2020(令和2)年5月29日 経済産業省・厚生労働省・文部科学省
競争力の源泉は企業変革力 デジタル化の強化が鍵
経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省はこのほど、2020年版「ものづくり白書」(令和元年度ものづくり基盤技術の振興施策)を発表した。今回で20回目となる同白書では、「わが国製造業が、この不確実性の時代において取るべき戦略」がメインテーマとなっており、具体的には、「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」の強化と、その有効な手段としての「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の具体策が述べられている。特集では、同白書の概要を紹介する。
第1章 わが国ものづくり産業が直面する課題と展望
第1節 わが国製造業の足元の状況
1.業績動向①(新型コロナウイルスの感染拡大による影響)
○新型コロナウイルス感染症は当初、中国武漢を中心とした自動車などのサプライチェーンに影響。その後、感染拡大に伴い、各国の需要減が国内製造業を直撃した。自動車などの国内生産拠点においても生産調整となる例が相次いだ。
業績動向②
○2019年10-12月期のGDP速報においても、個人消費や設備投資が縮小。製造業の業績は米中貿易摩擦や天候要因、その他の不安材料の影響を受けて売上高・営業利益の足元の水準、今後の見通しともに弱さが見られる状況だった。
2.設備投資動向と設備老朽化の状況
○設備投資の動向は近年回復傾向にあったものの、2019年以降は横ばい。
○生産設備導入からの経過年数は長期化傾向にある。
第2節 不確実性の高まる世界の現状と競争力強化
1.世界における不確実性の高まり
近年、米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染症の拡大など、世界の不確実性が高まっている。
「不確実性は、新しい常態(ニュー・ノーマル)(ゲオルギエバIMF専務理事)」となりつつある。
○製造業は、1980年代半ば以降、グローバル・サプライチェーンを形成してきた。しかし、不確実性の高まりにより、グローバル・サプライチェーン寸断のリスクが浮上。
○効率性だけでなく、経済安保の観点も含め、柔軟性を備えたサプライチェーンの再構築が必要に。
2.企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化
○不確実性の高い世界では、環境変化に対応するために、組織内外の経営資源を再結合・再構成する経営者や組織の能力(ダイナミック・ケイパビリティ)が競争力の源泉となる。
○ダイナミック・ケイパビリティの要素は「感知」「捕捉」「変容」の三つの能力(デビッド・J・ティース・UCバークレー校ビジネススクール教授)。
○これらの能力を高めるためには、デジタル化が有効。デジタル化の意味は、「ダイナミック・ケイパビリティの強化」にある。
○国内製造業の中には、高いダイナミック・ケイパビリティを発揮してプロセス改革を行い、さまざまな環境変化に柔軟に対応し、実力を伸ばしてきた事例も複数存在。
第3節 ダイナミック・ケイパビリティを強化するデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進
1.日本の製造業のデジタル・トランスフォーメーションにおける課題
○デジタル化はダイナミック・ケイパビリティ強化に有効。
○一方、製造業のデジタル化やデータ活用は、製造工程についても、マーケティングとの連携についても十分に進んでいない。
○平時の際の効率性や生産性を重視する企業のIT投資は旧来の基幹システム更新や保守が目的。
○不測の事態に対する柔軟性を重視する企業のIT投資はビジネスモデル変革に向かっている。
2.設計力強化戦略①
○デジタル化の進展に伴い、競争力の源泉はエンジニアリング・チェーン(※)の上流にシフト。
○エンジニアリング・チェーンの上流を厚くすることで設計力を強化し、設計から生産までのリードタイムを短縮。こうしたフロントローディングによりダイナミック・ケイパビリティを強化する。
○設計の能力を強化し、フロントローディングを進めるためには、データの活用や設計のデジタル化(3Dデータでの設計)による設計・製造・サービスの連携が重要。
○しかし、3D設計は普及しておらず、企業間や部門間でのデータの受け渡しも図面を中心に行われている。この理由としては、主な設計手法が依然2Dであること、調達部門が見積もりのために図面を必要とすること、発注内容と現物を照合する現品表を兼ねていることなどが多くなっている。
3.製造現場における5Gなどの無線技術の活用
