える動画やそれまでリアルで行っていた工場見学の動画を自社で制作した。
「YouTubeで他社の工場見学動画を検索して研究しました。CG映像や空撮など予算がかかるものを使わずに社内の人が工場を案内する動画があり、これなら自分たちにも撮影できそうだと思いました」と振り返るのは同社DX推進室長の松浦悠人さんである。松浦室長が重視したのは情報発信のスピード感で、動画制作を外注していたのでは遅いと思ったという。使用した機材はハンディカメラとノートパソコンで、編集は編集ソフト(毎月5千円程度のサブスクリプション)を使った。カメラは後にスマホを用いるようになった。これらを使って同社では、SNS向けの短いものも含めると1年間で約300本の動画を制作し、YouTubeなどで公開した。
動画を制作するうちに松浦室長は「お客さまからの質問に対する答え(FAQ)も動画にしよう」と考えた。それまで同社では機械に関する問い合わせは電話が中心で、その対応に人も時間も割いていたからだ。FAQ動画は誰もが見られるサイトではなく、同社が発行するIDとパスワードを取得した人だけが見られる「My Matsuura」というサイトで公開し、顧客から好評を得ている。
一方で社内からは、動画によって情報発信することに「そこまで見せていいのか」という懐疑的な意見もあった。工作機械メーカーは保守的な会社が多く、独創的な技術を持つ同社は特にその傾向が強いのだという。しかし松浦社長は「次世代へ引き継ぐ上でもDXという意味でも、まずはわれわれが変わらなければならない」と判断した。
福井初「DX認定事業者」若い感性で認知度アップ
同社の動画戦略により、21年7月には経済産業省の「DX認定事業者」に福井県で初めて認定され、福井商工会議所で松浦室長が講演するなど注目されるようになった。リアルの展示会開催時には「動画で見た人だ」と言われたり、周辺機器メーカーからコラボレーション動画の要望もあったり、オンラインとリアルの融合を肌で感じているそうだ。「当社は規模が小さくて認知度が高くないので、そういう機会が増えたのはよかったです」と松浦室長。同社経営企画室長の高橋英郎さんは「当社の動画制作などの取り組みは若い感性で会社の知名度を上げている事例だと思います」と評価している。
今後について松浦社長は「福井の地にあって社員の95%が県内でローカルだが、福井の人の良さを感じながら、これからも商売はグローバルに展開していきたい」とさらなる発展に意欲を見せた。
会社データ
社名 : 株式会社松浦機械製作所(まつうらきかいせいさくしょ)
所在地 : 福井県福井市東森田4丁目201番地
電話 : 0776-56-8100
HP : https://www.matsuura.co.jp/japan/
代表者 : 松浦勝俊 代表取締役社長
従業員 : 393人(2022年12月末現在)
【福井商工会議所】
※月刊石垣2023年7月号に掲載された記事です。
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