2023年第1四半期の主要な半導体企業の決算を見ると、全般的に半導体市況が悪化していることが分かる。世界最大のファウンドリーである台湾積体電路製造(TSMC)の収益増加ペースは鈍化。韓国や米国の半導体メーカーの業績もほとんどが横ばいか悪化だ。その背景に、世界的なスマートフォン市場の飽和がある。これまで、世界の半導体メーカーの業績を支えてきたスマホの需要は、取りあえずほぼ満たされたと見られる。
また、巣ごもり需要で一時盛り上がったパソコン(PC)の需要も減少気味だ。主要半導体メーカーの減産にもかかわらず、今のところ、メモリ半導体の価格は下げ止まっていない。車載用半導体のように需給逼迫(ひっぱく)感が残る分野もあるものの、特に、スマホやPC向け半導体メーカーの業況が厳しい。
5月3日、スマホ用のプロセッサー大手である米クアルコムの4~6月期収益見通しは市場予想を下回った。同社の決算は、スマホ需要増加などを背景に業績を拡大してきたプロセスが曲がり角を迎えていることを示している。短期間に半導体市況が底を打つ展開は予想しづらい。
ここへ来ての経済環境の変化も相応の影響を与えている。世界的なインフレの高進の影響も無視できない。22年3月以降、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを実施した。その結果、米国の設備投資、個人消費の勢いは弱まった。それに加えて、回復が期待された中国経済の足取りも怪しい。今のところ、中国経済の回復ペースも想定より遅い。ゼロコロナ政策の長期化、不動産市況の悪化の影響は大きい。IT先端企業への締め付けも強化された。雇用、所得環境は悪化し、個人消費は停滞している。米国による半導体関連の対中制裁の強化もあり、生産活動も弱い。さらに、最近、中国国内での新型コロナウイルス感染者の増加が報告されている。再び、コロナ感染拡大が本格化するようだと、中国経済の回復はさらに遅れることが懸念される。それは世界経済にとって大きなリスク要因だ。
全体としては不透明な要素の多い半導体産業だが、最近、半導体業界の一部で期待を高める変化が起きている。2~4月期の米エヌビディアの決算で、チャットGPTなど"生成型AI(人工知能)"に対応したチップ需要が高まっている。半導体市況の成長の源泉は、スマホから生成型AIにシフトしつつあるようだ。足元、エヌビディアは台湾半導体産業との関係を強化し、高価格帯のチップ供給を増やそうとしており、TSMCは製造ラインの開発をスピードアップしようとしている。AI対応チップ需要の増加にどう対応するか、わが国企業の実力が問われつつある。
5月下旬、エヌビディアの決算発表を境に、世界の半導体市況に変化が見え始めた。2~4月期、エヌビディアの純利益は予想を上回り、同社の業績もアナリスト予想を上回った。主たる要因はAI対応チップの需要増だ。エヌビディアは競争の少ない最先端分野に進出し、収益分野を拡大してきた。その一つが、AIの深層学習などに用いられる画像処理半導体(GPU)だ。1999年、エヌビディアはGPUを発明し、AIの深層学習などを可能にするGPUの設計、開発を強化した。現在、エヌビディアはTSMCとの関係を強め、AI対応チップ市場の先行者利得を狙っている。
今後、世界のIT先端企業はAI関連ビジネスを強化する展開も予想される。わが国の半導体関連企業の期待は高まるはずだ。超高純度のフッ化水素や感光剤であるフォトレジスト、半導体の基盤であるシリコンウエハー、半導体の製造、検査装置に関して、わが国企業の競争力は高い。それだけビジネスチャンスがあるということだ。先行きの経済環境は必ずしも楽観はできないが、わが国企業はAIなど最先端分野で製造技術を強化すべき局面を迎えている。技術力などを積極的に活用して、このビジネスチャンスを生かしてほしいものだ。
(6月13日執筆)
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