風月フーズは、昭和の時代から稼働しているオンプレミス(社内保有・運用)情報システムのクラウド移行を成功させ、「全国中小企業クラウド実践大賞2022 BizHint賞」を受賞した。同社の課題解決手法は、IT導入やIT刷新を計画している経営者のヒントになるはずだ。
イノベーターを目指す若き社長の決断
風月フーズの創業は1949年5月、創業者の福山正直さんが福岡市の西鉄福岡駅前にあった西鉄街に喫茶店「風月」を開業。その後、菓子事業、空港飲食事業、高速道路サービスエリア(SA)事業、レストラン事業……というように事業を拡大していった。
社長の福山剛一郎さんは4代目後継者候補として2008年に入社。各部署を経験する中で、成長を続けるためには、組織内のコミュニケーション不足とスキルやデータの属人化の解消が急務と感じていた。
「当時は、縦割りの組織病にかかっていたのだと思います。複数の事業を展開しているので、働く場所も工場、レストラン、空港売店、SAとさまざまです。そのため、自分はこの畑の人間と決めてしまうと隣の部署に関心を抱かなくなったり、商品の作り手はつくることだけに目を向けて、その先のお客さまに目が届かなかったりといった弊害が生まれていました。データは共有されておらず、判断は、それぞれの経験と勘です。これらの課題を解決するためにデジタル化、DXに取り組もうと考えたのです」
20年4月、社長就任。コロナ禍による売り上げ急減という難しい時期のバトンタッチだったが、星野リゾート社長の星野佳路さんの「ファミリービジネス(同族企業)における事業承継者はイノベーターになれる」という言葉に勇気をもらった。大企業の経営者は大胆な若返りが難しいが、ファミリービジネスは親から子へ一気に30歳ほど若返るので、イノベーションを起こしやすいという趣旨だ。
福山さんは、就任早々の6月、オンプレミスの基幹システムなどのクラウド移行を前提とした「次世代システムプロジェクト」の部署を横断したチームを発足。多くの従業員に意志決定に参画してもらうよう議論を積み重ねた。サポート役として、組織開発コンサルティングのライクブルー、Google CloudインテグレーターのG-genとパートナーシップを組んだ。
システムは一択ではなく、複数の選択肢を検討してから選ぶようにした。議論には福山さんも加わったが、社長の"推し"だから通るということもない"民主的"なプロジェクトに取り組んだ。
スモールスタートと丁寧な移行支援
次世代システムプロジェクトは、まずクラウドベースのグループウェア「Google Workspace」(コミュニケーションや業務効率化を促進するツールが組み込まれている)を中心に複数のクラウドサービスの導入を決めた。
基幹システムの移行では俯瞰(ふかん)図をつくって全体像を把握した上で、財務会計、勤怠管理、給与計算、受発注システムなどの各業務を切り出して、徐々にクラウド管理へ移行した。
従業員全員に影響があるシステム切り替えは、「スモールスタートを方針とし、ハードルの低いところから手を付けた」(経営企画課係長の金山淳也さん)。紙とメール、電話、対面で行われていた報告事項はチャットツールに切り替えてデジタルの便利さを体感してもらった。紙のタイムカードからスマホやタブレットを使ったシステムによる打刻に移行するときは、事前に一部の拠点で体験してもらい、「問題の洗い出し→情報共有→説明会の実施→サポート窓口の設置というように管理職や従業員に不安を抱かせない態勢を敷いた」(金山さん)。
さらに、「Zoom」による全社朝礼を行い、「スライド」を使って仕事の取り組みや成果を発表する「風月甲子園」を開催するなどして、従業員全体のデジタルスキルの底上げを進めていった。"既製品"で賄えない業務―例えば約3000アイテムあるSA売店の棚卸し業務に対して、ライクブルーと共同で、Googleのノーコード開発ツール「AppSheet」(プログラミングの知識やスキルがなくてもアプリが開発できる)で棚卸し業務アプリを作成した。この成功体験から、福山さんを含めた社員6人が参加した勉強会「FFTech Camp」の定期開催が決まった。
クラウド化によってデータの集約・蓄積が可能になり、販売促進やマーケティングに活用できるようになった。福山さんは「新たに、データと天候予報などを組み合わせたAIによる売り上げ予測をスタートしたのですが、まだまだ未熟であるため、運用レベルを上げていきたい」と次の目標を示す。生産性向上、省資源効果も現れており、福山さんが願ったデータドリブン経営(データを用いた経営)の実現も近い。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・ 社内の伝達は紙とメール、電話、対面が混在しており、コミュニケーションと情報共有に難があった
・ 約30店舗の売り上げ情報をFAXで送受信。本社でExcelに手入力していた
・ 基幹システムの更新費用、保守費用の負担が大きかった
導入したITシステム
・ 「Google Workspace」を中心に、各種クラウドツールを導入
IT化後の状況
・ 売り上げ情報は各店舗でスプレッドシートに入力。自動集約されて情報共有が実現した。データは販売促進やマーケティングに活用できるようになった
・ 年間1万3000枚分のFAX用紙を削減
・ 全社で1日300分、年間1800時間の作業時間が削減された
会社データ
社名 : 風月フーズ株式会社(ふうげつふーず)
所在地 : 福岡県福岡市南区野間1丁目11番8号
電話 : 092-551-0031
HP : https://www.fugetsu.co.jp/
代表者 : 福山剛一郎 代表取締役社長
従業員 : 約500人(パートを含む)
【福岡商工会議所】
※月刊石垣2023年7月号に掲載された記事です。
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