女性経営者の活躍が目立つのは、絶対数が少ないからだけではないようだ。しなやかなビジネスの視点、従業員目線の働き方改革などの社内環境の整備、自由な発想など、地域で活躍し業績を上げている女性経営者も多い。社員も顧客も笑顔に変えて、業績を上げる……。そんな女性経営者のリーダーシップと手腕には、多くの経営者が見習うべき点がある。
BtoBからBtoCへ 家事負担軽減と健康に配慮した住まいづくり
1982年に設立された田畑建設。先代が病に倒れたことを機に、娘の小林明美さんが二代目社長に就任。以降、公共工事だけでなく、個人注文住宅の設計施工やリフォーム、不動産業に軸足を移す。安心・安全を担保する住環境はもちろん、家事負担軽減やストレスフリーな空間設計を心掛け、地域で大きな信頼を得ている。
価格競争からの脱却で切り開いた新たな道
「私が建築の道を目指した当時は、『女が4年制の大学を出たら嫁に行けなくなる』と言われた時代でした。就職したのは『男女雇用機会均等法』が施行された年でしたが、建設現場では無縁でしたね」
田畑建設社長の小林明美さんは同社創業の年に生まれ、家業を切り盛りする両親の背中を見て育った。少しでも役に立ちたいとの思いから理系を選択、大学で建築を学んだ。とはいえ、家業は兄が継ぐと思っていたが、父親が病に倒れて経営が難しくなったとき、兄が事業承継を辞退。小林さんが二代目を継ぐことになった。
「それまで当社は、公共事業をはじめ、病院や事務所、店舗など主に非住宅の仕事を請け負っていました。ただ家業を継いだ頃は、入札による激しい価格競争で利益が出ない“疲弊する商売”になっていました」
その状況を問題視した小林さんは、入札に参加しない方針を決める。値引きをせず、品質に見合った価格で提供することを基本姿勢に、公共事業を中心としたBtoBから、個人注文住宅中心のBtoCへと事業の主軸を移した。その背景には、顧客と直接向き合うことで顧客満足を追求したいとの考えがあった。
「当初は、父の紹介による受注がメインでしたが、見学会を行ったりチラシを配布するなどして、徐々に新規顧客を開拓していきました。さらに、お客さまの要望に迅速かつ柔軟に対応するために、設計から施工まで一貫して手掛けるワンストップ体制を構築しました」
「ママは一家の太陽です」
小林さんが住まいづくりで特に心掛けてきたのは、家事負担の軽減と健康への配慮だ。
例えば、間取りや収納、屋内の動線を工夫して、やらなくてもいいことを省き、家事を効率よくこなせるようにする。家中どこでも快適な温度・湿度に保つことで風邪をひきにくくしたり、血圧を安定させたり、高齢者がヒートショックを起こさないようにするなどだ。こうした住環境の工夫は、居住者のストレスを緩和し、病気を遠ざけるなどのメリットがあり、結果的に女性の負担を軽くする。
マイホームを考える際のキーパーソンは、奥さまであることが多いため、同社のそうした方針は共感や安心感につながり、顧客の笑顔と信頼を得ている。
「お母さんが疲れてヨレヨレだと、家の中はどんよりしてしまう。当社は『ママは一家の太陽です』というキャッチコピーを掲げて家事労働を楽にし、家族全員が健康に暮らせるアイデアを常に考えています。最近は、そうしたアイデアや施工例を、インスタグラムなどSNSで随時情報発信しています」
同社では、男女を問わず採用活動を行っているが、女性社員が3分の2を占める。それを踏まえ、小林さんは働く環境整備にも積極的に取り組んでいる。例えば、完全週休2日制を徹底し、家族の事情のよる遅刻や早退、時短勤務などに柔軟に対応している。
小林さん自身、義母の通院の付き添いで中抜けすることも多く、「お互いさま」との思いが反映している。また、女性が結婚や出産などで仕事を離れることで、培った知識や技術を埋没させないことにも心を砕く。
「新卒から8年間勤めてくれた女性社員が結婚して遠方に転居し、通勤が困難になってしまったんですが、キャリアを中断してほしくなかったので、初の試みでリモートワークを導入しました。今でも週4日頑張ってくれています」
ブランクの後、仕事に復帰したいと思ったとき、履歴書に書ける資格があることは有利だ。そこで同社では男女を問わず、「建築士」や「宅地建物取引士(宅建)」などの資格取得のための支援や取得後の手当てを厚くしている。
「家守」の使命感を持って人手不足時代に挑む
社長を引き継いで約20年。地道な経営を続けてきた同社だが、近年、建設業界は厳しい環境に置かれている。人口減少や景気の波、さらに円安や国際情勢による資材価格の高騰や供給減少が深刻な影を落としている。身近に目を向ければ、大工や職人が高齢化して人手不足が常態化し、まちの工務店は次々と姿を消している。
そうした現状の中、小林さんは今後の事業展開の新たな柱として、事務所や倉庫などを木造で建築する「木造非住宅」分野への進出を計画している。また、耐震改修やあったかリフォーム、空き家問題、土地建物を含めた生前整理など、身近なところにある問題をビジネスチャンスと捉え、これまでと同様に定期点検やメンテナンスを通じて家を守る「家守(いえもり)」の使命感を持って取り組んでいきたいと言う。
「大工さんや職人さんが減っていく中、お客さまの多様なニーズに対応できる便利屋的な役割もどんどん担って地元に貢献したい。そのためにも、将来的に女性社員を大工や現場監督に育成しようと思っています」。小林さんは同社の大黒柱として、暮らしに寄り添う視点とともに次なる成長を見据えている。
会社データ
社 名 : 田畑建設株式会社
所在地 : 愛知県西尾市今川町落23
電 話 : 0563-57-2336
HP : https://www.tabata-k.co.jp
代表者 : 小林明美 代表取締役
従業員 : 9人
【西尾商工会議所】
※月刊石垣2026年6月号に掲載された記事です。
