まだ記憶に新しい昨年のコメ価格の高騰。根本的な理由はさまざまだが、農業人口の減少も大きな要因だ。そんな中で、農業は人手と手間がかかり、もうからないという概念にとらわれずに大地に挑んでいる企業もある。農業を魅力的な新領域と捉えて可能性と商機を見いだした企業のビジネス戦略とは。
ブルーベリーが軸の農業経営で“三方よし”の新たな経済圏を創り出す
農業コンサルティング会社のNeweZは、サステナブルな農業、題して“サス農”を提唱。耕作放棄地の再生に向け、自らもブルーベリー栽培を軸とした農業経営を実践している。また、企業がコメ農家を支援する「田んぼオーナー制度」や、規格外農作物の廃棄ゼロを主眼においたメンズコスメブランドを立ち上げるなど、課題の多い日本の農業に、「成長の余地あり」と果敢に挑む。
増え続ける耕作放棄地をブルーベリー農園に再生
千葉県君津市にあるNeweZは、2021年設立のベンチャー企業だ。農業は高齢化や後継者不足が深刻な分野だが、代表取締役社長の片野隆太さんは28歳の時に、農業を軸に事業を興した。なぜか。
「太陽光発電や次世代LEDなど、再生可能エネルギーの普及を手掛ける企業に、19歳で入社しました。20代前半で島根や千葉の支店長を任され、マーケティングやビジネス戦略を指揮する立場にもなりました。そこでソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の普及を通じ、見えてきたのが農業の抱える課題です。ご高齢の農家は所有する農地を持て余し、就農希望者は農地がない。国土面積の約1%が耕作放棄地で、さらに拡大するといわれる中、持続可能な農業で、社会の新たな仕組みを構築できないかと考え、独立しました」
片野さんは経営理念に、「サス農」(サステナブル・アグリカルチャー・シップの意)という造語を掲げ、農業の「人材」「栽培」「販路」の三大課題のサポートに乗り出した。
「日本ブルーベリー協会会長との出会いを通じ、ブルーベリーの魅力や栽培法、新規参入のしやすさなどから、サス農の可能性を感じました」
ブルーベリー栽培による農業経営支援事業を立ち上げると、耕作放棄地の取得から農業委員会への許可申請、栽培指導、販路開拓まで一手にサポート。耕作放棄地をブルーベリー農園に再生していった。
「国内のブルーベリー農園のほとんどが手摘みによる収穫です。一方で海外では機械化が進み、房取りも可能になってきています。弊社では後者の手法を採用し、『人材』は業務委託で農家や就農希望者、シルバー世代や障がいのある方など、農福連携も取り入れながら地元の雇用促進を図っています。実際の『栽培』や管理は、関係会社のEoneファームが担当し、日本ブルーベリー協会会長や地元農家の協力を得ながら、現状約200人規模の生産管理体制を整えています」
『販路』としては、大手スーパー各社を対象としている。
「ブルーベリーは、成木になるまで6年かかり、農園オーナーになっても1〜2年は収益0円です。それでも『国産』『オーガニック』『有機』のブルーベリーへの関心は高く、就農を希望する個人だけではなく、SDGsやCSR(企業の社会的責任)として農業投資に興味を持つ企業はけっこういます。また、収穫期が7〜8月なので、農業に関心を持つ若者が短期でアルバイトしやすく、地域の空き家をアルバイトや社員向けの寮に再生することで、地域活性化や雇用創出にもつなげることができます」
田んぼオーナー制度で“第三の賃上げ〟実現
NeweZは、さらに「田んぼオーナー制度」で、コメ農家の収入サポートも事業化している。オーナーは主に企業を対象とし、物価高騰と賃上げのジレンマにさいなまれる企業の〝第三の賃上げ〟として従業員に収穫したコメを支給する仕組みだ。
「オーナー企業の栽培・管理の負担は一切ありません。1口25万円(500m2)で契約すると、予定収量は約240kg。税金で引かれる現金支給より、福利厚生として従業員の家計を支える現物支給の方が、経営負担が少なく、従業員満足度は高いと思います。会社のロゴを入れたオリジナルのコメ袋を採用した企業では、取引先への贈答品としても好評だったと伺っています」と片野さん。
食品ロス削減×身だしなみ改善サス農が開くメンズコスメ市場
三つ目のサス農として、食品ロスにも切り込む。規格外で廃棄される農作物は意外に多く、ブルーベリーも例外ではない。そこで、ブルーベリーエキスを抽出したコスメ製品の開発・販売を事業化した。すでに飽和状態の女性向けのコスメ市場は回避し、男性対象のビジネスメイクブランド『BISS』(ビス)をシリーズ展開している。
「〝化粧品〟というと抵抗感のある男性は多いですが、〝身だしなみ〟として提案すると興味を持ってくれます。展示会やショッピングモールでの実演販売や、企業の出張講座でブランド認知を広げています」
剪定(せんてい)したブルーベリーの枝も無駄にしない。25年より自然エネルギー事業を展開する企業と共同で、ブルーベリーの枝をバイオ炭にし、農園に還元する実証実験を始めている。収量増に加え、将来的にはカーボンクレジットを獲得したり、クールベジタブル(二酸化炭素を抑え地球を冷やす野菜)としての付加価値を訴求したりする計画だ。26年度からは山梨県鳴沢村の村長個人が所有する農地でのブルーベリー栽培も始まり、富士山の麓のブルーベリーとして世界ブランドへの道筋も描きつつある。
資金調達や人材確保が「まだまだ課題」と片野さんは語るが、三重県や兵庫県に支店を開設し、すでに耕作放棄地の約50haを再生し、育成した若手就農者は30人を超えた。
農地再生や若手就農支援を念頭に置き、農業・人・環境の「三方よし」を体現するNeweZ。その視線は農業の収益増の先にある、新たな経済圏の創造へと向かう。
会社データ
社 名 : NeweZ株式会社(ニューイッツ)
所在地 : 千葉県君津市寺沢146
電 話 : 0439-29-5645
HP : https://newez.jp
代表者 : 片野隆太 代表取締役社長
従業員 : 13人
【君津商工会議所】
※月刊石垣2026年7月号に掲載された記事です。