○5Gなどの無線技術は、工程設計の柔軟化を通じてダイナミック・ケイパビリティの強化に資するとともに、遠隔からのリアルタイムでの指示を支援することで技能者不足に対応。
○次世代通信技術について過半数は「関心がある」ものの、「ビジネスへのインパクトが分からない」状況。また、「セキュリティー」や「通信の信頼性」などの技術的課題も存在する。超低遅延、多数同時接続といった特徴を生かした製造現場での本格活用に向けた検討が必要。
4.製造業のデジタル・トランスフォーメーションに求められる人材
○製造業のデジタルトランスフォーメーションに必要な人材の確保状況を確認すると、IT人材は「量」の面で特に不足感が強まっている。人材供給は、デジタル化によるエンジニアリングチェーンの強化に向けた課題の一つ。
○数学知識を持つ人材の活躍機会の拡大が、ものづくり産業でも求められている。
第2章 ものづくり人材の確保と育成
第1節 デジタル技術の進展とものづくり人材育成の方向性
1.ものづくりを支える人材の雇用・労働の現状
○国内の製造業就業者数については、2002年の1202万人から19年には1063万人と、20年間で11・6%減少しており、全産業に占める製造就業者の割合も減少傾向である。また、製造業に関する事業所数も、20年間で約半数に減少。
○国内総生産(名目GDP)における産業別構成比の変化と推移を見ていくと、製造業は20年間で徐々に減少しているが、事業所数が半減していることや、人手不足感が強まる中にもかかわらず、依然としてわが国のGDPの2割程度を占めている。また、非製造業と比べて製造業の方が名目労働生産性の水準は高く、高付加価値化が進展している。
○雇用情勢は近年着実に改善していたものの、足元では、新型コロナウイルス感染症の影響による解雇・雇い止めや雇用調整の可能性があるとする事業所も見られ、今後よく注視していく必要がある。
2.ものづくり現場を取り巻く環境変化とものづくり人材の確保
○ものづくり企業が直面している経営課題を見ると、大企業では「価格競争の激化」と回答した企業割合が最も高く、次いで「人手不足」「人材育成・能力開発が進まない」が続く。中小企業では、「人材育成・能力開発が進まない」と回答した企業割合が最も高く、「人手不足」「原材料費や経費の増大」と続いており、企業規模にかかわらず、人材育成・能力開発にも課題を感じているものづくり企業が多い。
○事業環境・市場環境の状況認識を見ると、「より顧客のニーズに対応した製品が求められている」「製品の品質をめぐる競争が激しくなっている」「原材料コストやエネルギーコストが大きくなっている」と続き、経営課題に直結する、厳しい認識に基づいた回答が多数を占めている。
○今後、新型コロナウイルス感染拡大の経済・雇用への影響について、引き続き注視していく必要がある。
○技能系正社員、技術系正社員いずれにおいても、それぞれ「ICTなどのデジタル技術を組み込んだ設備・機器などを利用する知識」「ICTなどのデジタル技術をものづくり現場などへ導入・活用していく能力」について、5年後の見通しが現在の認識の約3倍となっており、ものづくり企業が今後重要となってくる能力であると認識している。
○一方で、デジタル技術を活用している企業は、主力製品の製造に当たって重要となる作業内容の5年後の見通しにおいても、「今までどおり熟練技能が必要」と回答した企業割合が、多くの作業内容で50%を超えている。今後、ものづくり人材にはデジタル技術を活用できるスキルがより一層求められ、同時に、わが国ものづくりの源泉である熟練技能は、多くの企業が、今までどおり必要と考えている。
3.ものづくり現場におけるデジタル技術の活用と人材育成
○ものづくりの工程・活動におけるデジタル技術の活用をしている企業は、約半数となっている。
○デジタル技術の活用に当たって、先導的な役割を果たした社員は、企業規模にかかわらず「経営トップ」と回答した企業が多い。
○デジタル技術を活用している企業では、デジタル技術の活用を担う人材確保の方法は、「自社の既存の人材をOJT(職場での仕事を通じた教育訓練)で育成する」「自社の既存の人材をOFF―JT(外部セミナー・講習への参加など職場を離れた教育訓練)で育成する」と続いている。
○自社の労働生産性が3年前と比較して「向上した」と回答した企業、人材の定着状況が「よい」と回答した企業は、デジタル技術を活用している企業が、デジタル技術未活用企業よりも高い。
○デジタル技術を活用したことによる、ものづくり人材の配置や異動における変化については、「そのままの人員配置で、業務効率が上がった、成果が拡大した」と回答した企業が約半数で、最も多くなっている。
4.デジタル技術の進展に対応するものづくり企業の取り組み
(省略)
5.デジタル技術を活用する企業における人材育成
○デジタル技術を活用している企業は、「当面の仕事に必要な能力だけでなく、その能力をもう一段アップできるよう能力開発を行っている」と回答した企業割合が最も多く、一歩先を見据えた人材育成・能力開発方針を立てている。
