書店が今、大ピンチに陥っている。デジタル情報化の荒波が押し寄せ、地元に愛されてきた「まちの本屋さん」がほぼ1日1軒の割合で閉店しているという。このような苦境を打破すべく、新たな取り組みで成果を上げている書店に迫った。
売り場縮小し賃貸、24時間営業も 新たな挑戦を続ける老舗書店
福岡県飯塚市にある元野木(もとのぎ)書店は、創業から約150年という長い歴史を持つ。地域に根差したこの会社は、かつての「本を売る場所」という枠組みを超え、大きな変貌を遂げている。移動書店や24時間営業の導入、さらには空き店舗のリノベーションを通じたまちづくりまで、その活動は多岐にわたる。地域の老舗書店が、いかにして新たな価値を創造しているのか、その挑戦を追った。
水害を機に家業が経営悪化 地元に戻り外商を再建
元野木書店は、1877年創業の老舗書店で、現在は教科書や参考書など学校関連の書籍のほか、郷土に関する本も多数取り扱っている。元野木という珍しい苗字は、先祖が旗を掲げて戦(いくさ)に出たが、戻ってきたときには旗がなくなり「元の木」になっていたというエピソードに由来している。
「戦から生きて戻ってくるという、サバイバル能力の高さを受け継いだと考え、前向きにチャレンジを続けています」と語るのは、同店の七代目社長、元野木正比古(もとのきまさひこ)さんである。元野木さんは、東京で全く別の仕事をしていたが、同店の経営が深刻な状況になったため、2016年に地元へ戻った。
元野木さんが調べてみると、同店の最大の危機は、03年に飯塚市などを襲った水害だった。店内は浸水し、商品が全て泥だらけになったこの災害を境に、売り上げは落ち込んでいた。家業を継いだ元野木さんは、店舗での販売が厳しい半面、地元の学校への教科書販売という外商に伸びしろがあると考えた。しかし、学校との信頼関係が崩れていたため、自身で学校を回り、信頼関係を取り戻した。そして、教科書だけでなく粗利の良い副教材(ドリルなど)への食い込みを強化した結果、売り上げはV字回復を果たした。
19年、元野木さんは飯塚市が主催する「リノベーションスクール」に参加した。これは空き店舗などの活用について学ぶもので、元野木さんは「ないものねだりではなく、あること探し」の視点を得た。これが同店の店舗活用の大きな転換点となった。同年、元野木さんは地元の有志らとともにまちづくり会社も立ち上げた。
「あること探し」きっかけにブックカフェなど新事業へ
それまで同店の2階は、不良在庫が積み上がる倉庫だったが、20年には本もコーヒーも楽しめるブックカフェへと改装した。しかし、コロナ禍で外出が困難になってしまった。「店に客が来ないなら、本屋の方から近づいていこう」と考えていたところ、車に本を積んで巡回する移動書店に関するオンライン講習会があった。元野木さんは早速、同様の移動書店を計画した。シャッターを開けると本棚が現れるトラックを導入するにあたり、飯塚商工会議所に相談し、補助金の申請などのサポートを受けることで実現へとこぎ着けた。移動書店は22年から運営を開始した。
同時期に、ブックカフェの試みが思わぬ方向へ発展する。常連客の中にカードゲーム好きがおり、「ここで大会を開きたい」という要望が出た。そこで、有料のフリースペース兼カードショップとして運営したところ、若者が集まる活気ある場所に変わった。
一方で、1階の書店については「売り場面積と売り上げが比例していない」という冷静な判断のもと、売り場を半分に縮小し、空いたスペースを貸し出すことにした。この決断は、まちづくり会社での活動を通じて、物件を探す人と出会ったのがきっかけだった。そのスペースには、23年から就労支援施設が入居し、固定の家賃収入が入るようになったことで、経営の安定性は向上した。
九州初の無人システム導入 24時間営業で新たな顧客
23年頃、元野木さんは業界団体の視察で、本の無人販売システムを導入した東京の書店を訪れた。二次元コードなどを使い、入店から決済まで無人で行うシステムで、元野木さんは本格的に導入を考えた。「従業員を減らすための無人化ではないか」というスタッフの不安を払拭するため、より付加価値の高い仕事へシフトする投資であることを伝え、理解を得られた。
25年3月に同店は、同システムを九州で初めて導入し、24時間営業を開始した。有人営業は、月曜日から土曜日の午前10時から午後5時30分で、それ以外の時間は無人営業となる。すると、夜遅くに仕事帰りの人が本を買いに来るなど、客層と売れ行きに変化があった。また、九州初という話題性によって、新聞やテレビ、ラジオの取材が激増した。熊本や長崎など、九州各地の書店関係者も視察に訪れるようになった。
今後については「本だけにこだわらない」と語り、多角的な展開を夢見ている。「妄想をいくつも持っておくと、いつか形になるんです」と元野木さん。伝統あるまちの本屋は、地域の人々に必要とされる形を模索しながら、走り続ける。
会社データ
社 名 : 株式会社元野木書店(もとのきしょてん)
所在地 : 福岡県飯塚市飯塚18番3号
電 話 : 0948-22-0048
HP : https://www.facebook.com/bookstore.motonoki
代表者 : 元野木正比古 代表取締役
従業員 : 5人
【飯塚商工会議所】
※月刊石垣2026年2月号に掲載された記事です。
