政府は6月16日、2023年版防災白書を閣議決定した。今年の白書では、「関東大震災と日本の災害対策」を特集のテーマに取り上げ、9月で発生から100年となる関東大震災の当時の被害と対応を検証するとともに、その後の災害対策と今後の課題を整理。関東大震災から得られる教訓、100年の環境変化を踏まえ、「大規模地震対策」「風水害対策」「国土強靭化」「被災者支援体制」「情報発信の多言語化」「防災におけるデジタル技術の活用」などについて今後の対策の方向性を示した。
白書では関東大震災の被害について、人的・物的被害が阪神・淡路大震災、東日本大震災を上回っただけでなく、ライフライン被害も甚大で、当時のGDPの約37%に達する経済被害があったと指摘。今後も、防災・減災インフラの整備を着実に進めるとともに、防災教育や防災訓練などのソフト対策の強化など、ハード・ソフト一体となった防災対策の推進の必要性を強調している。
また、当時との比較で人口の大都市部への集中が進む中、首都直下地震により、道路交通のまひ、膨大な数の避難者や帰宅困難者の発生、深刻な物資の不足なども想定されることから、「避難所における食料・飲料水などの備蓄の確保、一斉帰宅の抑制などの帰宅困難者対策、サプライチェーンの確保などにも取り組む必要がある」と指摘。国土強靭化に向けては、国の「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の推進とともに、民間の活力を生かした取り組みや防災分野におけるデジタル技術の活用など、効率的な災害対応力向上の取り組みの重要性を強調している。
被災者支援体制の充実に向けては、「高齢化の進展や外国人の増加などの環境変化に伴い、関東大震災の発生時とは異なる新たな課題が生じている」との見方を提示。行政による「公助」だけでは十分な被災者支援を行えないことも想定されるため、多様な主体が連携した被災者支援体制構築の必要性を示し、高齢者のケアについては、避難の長期化を念頭に置いた避難生活の環境改善も求めている。
地域防災力の向上については、住民の「自助」の取り組みに加え、消防団など「共助」の防災活動、阪神・淡路大震災以降被災者に欠かせない存在となっているボランティアの支援活動の重要性を強調。また、100年前と比較して、日本に居住する外国人、訪日外国人旅行者が大幅に増えていることから、多言語による被災者が必要とする情報発信を求めている。 関東大震災の際に未整備だった情報伝達手段については、災害対応に役立つデータのデジタル化の推進などとともに、インターネット、SNS、防災アプリなどの活用による被害状況の迅速な把握などの重要性を強調。一方で、SNSについては災害時のデマや誤情報による社会的混乱の防止などの対応も必要と指摘している。
内閣府では、公式サイト内に「関東大震災100年」特設ページを開設。今年の防災白書のほか、関連資料や報告書などとともに、行政機関や各種団体などによる関連行事の予定なども掲載。ページ内でダウンロードできる普及啓発用チラシでは、日ごろの生活の中で誰にでもできる減災対策のパンフレット「みんなで減災」をはじめ、被災者に「もし、災害の1日前に戻ることができたらあなたは何をしますか」をテーマにヒアリングした結果を取りまとめた「一日前プロジェクト」や、「津波防災特設サイト」の情報なども紹介している。
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