資材価格の高騰や人材不足、技術革新への対応が多くの中小ものづくり企業を直撃している。そんな中、BtoB市場で地道に技術力を磨き、大型工場を建設したり、ブランディングを本格化させたり、さらには次世代のものづくり拠点を立ち上げるなど、「攻めの経営」を進める企業がある。卓越した技術で異業種からの要求にも応えて、新たな需要獲得を目指す地域の企業を紹介していきたい。
最新鋭の機械で生産される断熱パネル 日本有数の大きさと厚みで幅広い業界が注目
千葉県木更津市に新工場を構えるたつみ工業は、断熱パネル専業メーカーで、特に分厚いパネルを製造する技術では日本有数である。コンビニの飲料用冷蔵庫では国内トップシェアを誇るが、近年、大幅な設備投資を行い、2024年に木更津プラントの操業を開始した。同社の分厚い断熱パネルは、幅広い業界からの大幅な需要増が見込まれている。
社員のために考えた新工場の建設計画
たつみ工業は、1962年創立。始まりは、創業者が米軍基地で仕事をしていた際、米国から輸入された冷蔵庫の組み立て依頼を受けたことだった。神奈川県川崎市に本社を構え、長年にわたり、スーパーなどにあるプレハブ冷凍冷蔵庫をつくってきた。特に、コンビニのペットボトル飲料用冷蔵庫の製造においては現在も国内トップシェアを誇る。選ばれ続ける理由は、大手にはまねできない「カスタムメイド」「短納期」「自社施工」という三つの強みがあるからだ。
これまで、まさに「縁の下の力持ち」として歩んできた同社は2024年、千葉県木更津市の1万3000坪の敷地に、世界最新鋭の製造ラインを持つ新工場を竣工させた。大幅な設備投資に踏み切った背景には、三代目社長である岩根弘幸さんの決断があった。
「10年ほど前、毎日猛烈に忙しく、社員の背中が疲れ切っているのを見てショックを受けました。このままでは社員が倒れてしまうと思い、生産効率向上のために新工場建設を決意したんです」と岩根さんは振り返る。当時、本社のある川崎市近くで土地を探したが、地価が高かった。さらに、本社と同じように、職人が手作業でつくることを前提とした「非連続ライン生産方式」(通称バッチ式)用の機械を新調しようとしても、国内では特注となり、莫大な費用がかかることが判明した。そこで、岩根さんは設備を求め、韓国や中国へ視察に赴く。商談の中で、機械の心臓部分が世界シェア首位のドイツ製であることを知り、直接ドイツへ渡って交渉を重ねた。岩根さんは日本国内で一般的なバッチ式の設備を求めていたが、メーカーから驚くべきシミュレーションを提示される。
「当社が希望する生産能力をバッチ式で実現するには、新たに150人もの作業員が必要だと言われました。当社のような規模で、そんな大量採用は不可能に近いです」と語る岩根さん。そこで先方から提案されたのが、材料を投入すれば自動で製品が完成する世界基準の「連続ライン生産方式」(以下、連続式)であった。ただ、連続式ならわずか6人で生産可能だが、巨大な機械を設置できるように、広大な土地が必要となる。それでも、製造方法を根本から変えるべきだと、岩根さんの腹は決まった。
当初予算の3倍を投資 木更津の地に新たな根を張る
巨大な連続式の機械を入れる工場のほか、資材置き場も必要になると考えると、より広い土地であることが理想だ。福島県や静岡県、神奈川県内など候補地を巡る中、木更津市在住の知り合いから「いい土地があるよ」と行政の関係者などを紹介され、ご縁があったのが1万3000坪の木更津の土地だった。木更津市は、東京湾アクアラインで川崎市とつながっており、岩根さんにとっては「灯台下暗し」の決断であった。
最大の障壁は資金調達だった。連続式への切り替えで総額は想定を超え、当初予算の3倍に膨れ上がった。同社は、先代社長のときに無借金経営を達成しており、岩根さんも08年の社長就任以来、自己資金だけで事業を回していたため、銀行との取引経験が少なかった。
