資材価格の高騰や人材不足、技術革新への対応が多くの中小ものづくり企業を直撃している。そんな中、BtoB市場で地道に技術力を磨き、大型工場を建設したり、ブランディングを本格化させたり、さらには次世代のものづくり拠点を立ち上げるなど、「攻めの経営」を進める企業がある。卓越した技術で異業種からの要求にも応えて、新たな需要獲得を目指す地域の企業を紹介していきたい。
難加工金属の溶接・加工技術で化学プラントの安定稼働を支える
宮崎県延岡市で磨かれた技術が、国内外の化学プラントを支えている。難加工金属の溶接・切削を得意とする森山工業だ。難しい仕事に向き合う技術と、働く人を大切にする姿勢を重ねながら、同社は特殊金属加工の現場で信頼を築いてきた。
電解槽の製作から現地出張補修までを担う
創業は1945年。同じ年、延岡大空襲で被害を受けた旭化成の復興作業に初代が職人仲間とともに加わり、縁が生まれた。今は旭化成を主要顧客として、プラント機器の製作を柱に、チタンやニッケル、ジルコニウム、マグネシウムといった特殊金属の溶接・切削・切断を手がける。従業員は62人。女性技術者や外国人技能実習生も現場を支えている。
社長の森山和真さんが大切にしているのは、「実直に徹する、全員が豊かになる」という理念だ。ここでいう豊かさは、お金だけでなく、心も満たされている状態を指す。会社は、社員が働きやすく、力を発揮できる舞台でなければならない。その姿勢は、技術にも、職場づくりにも息づいている。
同社が扱う金属は、いずれも加工に高度な技術を要する。例えば、チタンは軽くてさびに強い一方、溶接の高温下では酸化しやすい。ニッケルは粘りがあって切削が難しく、マグネシウムは軽量化に役立つが、溶接できる会社は全国でも限られる。
同社の代表的な仕事が、旭化成に納める電解槽の製作である。電解槽は食塩を電気分解し、塩素とカセイソーダをつくる装置だ。塩素は塩化ビニール樹脂などの原料に、カセイソーダはアルミ、紙・パルプ、繊維、洗剤などの製造に使われる。
その電解槽は、旭化成の製品として海外の化学プラントにも導入されている。森山さんは、入社したばかりの社員にも、延岡でつくった製品が海外の生産現場で稼働していることを伝える。すると、若手はそこに、自分の仕事の意味を見いだすという。
同社が引き受けるのは、製品の製作だけではない。国内はもちろん、海外のプラントでもトラブルが起きれば、職人が工具を持って現地へ補修に向かう。電解槽を使う化学プラントは、内モンゴルや新疆(しんきょう)、チベット周辺、アラスカといった地域の都市部から遠く離れた土地に建つことも珍しくない。言葉も文化も違う現場で頼れるのは、社員が日々磨いてきた判断力と技術だ。
「電解槽は長年使うと、チタンでも割れたり穴が空いたりします。そういうとき、うちの職人が現地に向かい補修してきます。現地の方には、本当に喜んでもらえます」
台湾のプラントでチタン配管の据え付け工事を請け負ったときのことだ。現場には約6000台の電解槽が並んでいた。その全てが、かつて延岡から自分たちの手で送り出したものだった。「これ、俺がつくったやつ」。職人たちは驚き、思わず声をあげた。
社員の主体的な働き方が大きな自信と誇りに
東日本大震災の後には、福島第一原子力発電所の事故対応に使う放射性物質除去装置の遮蔽体(しゃへいたい)について、緊急の依頼が舞い込んだ。内部に鉛を鋳込(いこ)む金属部材の外帯を、短い納期で精度よく仕上げる仕事である。用途も条件も異なる分野だった。
それでも社員の方から「これは絶対にやらないといけません」「俺もやります」と声が上がり、担当者全員で3日ほど徹夜して間に合わせた。
「日本中が大変だったときに、そういう大事な仕事をさせてもらえた。現場で問題なく取り付けられたと聞いたときは、大きな自信と誇りになりました」
社員が力を発揮できるよう、働き方も見直してきた。2025年の月平均残業時間は1・97時間、有給休暇の取得率は93%に達する。ロボットと人が一緒に作業する設備を入れ、安全性と生産性を同時に高めた。利益率が上がれば、賞与や賃金に反映させる。それが、会社の力になっている。
森山さんが手応えを感じているのは、社員の側に起きた変化だ。「新しく入ってきた人や、体力に不安のある人、言葉が通じにくい外国の人たちに、ほかの社員が寄り添い、どうすれば働きやすいかを、私だけでなく社員全員が考えるようになりました」。人に合わせて現場を変えていくという考え方が、職場全体に根づいた。
こうした姿勢は、日々の改善活動にも表れている。今年の行動指針は「自由な発想・面白い職場」。安全会議で提案を募ったところ、現場から「工場に冷凍庫を置いてほしい」という声が出た。夏場にアイスを食べられるようにし、熱中症対策の保冷剤も入れておきたいという。同社はこの提案を受け、冷凍庫を導入した。
ものづくりの火を消さない
地域とのつながりも、次の世代にものづくりを伝える取り組みとして続けている。新しい拠点「totoro fab」には、いずれ小型の加工機や3Dプリンター、レーザー加工機を置き、地元の子どもたちが技術に触れられる場にしたいという。中高生の職場体験を受け入れてきたのも、ものづくりの面白さを知ってほしいからだ。森山さんは言う。「地域のものづくりの火を消してはいけません」。
今後は、航空機産業や宇宙産業への参入も視野に入れる。電解槽製作や現地補修で培ってきた特殊金属の溶接・切削技術を、さらに高度な分野で生かすためだ。求められる品質や管理水準は高い。それでも、社員と将来の可能性を語り合いながら、一歩ずつ進めていく。
難しい仕事に応える技術と、それを担う人を大切にする姿勢。森山工業のものづくりは、この二つに支えられている。多様な人材が働ける職場をつくり、地域の若い世代にものづくりの面白さを伝えながら、同社は延岡で磨いた技術の可能性をさらに広げようとしている。
会社データ
社 名 : 森山工業株式会社
所在地 : 宮崎県延岡市大武町39番地101
電 話 : 0982-33-3636
HP : https://mkk-jp.jp
代表者 : 森山和真 代表取締役
従業員 : 62人
【延岡商工会議所】
※月刊石垣2026年8月号に掲載された記事です。
