かつては、まちのランドマークともいわれた地方百貨店の衰退が止まらず、今や県内あるいは中核都市に1店舗という地域も少なくない。しかし、地域に浸透した知名度やブランド力、立地の良さなど百貨店の強みを再構築し、“地域再生への核”としての取り組みを進めている百貨店もある。
20年ぶりとなる改装が示す百貨店の役割転換と地域価値の発信拠点づくり
岩手県唯一の百貨店「パルクアベニュー・カワトク」が、2023年の新会社移行を機に約20年ぶりの大型改装に踏み切った。若い世代を意識した売り場再編に加え、地元企業との協業や市内大型商業施設との連携も進め、地域の価値を発信する拠点へと百貨店の役割を捉え直そうとしている。
郊外型SCの地元進出を機に本店への機能集約化を決断
「パルクアベニュー・カワトク」を運営する川徳の創業は、1866年。木綿商として出発し、呉服店を経て百貨店へと発展。1980年には盛岡市菜園へ本店を移転し、現在の店名と体制を整えた。
転機となったのが2023年である。川徳の名前を残しながら官民ファンドが主導する新会社・新体制へ移行し、組織改革と経営効率化を進めると同時に、本館の大型改装に着手した。
24年度の売上高は160億円、従業員数は225人(26年1月末時点)。盛岡市中心市街地の中核として、北東北有数の規模を持つ百貨店である。
川徳を取り巻く経営環境は、厳しかった。人口減少や顧客層の高齢化で市場が縮小する中、EC(電子商取引)の浸透や郊外型SC(ショッピングセンター)の進出が進み、盛岡エリアの競争環境は大きく変わった。コロナ禍によるアパレル不振に加え、売り場改装の遅れや顧客ニーズと店舗MD(マーチャンダイジング)のずれも重なり、課題は複合的に積み上がっていた。
社長の斎藤英樹さんは、とりわけ郊外型SCとの競争が強まった要因として、地方都市ならではの車社会があるとみる。盛岡市は、公共交通機関が大都市圏ほど発達していないため、車移動を前提とした生活圏が形成されやすい。「そのため、無料の広大な駐車場を構えているSCに人が集まる構図はあったと思います」。中心市街地に立地する百貨店にとって、郊外型SCとの競争は避けて通れない現実だった。
実は川徳には、菜園の本店に加え、郊外型SCとして展開してきたアネックス店があった。1989年の開業以来、アネックス店は郊外の住宅地に広がる需要を捉え、食料品や専門店を備えた商業拠点として親しまれてきた。だがその後、郊外型商業施設の大型化や競争激化が進み、アネックス店が担ってきた役割は相対的に薄れていった。こうした環境変化を踏まえ、川徳は経営資源を分散させるのではなく、菜園の本店に機能と魅力を集約する方が、長期的な地域貢献につながると判断した。
多様な人が交わる場をつくる
改革の起点となったのは、23年1月に始まった改装プロジェクトである。当時、営業戦略担当だった斎藤さんが実務責任者を担い、各カテゴリーの経験者から選抜した6人の社内メンバーを軸に議論を重ねた。まず問い直したのは、地方百貨店として何を担うべきかという点である。その議論を通じて定めたのが、「人と文化と未来を創る百貨店」というストアコンセプトだった。改装は単なる内装更新ではなく、店の役割と価値を言語化し直す作業でもあった。
改装の柱の一つは、顧客戦略の見直しである。売り場全体の約3割を見直し、これまでの重点顧客への提案を強化しながら、20代から40代を中心とする戦略顧客の来店につながる品ぞろえへと転換した。化粧品やファッションの再編に加え、各地の物産展、美術品や工芸品の催事、アニメやキャラクターをテーマにした企画催事も強化した。若い世代を含め、幅広い層が足を運ぶきっかけを増やしてきたのである。
その象徴が、障害者アートのライセンス事業を手掛けるHERALBONY(ヘラルボニー)の旗艦店として、25年3月に1階正面に開いた「HERALBONY ISAI PARK」(ヘラルボニー イサイ パーク)である。ショップ、ギャラリー、カフェを組み合わせた複合型拠点で、「体験」「多様性」「地域」を軸に、盛岡の中心に多様な人が行き交う公園のような場として構想された。
なかでもカフェ「無題」では、福祉事業所「いわてひだまり農園」の利用者が施設外就労という形で運営を担っている。従来の就労支援の枠を超え、誰もが輝く社会の在り方を、来場者が食や接客を通じて体感できる場でもある。
川徳は、この改装に合わせて初めてクラウドファンディングを実施した。1000万円の目標に対して2359万円が集まり、支援者からは、家族で通った思い出や、「なくなったら困る」といった声も多く届いた。川徳の変化に対する地域の期待の大きさを、数字が示したのだ。
川徳にとって「イサイ パーク」は、単なる新規テナントではない。百貨店の一等地から、岩手発の文化と福祉の実践を発信するという意思の表れである。1階正面にラグジュアリーブランドを入れるのではなく、地域と社会の未来を映す拠点を置いたところに、この改装の思想が表れている。
この発想は、店内にとどまらない。川徳が目指しているのは、自社だけがにぎわえばよい、という百貨店ではなく、まち全体の魅力を高める結節点としての役割である。その延長線上にあるのが、中心市街地6カ所の大型商業施設が連携する「モリノワプロジェクト」だ。
共同販促や情報交換、「もりおかまちあるきマップ」の作成を通じて、個店の集客ではなく、エリア全体を回遊してもらう仕組みづくりを進めている。ヘラルボニーとの協業が、店の中で「多様な人が交わる場」をつくる試みだとすれば、モリノワプロジェクトは、その発想をまち全体へ広げる取り組みといえる。地元にないものを外から持ち込むだけでなく、このまちにある価値をつなぎ直し、外へ発信していく。川徳はいま、そうした地域のハブとしての役割を強めようとしている。
現場力強化と地域の後押しで新たな百貨店像を形にする
改革の過程では、社内の抵抗もあった。新会社移行時には早期退職を含む人員削減(約40人)を経験し、残る社員には店舗再生への覚悟が求められた。
見直されたのは売り場だけではない。ブレーンストーミングでは「川徳の強みは接客にあるが、コロナ禍を経て、その質が落ちているのではないか」という危惧が社員から上がった。その声を受け、ミステリーショッパー(覆面調査)の導入や販売ロールプレーイングによる接客力の再強化に着手した。売り場の刷新と人材の底上げを同時に進めることが、改装を施設改修で終わらせない条件だと川徳は判断している。
斎藤さんが見据えるのは、モノを売るだけの百貨店ではない。長年培ってきた目利き力と編集力を生かし、地域のつくり手や文化資源の価値を見いだし、磨き、広く伝えていく拠点である。外から価値を運び込むだけでなく、岩手にある価値を外へ発信していく。その役割を果たせるかどうかが、これからの川徳を左右する。
創業160年の百貨店はいま、次の100年を見据え、地域プロデューサーとしての役割を果たそうとしている。
会社データ
社 名 : 株式会社川徳(かわとく)
所在地 : 岩手県盛岡市菜園1丁目10番1号
電 話 : 019-651-1111(代表)
代表者 : 斎藤英樹 代表取締役社長
従業員 : 225人(26年1月末時点)
【盛岡商工会議所】
※月刊石垣2026年5月号に掲載された記事です。
