まだ記憶に新しい昨年のコメ価格の高騰。根本的な理由はさまざまだが、農業人口の減少も大きな要因だ。そんな中で、農業は人手と手間がかかり、もうからないという概念にとらわれずに大地に挑んでいる企業もある。農業を魅力的な新領域と捉えて可能性と商機を見いだした企業のビジネス戦略とは。
電気・計装会社が農業に参入 戦略的な分析力で自社の強みを生かす
岡山県倉敷市の旭テクノプラントは、電気・水処理プラントの技術を農業に転用した異色の企業だ。大手が手を出さない小規模・地産地消モデルでレタス栽培に活路を開き、食用花や高機能野菜へと独自の領域を切り開いてきた。地域の食と雇用にも新たな可能性を広げている。
危機感が後押しした農業進出の決断
同社は、浄水場・下水処理場などの電気計装、通信設備の設計・施工・保安管理を主力事業とし、まもなく創業50周年を迎える。新事業模索のきっかけは、2012年頃にさかのぼる。同社は、東日本大震災後に始まった再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)を機に、電気工事の強みを生かしてメガソーラーの建設・保守保安へとビジネスを広げた。しかし、固定価格での買取期間はいずれ終わる。将来への危機感を背景に、社長の藤森健さんは、次の柱として農業参入を決断した。
異業種参入に当たり、藤森さんが重視したのが農学系人材の確保だ。岡山大学農学部で農業ロボットを研究していた三野裕紀さん(現アグリ事業部カンパニー社長)の採用も、その方針に基づくものだった。
植物工場への参入を決めた背景について、三野さんはこう振り返る。
「従来型農業には、長年の経験や勘が必要です。一方、植物工場なら温度や湿度、水、光を管理できます。電気と水の技術を持つ弊社はそこに強みがあると考えました」
調査研究を開始した14年当時は、植物工場ブームの真っただ中だった。業界の主流は1万株を超える大規模設備で、大量生産によるコストメリットを生かして大消費地に流通させるスタイルだった。
同社はソーラーパネルと組み合わせた栽培装置の特許を取得しつつ、管理しやすい屋内栽培に絞る方針を固めた。そして15年、本格的な栽培試験の場を求めて、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する「岡山大インキュベータ」に入居。スモールサイズでの実験を目標に居室を改装し、温度・湿度・CO2濃度・肥料など水耕栽培の最適条件を研究した。この基礎実験の積み重ねが、後の高機能野菜開発へとつながっていく。
三野さんは、大規模生産ではなく、小規模・多品種少量生産に活路を見いだした理由を、こう語る。
「弊社は、あえて1200株というコンパクトな工場からスタートしました。多品種少量生産でお客さまの細かなニーズに応え、小回りの利く営業スタイルを徹底する。そこにこそわれわれが農業分野に参入する余地があると考えました」
品目にレタスを選んだのも、採算性と販路を見据えた判断だった。
「トマトやキュウリ、ナスなどは多くの光量が必要で、植物工場ではコストが見合いにくい面があります。一方、フリルレタスのような非結球レタスは比較的栽培しやすく、総菜加工や外食の現場でも扱いやすい。地域の市場に入り込むには、適した品目だと考えました」
販路は岡山県内に絞り、競合が少ない地域市場を自社の土俵とした。インキュベータでの研究成果をもとに16年には自社ビル内に1200株規模の生産拠点を構え、「倉敷れたす」として販売を開始した。とはいえ、当初は営業をかけても取引に至らないケースが続いた。転機は同年夏、相次ぐ台風で露地栽培のレタスが大きな被害を受け、市場価格が急騰。それまで断られていたバイヤーから注文が入り、天候に左右されない「安定供給」という植物工場の強みが市場に証明された。
販路が開けても内部の課題は残った。LEDの最適な選定、栽培オペレーションの確立、工場側が利益を出せる価格設定の仕組みづくりと、試行錯誤は19年頃まで続いた。
差別化を生む食用花と高機能野菜
生産が安定すると、同社は植物工場だからこそ可能な高付加価値商品へと事業を広げた。20年からは農薬を使わないエディブルフラワー(食用花)の生産・販売を開始。完全閉鎖型の工場で育てるため虫や土汚れの心配が少なく、洗わずそのまま料理やケーキの飾り付けに使え、ホテルや洋菓子店で重宝されている。
さらに秋田県立大学の小川敦史教授らが発明した特許技術をもとに、高機能野菜ブランド「Dr.Commit(ドクターコミット)」を立ち上げた。まず手掛けたのが低カリウムレタス。カリウムを通常の2割以下に抑え、生野菜の摂取を制限される人工透析患者などに生食の選択肢を提供している。続いて高鉄分レタス、高亜鉛レタスを商品化。これらのレタスの店頭価格は通常のレタスの約2倍だが、現在は高付加価値商品として定着している。
もう一つの展開が、障がい者雇用支援サービス「トライスルみらい農園」だ。工場内の栽培区画を企業に貸し出し、その企業で就労する障がい者社員が、空調管理された清潔な環境でレタスやエディブルフラワーを栽培する仕組みだ。現在11社が契約し、管理スタッフを合わせて80人が働く。岡山市・福山市・姫路市・高松市などへの多拠点展開も視野に入れる。
ここで育てられたエディブルフラワーは同社が全量買い取り、地元の高級ホテルや有名パティスリーへ流通させている。「障がい者がつくった商品」としての支援や割安感に頼らずに、市場で認められる品質と価格で勝負する。その姿勢が、働く人たちの誇りや働きがいにつながっている。
植物工場運営のノウハウを提供する総合コンサルティングも事業の柱だ。各地域の特色を生かした商品開発支援、独自ブランドの構築、Dr.Commitのライセンス提供など、他社の植物工場事業を多面的にサポートする。
こうした取り組みによって、農業事業は現在、年間約2億円規模に成長している。さらに、同社は食品工場跡地への生産拠点の移転・増産を進めており、移転後はレタスの生産能力を現在の日産120kgから200kgへ引き上げ、農業事業全体で年間約2億2000万円規模を見込む。
農業事業の恩恵は売り上げにとどまらない。三野さんは「植物工場を運営する会社として広く知られるようになったことで、採用面での注目度も大きく高まっている」と、言葉に力がこもる。
同社の歩みは、農業が「経験者だけの世界」ではなく、中小企業が技術と発想で踏み出せる成長分野であることを示している。
会社データ
社 名 : 旭テクノプラント株式会社
所在地 : 岡山県倉敷市新田2403番地の1
電 話 : 086-430-0123
HP : https://www.asahi-techno-p.co.jp
代表者 : 藤森健 代表取締役
従業員 : 171人(2025年10月時点)
【倉敷商工会議所】
※月刊石垣2026年7月号に掲載された記事です。
