女性経営者の活躍が目立つのは、絶対数が少ないからだけではないようだ。しなやかなビジネスの視点、従業員目線の働き方改革などの社内環境の整備、自由な発想など、地域で活躍し業績を上げている女性経営者も多い。社員も顧客も笑顔に変えて、業績を上げる……。そんな女性経営者のリーダーシップと手腕には、多くの経営者が見習うべき点がある。
一度は売却した自社を買収 コミュニケーションを武器に組織を束ねる
福岡県南西部にある大川市は、数多くの家具メーカーと数百社の関連業者が集積する「家具のまち」。その大川市でヒカリハイテックは、工作機械用刃物の製造・販売・再生・研磨に携わり、市内だけでなく他地域の木工関連メーカーに製品やサービスを提供している。現在は、創業者の娘で社長を務める片嶌(かたしま)由希子さんが、従業員が働きやすい社内環境と明るい雰囲気づくりを進めている。
M&Aで自社を売却するも一社員として会社に残る
木製の家具づくりに刃物は欠かせない。その刃物は定期的な研磨が必要となる。そのため、大川市には刃物の研磨を行う業者が多い。片嶌さんの父親である木村和義さんが1973年に独立して工場を立ち上げた当初も、刃物の研磨のみを請け負っていた。その後、顧客の要望に応じて超硬質チップ(切削工具の先端部品)のグレードを最高グレードのMH-1を含めて選択できる刃物や、再生可能な商品を多数展開。これにより顧客が全国各地に広がり、超硬刃物製造会社としても確立することができた。
「私も父の会社で27年働いていたので、会社を継ぐ選択肢はありました。しかし、母が病気になり、会社のことは気にせず安心して闘病してほしいという思いから、また私も子育ての大変な時期が重なったため、2016年にM&Aの形で経営を別の会社に委ねることにしました」と片嶌さんは、自社の状況を振り返る。
会社は譲ったものの、父が創業した事業の行く末が心配だった片嶌さんは、一従業員として会社に残り、M&A先から迎えた社長を支え、会社をもり立てていくことにした。しかし、新社長が来社するのは週1回2時間のみ。会社を束ねる人が不在の中、組織のまとまりは徐々に失われ、経営状態も悪化していった。それに片嶌さんは危機感を持っていた。
「2年後に社長が交代したのを機に、父を会長として会社に戻してもらい、新しい社長と会長、私の3人で会社を立て直していきながら、私は二人の下で経営を勉強していきました。ただ、新しい社長も月1回しか会社に来ることができない。親会社も当社のより良い在り方を考えてくださり、会社を買い戻さないかという打診を受けました。22年7月に買い戻し、父は会長のまま、私が社長に就任しました」
組織を一枚岩にまとめ上げる
社長となった片嶌さんが最初に直面したのは、技術や営業の課題を超えた「会社をどう立て直すか」という問題だった。
「まず、以前の〝親方と従業員〟という町工場にありがちなやり方から、小さくても組織として機能する体制へと移行させようと考えました。それに加えて従業員の世代交代が進んでおり、若手に技術や営業などのノウハウを指導する必要もありました。どれも会社のこれからにとって重要なことでしたが、同時進行で行っていくのは大変でした」
こうした体制の見直しにより、以前は社長から従業員への指示という一方通行だったコミュニケーションが、社長と従業員、または従業員同士の間での「ここはこうしたいがどうか?」「それなら、こうはどうか?」というディスカッションに変わっていった。また、営業の在り方も変わった。
「以前の営業は〝一匹狼〟スタイルでしたが、チームで顧客に向き合うようにしました。こうすることで若手が先輩の背中を見て成長できます。また、お客さまとのコミュニケーションを重視して、製品に対する要望や業務の悩みをくみ取っていくことで、困ったときは『ヒカリハイテックに聞いてみよう』と思っていただける存在になろうと考えました。その取り組みが実を結び、お客さまが別のお客さまを連れてきてくださるようになりました」
一方で、社内の雰囲気づくりにもこまやかな配慮を欠かさない。そのバランス感覚は、組織を束ねる上での一つの軸となっている。
「雰囲気が悪いと士気が落ちて仕事の効率も上がらないので、私から従業員に話しかけて雑談するなど、明るい空気づくりを心掛けています。それに事務所の雰囲気がいいと、お客さまも来ていただきやすくなります。実際、コーヒーを飲みに立ち寄ってくださる方もいるんです。普段は、自分が女性経営者であることなど意識していませんが、このあたりの気配りは女性ならではなのかもしれません」
誰もが働きやすい会社へ
雰囲気だけでなく、社内制度の整備にも取り組んでいる。効率よく働いて残業を減らし、時間どおりに帰宅できるようにするため、社員同士で協力し合う体制づくりも進めている。
「社内制度の整備には気を使っています。私が子育てをしていた時代は、子どもの学校行事や病気などで休んだり早退したりすると、後ろめたい気持ちにさせられました。まず、それをなくしました。また、リフレッシュするための有給休暇はもちろん、髪形やネイルも基本的に自由にしています」
こうした取り組みを積み重ねて4年、若い従業員たちが育って社内も落ち着き、片嶌さんはようやく従業員たちと一緒に会社が成長していく階段を上れるようになったと感じている。組織づくり、人材育成、そして顧客との関係構築、それぞれが絡み合いながら、会社は少しずつ成長している。
「会社だけでなく大川家具の発展にも貢献し、大川市も盛り上げて、この不安定な時期を乗り越えたい。そのために従業員と一丸となって前に進んでいきます。会社は大きくありませんが、頑張る人が報われる会社でいたいと考えています」
そして最後に片嶌さんは、女性経営者としての思いをこう語った。
「どんな経緯であれ、こうして経営者として歩めていることに感謝しています。だからこそ女性経営者として、しなやかに前向きに楽しんでいきたい。迷いや困難も、すべては自分の使命とやりがいにつながっていると信じています」
経営者として組織を整え、人を育て、信頼を積み重ねる。その地道な歩みが、地場産業を支える力となっていく。
会社データ
社 名 : ヒカリハイテック株式会社
所在地 : 福岡県大川市中古賀220-3
電 話 : 0944-87-4028
HP : http://www.hikari-hamono.com
代表者 : 片嶌由希子 代表取締役
従業員 : 15人(パート2人含む)
【大川商工会議所】
※月刊石垣2026年6月号に掲載された記事です。
