Q 社員有志が作成した動画をイベント会場で上映したいと考えています。当該動画には、人気アーティストが歌唱する楽曲を背景音楽として組み込んでいます。当該楽曲に関して何らかの許諾を受ける必要があるのでしょうか。
A 動画に背景音楽として組み込むことは、楽曲のうち歌詞・曲を複製することになるため、歌詞・曲の著作権者から許諾を得る必要があります。歌唱している実演家である人気アーティストの著作隣接権(実演家の録音権)も働くため、アーティストからの許諾も得る必要があります。さらに、当該楽曲を固定したレコードにかかる著作隣接権(レコード製作者の複製権)も働きますので、当該権利者の許諾も受ける必要があります。
楽曲に関する著作権法上の権利
楽曲に関する著作権法上の権利としては、おおむね、①当該楽曲の歌詞に関する著作権、②当該楽曲の曲に関する著作権、③当該楽曲(音)を固定したレコード(原盤)に関する著作隣接権、④当該楽曲を歌唱するアーティストが存在するのであれば、当該アーティスト(実演家)の著作隣接権が存在します。
そして、当該楽曲を利用するためには、前記①②③④の権利処理を検討する必要があります。
歌詞・曲に関する著作権
設問の例では、①歌詞に関する著作権、②曲に関する著作権の権利処理のために、著作権者から許諾を得る必要があります。通常は、作詞・作曲を行った作詞家や作曲家から許諾を得ることになると思われます。もっとも、音楽の著作物(作詞・作曲)の場合、通常は、著作権等管理団体(具体的には一般社団法人日本音楽著作権協会〈JASRAC〉や株式会社NexTone)が権利を管理していることが多いため、これらの団体に問い合わせをすることになります。一般に、歌詞・曲に関する著作権は、創作をした作詞家・作曲家から音楽出版社を通じて、著作権等管理団体に対してその管理のために著作権が信託譲渡されています。よって、作詞家・作曲家に個別に問い合わせることなく、著作権等管理団体に必要な申請をして所定の使用料を支払えば、利用することができるという仕組みになっています。
ただし、歌詞・曲に関する著作権の管理を著作権等管理団体に委託することが、義務付けられているわけではありません。そのため、すべての楽曲について著作権等管理団体が管理しているわけではなく、管理外の楽曲の場合には、個別に著作権者への照会が必要となります。
著作隣接権への対応
設問の例では、③レコード(原盤)に関する著作隣接権については一般にレコード会社、④歌唱する人気アーティスト(実演家)の著作隣接権については実演家の所属プロダクション(ただし、当該実演家の権利はレコード会社に譲渡されている場合も少なくありません)に対し照会をして、権利処理をする必要があります。もっとも、著作隣接権として認められている権利はすべての利用態様をカバーするものではありませんので、利用態様によってはそもそも許諾の必要がない場合もあります。
なお、人気アーティストの歌唱を収録するのではなく、社員による演奏および歌唱を収録するのであれば、歌詞と曲に関する著作権の権利処理のみで足ります。また、JASRACのような著作権等管理団体の場合とは異なり、許諾するか否かはケースごとの判断になりますし、許諾された場合の使用料もケースごとに異なる可能性があります。
設問はイベント会場における背景音楽での利用ですが、例えば、消防隊等による野外コンサートの場面であれば、著作権法38条1項の営利を目的としない演奏に該当し、歌詞・曲に関する著作権者の許諾を得ずに、実施することができます。この場合、非営利目的であることのほか、入場料を徴収しないこと、出演者に報酬を支払わないことが要件となります。
(弁護士・佐々木 奏)
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