まだ記憶に新しい昨年のコメ価格の高騰。根本的な理由はさまざまだが、農業人口の減少も大きな要因だ。そんな中で、農業は人手と手間がかかり、もうからないという概念にとらわれずに大地に挑んでいる企業もある。農業を魅力的な新領域と捉えて可能性と商機を見いだした企業のビジネス戦略とは。
宇都宮大学発のベンチャーが切り開く 農業向け作業自動化ロボットの未来
REACTは、農作業支援をはじめとした移動ロボットの開発・製造・販売を行う、宇都宮大学発のベンチャー企業。大学の研究室出身の優秀なエンジニアたちが、ロボットに関する受託開発コンサルティング、技術指導、情報提供を行っている。日本の農業人口が減少する中、ロボットと農業という異色の組み合わせで、農業分野に新たな発展の可能性を見いだした。
イチゴ用包装容器から農業用ロボットの開発へ
REACTは2014年、宇都宮大学のロボティクス・工農技術研究所で創業し、22年に現在の社名となってロボットの研究開発を行っている。
「弊社は、宇都宮大学工学部の尾崎功一教授を中心に開発した、大粒イチゴを傷めず長時間・長距離輸送ができる容器『フレシェル』を販売してイチゴの輸出増を目指すため、合同会社工農技術研究所(略称 アイ・イート)として創業しました。ただ、社長に就任した尾崎教授が農業用ロボットも手掛けていたことから受託開発が増え、そちらが事業の主軸になりました。そこで社名をREACT(Robotics Engineering ACT)に改め、農業用ロボットの開発・製造・販売メーカーとして再出発しました」と、現社長を務める中村克さんは言う(尾崎教授は会長に就任)。
REACTが研究・開発しているのは、屋外向け農作業支援ロボット。人追従動作(自動で人を追尾して動く)やルート教示による自律移動が可能で、農場での重量物の搬送を支援する。工場や倉庫で使われる自動搬送車には、建物内に磁気テープやレールなどの移動ガイドが必要だが、REACTの農作業支援ロボットはガイドが不要のため、屋外の農場でも自律移動が可能となっている。
「これを可能にしているのがSLAM(自己位置推定と環境地図作成の同時実行)です。これは、移動しながら周囲を360度スキャンするレーザーセンサーが空間を認識し、事前に入力された地図と照合しながら確率論的に自機の位置を割り出す技術で、障害物を避けながら走行ができる。レストランの配膳ロボットにも同じ原理が使われています」
さらに、走破性も高く、農場のような不整地でも安定して走行ができる。この特性により、農場だけでなく段差が多い工場からも注目されるようになっている。
受託開発で得た知見や技術をブラッシュアップして製品化
同社のSLAM技術は、尾崎教授の研究室が長年積み重ねてきた移動ロボット研究をベースに、社内で独自にブラッシュアップしたものだ。現在の従業員6人のうち、5人が尾崎研究室出身のエンジニアで、大学の知見と実業の現場が密接に結びついている。これまでの受託開発では、2015年のイチゴ収穫ロボットを皮切りに、白菜収穫実証試験、水田走行ロボット、自動薬剤散布ロボットといった農業関連だけでなく、自動商品配送ロボットや資材運搬ロボット、道路白線の自動塗装ロボットなど、農業から工場、工事現場まで幅広い用途に対応してきた。
「弊社の特徴は、ものづくりを自社で全てやっていること。設計から製造、販売まで、コストも含めてコントロールできる。お客さまからの『こういうロボットを開発できないか?』というご要望から始まり、そこで得た知見や技術をブラッシュアップし、製品としてラインアップに加えています」
農作業支援ロボットに標準装備の人追従動作は、その典型だ。自治体によるナシ農業の補助事業に参画した際、農家の人からの「人の後をついてきてくれると、両手が空いて作業しやすい」という要望を受けて開発した。ロボットには200〜300㎏のものを積載でき、作業に必要な器具や採集した作物を載せて運べば、作業の中断もなく、楽に作業が行える。
「積極的な営業活動は行っていませんが、近年はお客さまから直接開発依頼をいただくケースがほとんどです。農業系の開発で培った技術が、工場・倉庫・工事現場における自動搬送などの領域にも応用されており、今では売り上げの多くを非農業系が占めています」
農業人口減少に自動化で対応
農業用ロボットの可能性に創業当時から着目してきたREACTだが、一方で農業特有の難しさもあると中村さんは率直に語る。
「同じ農業といっても、春から秋にかけて毎月の作業は異なります。そのため、稲作の場合、苗づくり、圃場(ほじょう)の耕し、田植え、除草、稲刈りと、農機は全て専用機にならざるを得ない。しかも使うのは、それぞれ年に1週間程度です。そのような機械で農家が投資対効果を出すのは構造的に難しい。そのため農機メーカーは、非常に低価なものか、さまざまな用途で使えるものを開発するしかありません」
こうした課題に対し、REACTは二段構えの戦略を取っている。同社の農作業支援ロボットは摘果、薬液散布、収穫、枝剪定(せんてい)、移植、運搬などの各種作業に使えるため、時期に制約されることなく活用しやすい。また、製品の売上高も農業向けと非農業向けの割合は1対9、農業系の受託開発での売上高を含めても3対7と、非農業向けが大多数を占めており、これにより収益の安定化を図っている。
しかし、最後に、同社の展望について、中村さんはこう語る。
「農業従事者は、日本の人口減少を上回るスピードで減少しており、農機の自動化なしに農業の維持は不可能です。大手メーカーが参入しにくいこの領域は、ベンチャー企業が力を発揮できる場です。10年後には、とても魅力的な市場になると思います。また、海外に目を向けると、例えば米国の農場などは大規模工場のように区画が均一的で、農機の自動化が向いている。日本で知見を広げていき、将来的には海外市場にも出たいと考えています」
宇都宮大学の一室から生まれた小さなベンチャー企業は、農業におけるロボットの可能性を見据え、大きく羽ばたこうとしている。
会社データ
社 名 : REACT株式会社(リアクト)
所在地 : 栃木県宇都宮市陽東7-1-2 ロボティクス・工農技術研究所内
電 話 : 028-662-3332
代表者 : 中村克 代表取締役社長
従業員 : 6人
【宇都宮商工会議所】
※月刊石垣2026年7月号に掲載された記事です。
