地域の特色を生かし、独自のストーリーを持つ地ビールが人気を呼んでいる。生産地に足を運ぶからこそ、おいしさも格別なのだと、多くの人が集う。地ビールで地域の新たな魅力を発信する2つの小さなブルワリー(醸造所)を訪ねた。
無人駅で育まれた小ロットで多品種のビールが地域と人をつなぐ
石見麦酒は、日本初の無人駅舎に併設された地域密着型ブルワリーだ。県内でつくられるフルーツや米などを最大限に生かし、少量多品種のクラフトビールをつくっている。その独特過ぎる醸造法は「石見式」と呼ばれ、今や国内外で100を超えるマイクロブルワリーに採用されている。
独自の醸造スタイル
江津市は、島根県で最も市域が狭く、最も人口が少ないまちだ。石州瓦の赤い屋根が彩るまち並みをJR山陰本線が横切る。その途中にあるJRの無人駅、波子(はし)駅をまるごとブルワリーに活用しているのが石見麦酒だ。同社は、クラフトビールを主軸に果実酒、リキュール、発泡酒など多様な酒類に加え、コーラやジンジャーエールなどの清涼飲料水、カレーやスープといったレトルト食品に至るまで駅舎内で製造している。
「事業のメインは全国からの受注生産です。北海道のラベンダー、青ヶ島の塩など各地の特産品を使って小ロット多品種のオーダーメード商品をつくっています。そのほかに島根県の農産品を生かした定番レギュラービールも提供しています」と同社を立ち上げた山口巌雄(いつお)さんは説明する。
同社の特徴はその製造法だ。13年頃、山口さんは小規模醸造所をつくろうと各地の醸造所を回りながら、仕込んだ麦汁を小型冷蔵庫で温度管理する方法を模索していた。ところが、四角い冷蔵庫に麦汁の入った丸い容器を入れるのは効率が悪い。そんなとき、「ビニール袋を使ってみたら」とアドバイスを受けた。
「まさに目からウロコでした。僕がかつて勤めていたみそメーカーでは、段ボールにビニール袋を敷いてみそを充填していたことを思い出したんです。これなら容器も汚れず、最後まで絞れる。そこで、これをビールづくりに応用することにしました」 1回に醸造するのは、わずか50ℓ程度。仕込んだ麦汁をビニール袋に入れ、小型冷蔵庫で貯蔵する「石見式」が誕生した。
技術公開が生んだ全国との交流ネットワーク
山口さんは、この醸造法で酒造免許の申請に税務署を訪れた。ところが前例がないからと、まったく相手にされなかったという。このままではらちが明かないと、心機一転、島根県江津市に移住。同市のビジネスプランコンテストに応募して大賞を受賞する。さらに、地元の金融機関が開催する同様のコンテストでも最優秀賞を受けた。その新聞記事と醸造の資料を携えて再び税務署を訪ね、無事酒造免許を取得。15年に同市内で会社を設立した。
「江津市にゆかりがあったわけではありません。ただ、農産物の豊富な小さなまちで、地域に密着しながら新しいビールづくりを始めたいと思ったんです」
