資材価格の高騰や人材不足、技術革新への対応が多くの中小ものづくり企業を直撃している。そんな中、BtoB市場で地道に技術力を磨き、大型工場を建設したり、ブランディングを本格化させたり、さらには次世代のものづくり拠点を立ち上げるなど、「攻めの経営」を進める企業がある。卓越した技術で異業種からの要求にも応えて、新たな需要獲得を目指す地域の企業を紹介していきたい。
超巨大企業から個人まで 太陽光発電を誰でも自由に使える世界に
PXPは、次世代太陽電池(光エネルギーを電気エネルギーに変換する電力機器。太陽光パネルや電卓、道路標識などに、幅広く利用されている)の開発で経験豊富な技術者が集まって設立したスタートアップ企業。従来型の太陽光パネルよりも軽量で曲げることができ、割れにくい性質を持つ太陽電池の開発・実用化に成功し、それに注目した多くの企業や自治体から実証実験の依頼が後を絶たない。現在は製品の量産化のため、工場の本年度中の稼働を目指して急ピッチで準備を進めている。
仲間5人で独立起業 太陽光パネルの開発を継続
PXPは、神奈川県相模原市のインキュベーション施設の一室で産声を上げた。実質的な活動を始めたのは2021年1月。90m2のスペースを借りて中古設備を購入し、大学教授との共同研究という形で技術開発を進めていった。創業メンバーは5人で、その中心にいたのは、かつては日本最大の太陽電池メーカーだった企業の技術系社員たちだった。
「当時、同社の太陽光パネル生産からの撤退は既定路線で、その技術を消滅させたくないという思いから、開発継続を社内で画策しましたが、かなわなかった。それで会社を出てやることにしたのです」と、創業メンバーの一人で現在は社長の栗谷川悟さんは当時を語る。
当時の太陽光パネルの主流は、ガラスパネルを使った重くて硬いもので、メガソーラー(大規模太陽光発電)や住宅の屋根に設置されるものだった。しかし、その市場では大量生産を武器にした中国勢が価格面で優位に立っていた。そこでPXPが選んだのは、従来のものとは異なる、薄くて軽く、曲げられる太陽電池の開発だった。
「理論上、開発できる見通しはついていました。そこで、知り合いの大学教授にも協力をお願いして、共同研究という形で技術開発を進めていき、22年に一定の性能基準をクリアした太陽電池ができるようになりました」
PXPが開発した太陽電池は、厚さ30μm(マイクロメートル)のチタン箔(はく)の上に銅・インジウム・セレンなどの化合物半導体の膜を3μmほど積層してつくられる。この結晶構造を「カルコパイライト」と呼び、それをこの太陽電池の名称にした。
展示会への出展をきっかけに実証実験の依頼が相次ぐ
PXPは、完成したカルコパイライト太陽電池を引っ提げ、自動車関連の先端技術が一堂に集まる展示会「オートモーティブワールド」に初出展。すると、自動車関連の展示会にもかかわらず、太陽電池に関心を持つ来場者がPXPのブースに数多く集まった。
「今後は、電気自動車が伸びることが予想され、そうなると電気不足の問題が起こるのは間違いない。それに対して薄くて軽い太陽電池の需要は高いに違いないということで自動車関係の展示会に出展しました。これが大きな転機になり、その時にお付き合いが始まった会社の多くが、現在の私たちの潜在顧客や株主になっています」
多くの資金的支援を得たことから、24年11月に大型増資を実施。ソフトバンクが筆頭株主となり、PXPの名は広く知られるようになった。ただ、電気自動車に太陽電池が必要とされるにはまだ時間がかかると思われた。
「当時、市場として一番有望だったのが工場や倉庫など産業施設ですが、重量制限で屋根に太陽電池を設置できないところが国内に数多くありました。そこで、まずはそこに焦点を絞り込みました」
すると、産業施設の屋根向け施工方式を開発した大手設備会社から声が掛かり、25年5月にその会社の屋根でカルコパイライト太陽電池を用いた大面積発電の実証実験が始まった。さらに今年1月には、PXPが開発したタンデム太陽電池(カルコパイライト太陽電池と、次世代型太陽電池として注目されているペロブスカイト太陽電池を積層化し、電気変換効率を上げたもの)の社会実装に向けた連携協定を神奈川県と結んだ。
「タンデムは、最近注目されている技術で、昨年末の政府の閣議決定で、太陽光発電に関する支援策が盛り込まれました。カルコパイライトは赤い光、ペロブスカイトは青い光の変換効率が高く、組み合わせることで変換効率を28%超まで上げることができます」と、栗谷川さんは力を込める。
神奈川県との連携から始まった自治体との実証実験は、現在は福岡県・新潟県とも取り組みを進めている。そのほかにも、路線バスの屋根に設置した実験では燃費が5%改善し、宅配便などに使われる保冷車では最大13%の燃費削減効果が確認された。そして最も多いのが大きな工場を持つ企業からの依頼で、まずは屋根の一部に設置し、効果が実証されれば、本格導入に進む可能性が高い。
「これ、いいね」の一言から潜在顧客が広がっていく
「私たちがなにより大切にしているのは、使っていただいた方々に『これ、いいね』と言っていただくこと。それが次のお話につながる。これまで私たちは一度も自ら売り込みに出たことがありません。株主からの紹介や、実証実験で使用した企業から口コミで広めていただく形で、潜在顧客が自然に広がっていきました。今は製品の量産化のため、本年度中に新工場を稼働させる予定です。私たちの目標は、太陽光発電というクリーンなエネルギーを、いつでもどこでも誰でも自由に使える世界にすること。それを目指して努力を続けていきます」
インキュベーション施設の一室で5人のチームから始まったPXPは、量産工場の稼働を目前に控え、さまざまな企業からの太陽光発電によるクリーンエネルギーのニーズに応えるべく、さらに大きく羽ばたこうとしている。
会社データ
社 名 : 株式会社PXP
所在地 : 神奈川県相模原市中央区東淵野辺4-26-9
電 話 : 042-703-5250
HP : https://pxpco.jp
代表者 : 栗谷川 悟 代表取締役社長
従業員 : 25人(派遣社員含む)
【相模原商工会議所】
※月刊石垣2026年8月号に掲載された記事です。