○人材育成・能力開発の取り組みについては、デジタル技術を活用・未活用にかかわらず、「日常業務の中で上司や先輩が指導する」が多いが、デジタル技術を活用している企業は、作業のマニュアル化により効率化を進め、同時に従業員の能力開発においては、OFF―JTや、自己啓発支援など、職場を離れた訓練も進めている姿勢がうかがえる。
○ものづくり人材を育成するための環境整備については、デジタル技術を活用している企業、デジタル技術未活用企業どちらも、「改善提案の奨励」「実力・能力重視の昇進・昇格」と続くが、いずれの取り組みにおいてもデジタル技術を活用している企業割合が高い。
第2節 ものづくり産業における人材育成の取り組みについて
1.より効果的なものづくり訓練の実施に向けて
(省略)
2.中小企業などの労働生産性の向上に
(省略)
3.企業内の人材育成などによる職業能力開発の推進
〈企業内の人材育成〉
○事業主が行う企業内人材の育成支援として、「人材開発支援助成金」を支給している。19年4月からは、リカレント教育機会の拡充を図ることを目的として、助成対象にeラーニングを活用した職業訓練を追加するなどの見直しを行った。
〈事業主団体などが実施する認定職業訓練〉
○都道府県知事の認定を受けた認定職業訓練を実施している中小企業事業主等に対して、国や都道府県が定める補助要件が満たされている場合、国および都道府県から訓練経費などの一部につき補助を実施している。
〈民間教育訓練機関における職業訓練サービスの質の向上に向けた取り組み〉
○民間教育訓練機関の訓練の質の向上のため、11年12月に「民間教育訓練機関における職業訓練サービスガイドライン」を策定し、普及・定着に向けて全国で研修を実施している。
〈中小企業等担い手育成支援事業〉
○18年度に「中小企業等担い手育成支援事業」を創設し、中小企業などの正社員経験が少ない労働者に対し、訓練の計画策定や進捗管理、確実な技能取得のための訓練(3年以内の雇用型訓練)の実施を支援している。
4.若者のものづくり離れへの対応
〈ポリテクカレッジをはじめとする学卒者訓練〉
(省略)
〈若年者への技能継承〉
○ものづくり分野で優れた技能などを有する熟練技能者を「ものづくりマイスター」として認定し、企業などに派遣して若年技能者などに実技指導を行っている(「ものづくりマイスター」制度)。
○16年度から、ITリテラシーの強化や将来のIT人材育成に向けて、小学生から高校生に対して情報技術関連の優れた技能を持つ技能者を「ITマスター」として派遣している。
〈ものづくりの魅力発信〉
○広く社会一般に技能尊重の気運を高めるため、卓越した技能者(現代の名工)の表彰や各種技能競技大会(若年者ものづくり競技大会、技能五輪全国大会、全国障害者技能競技大会(アビリンピック)、技能五輪国際大会、技能グランプリなど)を開催。
〈地域若者サポートステーション〉
○厚生労働省が委託した若者支援の実績やノウハウのあるNPO法人などが、若年無業者などに対して就労に向けた支援(キャリアコンサルタントなどによる相談や就労体験など)を実施している。
5.社会的に通用する能力評価制度の構築
〈技能検定制度〉
○技能検定制度(労働者が有する技能を一定の基準に基づき検定し公証する国家検定制度)により、ものづくり労働者をはじめとする労働者の技能習得意欲を増進させるとともに、労働者の社会的地位の向上を図っている(職種数130職種、20年4月1日現在)。
○17年9月から、ものづくり分野の技能検定の2級または3級の実技試験を受検する歳未満の者に対して、最大9000円を支援している。
〈職業能力評価基準〉
○詳細な企業調査による職務分析に基づき、仕事をこなすために必要な職業能力や知識に関し、担当者から組織や部門の責任者に必要とされる能力水準までレベルごとに整理し体系化したもの(20年4月現在、電気機械器具製造業などの56業種)。
〈社内検定認定制度〉
○厚生労働大臣が認定する制度で、事業主などがその事業に関連する職種について雇用する労働者の有する職業能力の程度を検定する制度(20年4月現在、49事業主など131職種)。
6.キャリア形成支援
〈キャリアコンサルティング〉
(省略)
〈ジョブ・カード制度〉
○15年10月から、ジョブ・カードを「生涯を通じたキャリア・プランニング」および「職業能力証明」のツールとして見直し、職業能力開発促進法に基づく新制度として普及促進している。
(省略)
第3章 ものづくりの基盤を支える教育・研究開発(省略)
全文はhttps://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2020/honbun_pdf/index.htmlを参照。
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