女性経営者の活躍が目立つのは、絶対数が少ないからだけではないようだ。しなやかなビジネスの視点、従業員目線の働き方改革などの社内環境の整備、自由な発想など、地域で活躍し業績を上げている女性経営者も多い。社員も顧客も笑顔に変えて、業績を上げる……。そんな女性経営者のリーダーシップと手腕には、多くの経営者が見習うべき点がある。
かつては「とても厳しかった」警備会社 健康経営で社員も地域も守り抜く
青森県弘前市(ひろさきし)にある津軽警備保障は、創業から50年以上、地域の安全を守っている。同社の経営を、1996年から担ってきたのが創業者の娘である山口道子さんだ。当時は主婦だったが、社員を守りながら事業を拡大させ、経営を軌道に乗せた。さらに近年では、健康経営を行う中小企業であることが認められ、日本健康会議が認定する「ブライト500」を5年連続で受賞している。
手書きの手紙が意識を変えた
津軽警備保障は1973年、工事現場などの交通誘導警備を中心に営業を開始した。その後、創業者が急逝し、後を継いだ家族も病気を患ったため、96年、創業者の娘で当時専業主婦だった山口道子さんが経営に参画した。会社経営も警備の仕事も、右も左も分からない状態でのスタートだった。現在は、同社会長を務める山口さんは、当時の状況を「とても厳しかった」と振り返る。
「社屋はボロボロの借家で、何より驚いたのは、制服をきちんと着ていない社員や、サンダル履きの社員がいたことです。私だったら、こんな人たちに仕事は頼まないと思いました」と語る山口さんは、まず社員の意識改革から着手した。自らペンを執り、一人一人に「制服を整えてください」「あいさつをしっかりしましょう」と手書きの手紙を出し続けた。時には厳しい言葉も投げかけたが、それは「会社を、そして社員を守りたい」という一心からだった。
97年、大手コンビニチェーンの機械警備(センサーの設置により侵入や火災などの異常を監視するシステム)を一挙に約20件受注したことが大きな転機となった。04年には、創業当時から受注していた大手精密機器メーカーの警備体制が24時間体制へ変更。以前は人員確保に苦労したが、それまでに築いてきた「地元の信頼」が功を奏し、多くの応募が集まった。山口さんの誠実さと、社員への直接的な語りかけが、会社の基盤を固めていった。
二次健診の徹底と禁煙活動で「命」を守る
同社の経営理念には「社員が心身ともに健康であること」が掲げられている。この「健康経営」に力を入れるきっかけとなったのは、2007年に起きたショッキングな出来事だった。健康診断で、1人の社員に結核の疑いが出たのである。幸い、人に感染する病気ではなかったが、一歩間違えば事業の存続に関わる事態だった。さらにその後、ベテラン社員が膀胱(ぼうこう)がんを発症した。健康診断の結果をさかのぼると、どちらも数年前から異常が指摘されていたにもかかわらず、再検査を受けていなかったことが判明した。
「検査結果を本人に渡すだけではダメだ」。そう痛感した山口さんは、全社員の健診結果を確認し、再検査が必要な社員には、産業医のアドバイスを添えて強く受診を促すようにした。13年からは、二次健診の受診率100%を達成。現在も継続している。
このほか、具体的な取り組みは多岐にわたる。08年からは全社員のインフルエンザ予防接種費用を会社が全額負担。さらに、09年から開始した禁煙活動は、10年以上の歳月をかけて21年に「喫煙者ゼロ」を達成した。警備業はサービス業であり、常駐施設などでは最初にお客さまと接する「顔」であるからこそ、清潔感と健康維持が不可欠であるという考えが根底にある。現在は、フィットネスジムの利用料を補助したり、栄養バランスの良い食事をテーマにした社内セミナーを開催したりすることにより、中小企業を対象とした「ブライト500」を5年連続で受賞するまでになった。
地域に必要とされ続ける教育と最先端システム
同社の強みは、徹底した社員教育にある。警備業法で定められた警備員教育を、外部の協会に任せず、自社で行っている。その理由は「現場で起きているミス事案の共有」や「会社の現状を直接伝えること」を重視しているからだ。
山口さんの先見の明が結実した例もある。国家資格である警備業務検定の取得を、20年以上も前から社員に推奨してきたのだ。当時は活用の場が少なかったが、同社の有資格者の多さが決め手となり、26年4月から青森空港の国際線における警備業務を受託することとなった。地道な教育の積み重ねが、新たな事業の柱を生んだのである。
また、近年はテクノロジーの導入にも積極的だ。25年からは、道路工事現場などの信号機を遠隔操作で制御する新たなシステムを導入した。これにより、酷暑の中での現場作業を軽減し、人手不足の解消と安全性の向上を実現している。「機械にできることは機械に任せ、人間は人間にしかできない『判断』や『信頼の構築』に注力する」という考え方だ。
同社は今後、大手企業が地域を撤退した後の旧社屋などのアフターメンテナンスや、空き家の見回り管理など、困り事に寄り添う「地域のサポーター」としての役割を強化していく。26年には、青森市に支社も完成する予定だ。「信頼される人を育てること」という、創業から50年を超えても変わらない信念が、今日も地域と社員の笑顔を守っている。
会社データ
社 名 : 津軽警備保障株式会社
所在地 : 青森県弘前市亀甲町53-1
電 話 : 0172-31-1300
代表者 : 山口道子 代表取締役会長
従業員 : 128人(2026年4月現在)
【弘前商工会議所】
※月刊石垣2026年6月号に掲載された記事です。