慣れない資金調達に苦労する中、木更津商工会議所や行政、地元の金融機関が相談に乗ってくれた。「気概のある若い社長を応援しよう」という木更津の人たちの温かい気持ちに触れるうち、岩根さんには「大きな工場で儲けるという数字の話ではなく、この業界を良くしたい。そして温かく迎えてくれた木更津に根を張り、地元に貢献できる企業になりたい」という商売を超えた思いが生まれた。現在も、木更津商工会議所からは、補助金や助成金の紹介を受けたり、地域のイベントに誘われるなど、常に気にかけてもらっているという。同社は、地元の小学校からの工場見学を受け入れるなど、地域に根ざす歩みを進めている。
圧倒的な生産能力と地の利 革新的な断熱パネル
24年に竣工した木更津の新工場は、連続式を導入したプラントとなり、圧倒的な生産能力を誇る。川崎の工場で1カ月かかっていた断熱パネルの生産量を、わずか1日で製造できる。この生産能力を得たことで、岩根さんの視座は、コンビニ向け冷蔵庫だけではなく、日本の冷凍冷蔵倉庫業界全体へと広がった。
海外では連続式による自動製造が当たり前だが、日本では業界のほとんどが職人の手によるバッチ式を採用している。岩根さんは、これを「世界中で当たり前にスマートフォンが売られているのに、日本企業だけがガラケーのみを販売している奇妙な状態」と表現し、業界全体が世界から10年は遅れている印象を受けた。
「日本企業がずっとバッチ式の生産方法だけを続けていれば、そのうち海外から、連続式でつくられた安価な断熱パネルが大量に入ってくるでしょう。これは黒船が大砲を向けているのに、日本には大砲がないのと一緒。国内にせめてひとつでも大砲があるべきだと感じました」と語る岩根さん。自社の新工場を使い、日本のために役に立ちたいという使命感を抱いている。
現在、高度経済成長期に建てられた国内の大型の冷凍冷蔵倉庫や物流センターは50〜60年が経過し、更新時期を迎えている。倉庫の大型化に伴い、断熱パネルも大型化し、分厚い必要があるが、断熱パネルは厚い方が変型しやすく、高度な生産技術が必要となる。従来のバッチ式では、10mの長さが必要な場合、5〜6mのパネルを2枚つなぐしかない。しかし、同社の連続式なら10mのパネルを継ぎ目なしの1枚で製造できる。木更津プラントは、東京湾アクアライン経由で首都圏のどこにでも行きやすいという圧倒的な地の利も手伝い、同社のパネルの販路は急速に拡大している。大手食品メーカーの沖縄にある大型冷凍倉庫にも導入されるなど、売り上げはこれまでの5倍以上になった。
コロナ禍で誕生の新事業と未来を切り開く発信力
一方で、同社を支えてきたコンビニ向け事業も健在だ。通常、コンビニは一定年数ごとに更新需要があるので、同社の受注も安定している。しかし、コロナ禍では出店が止まり、受注がガクンと減るピンチに見舞われた。このとき岩根さんは、それまで忙しさで見落としていた「お寺からの発注」に目を留めた。それは「遺体安置用冷蔵庫」という依頼だった。社会的ニーズを確信した岩根さんは、川崎の本社工場でこの事業を立ち上げ、プレスリリースを発信して、葬儀業界の展示会へ出展。葬儀業者からの要望を反映して、実直に改良を重ね、新たな事業へと育て上げた。現在は、大型物件に専念する木更津工場と、コンビニ冷蔵庫や小規模製品を担う川崎本社とのすみ分けを実現している。
同社は現在、自社の「発信力」を強化している。良いものをつくれば見つけてもらえる時代ではないからだ。同社の規模では珍しく、社内にデザイナー兼広報担当者を登用し、SNSやYouTube、プレスリリースを通じて、自ら情報を発信している。
特に知ってもらいたいのは、倉庫建設に携わる設計事務所やゼネコンだ。「連続式のパネルが、日本で当たり前に使われる未来を目指しています」と語る岩根さん。同社は今後、業界の大手企業とも協力し、日本の断熱パネル業界を進化させていく。
会社データ
社 名 : たつみ工業株式会社 木更津プラント
所在地 : 千葉県木更津市かずさ鎌足2-8-1
電 話 : 0438-53-8080
HP : https://tatumikougyou.co.jp/kisarazu/
代表者 : 岩根弘幸 代表取締役
従業員 : 10人(川崎本社を含むと45人)
【木更津商工会議所】
※月刊石垣2026年8月号に掲載された記事です。
