運動会などで活躍した拡声器、子どものおもちゃ、マッチや畳など、一時は暮らしや娯楽に欠かせなかった商品を扱う企業も、今や廃業の危機……。いやいや、培ってきた技術と時代に合わせた発想で“レトロ商品”をアップグレードして、新たな販路を切り開くことは可能だろう。老舗の誇りを賭けたものづくり企業の生き残り戦略に注目だ。
地元の独楽文化を後世につなぐため木のユニーク商品で裾野を広げる
昔懐かしいおもちゃである独楽(こま)。だが、その存在は風前のともしびだ。福岡県八女市で、八女独楽をつくる唯一の工房・隈本木工所は生き残りをかけ、独楽づくりの技術を知育・木育事業に展開している。3Dの加工技術を積極的に導入し、ネット販売にも注力。進化しながら伝統と文化を守り続け、優れたおもちゃが受賞する「グッド・トイ」に毎年選出されている。
独楽づくりの技術を木のおもちゃづくりに応用
日本における独楽の歴史は古い。中国から竹製の独楽が伝わったのが、今から約1300年前といわれている。宮廷の儀式に用いられ、時代と共に子どものおもちゃとして親しまれてきた。江戸時代には各地で特色のある独楽が生み出され、独楽の一大産地である九州では、独楽をぶつけ合って競う〝喧嘩(けんか)独楽〟という独自の文化が発展した。
「喧嘩独楽は、胴体に鉄芯を打ち込んだ博多独楽をルーツに、肥後独楽や佐世保独楽など、地域色豊かな独楽が誕生しました。工房のある八女市には、博多と肥後の特性を併せ持つ『八女独楽』があります」
そう語るのは、福岡県八女市に工房を構える隈本木工所の六代目代表・隈本知伸さんだ。提灯(ちょうちん)や仏壇の部品加工などのろくろ技術を生かし、1899年に独楽工房として起業した老舗だ。最盛期には九州に40軒ほど工房があったが、今や八女独楽をつくる工房は、隈本木工所のみである。地域の特産品であり希少性も高いが、経営は安泰かといえば、そうではない。
「八女独楽をはじめとした木のおもちゃづくりをしています。そもそも独楽で遊ぶ子どもたちも、独楽の回し方を教えられる大人の数も減りました。独楽づくりの技術を絶やさないためにも、技術を応用したおもちゃづくりに着手しました」
伝統の技×デジタル技術で販路拡大や商品開発を推進
2002年に木のおもちゃづくりに乗り出し、けん玉や積み木など、独楽以外のおもちゃを次々開発した。九州産の木材を使用し、乳幼児がおもちゃをなめても支障がないように、自然塗料メーカー大手のドイツのリボス社やオスモ社の塗料を採用するなど、一つひとつ丁寧に仕上げた。
「しかし、良いものをつくれば売れるという時代ではありません。八女商工会議所の声かけで、大阪や東京の物産展や展示会に出展して販路拡大を試みたことがあります。その時に一緒に出展した地元の方々と、オンラインショップの勉強会を開く流れが生まれ、そこからホームページの作成や運営を依頼できる人との出会いがあって、06年にネット販売に踏み切りました。当初は鳴かず飛ばずですけどね」
