美術館のビジネスモデルを変える国内初・唯一のNFT特化型美術館
2022年3月、NFTアートに特化した「NFT鳴門美術館」が誕生した。作品展示だけではなく、作品のNFTの発行、審査、販売、流通を担う日本初にして唯一の美術館だ。アートとNFTを掛け合わせた美術館運営は、投資や資産運用が軸ではない。デジタル社会が進む今、アートの歴史と価値を守るべくNFTを活用している。
美術館の収益構造をNFTで変える
NFT(非代替性トークン)で注目されているジャンルに、NFTアートがある。これはブロックチェーン技術を活用し、改ざん不可能な唯一無二と証明されたアートのことで、昨今、急激に価値を高めている。デジタルデータは簡単にコピー&ペーストや加工できるが、だからこそ、オリジナルデータの所有権を明確にする証明書としてNFTの有用性が評価されているのだ。それを裏付けるかのように、NFTアートの取引額は十数億円に上るものがあるほどだ。例えば米国人アーティストのビープルのデジタルコラージュ作品は、21年3月に約75億円というNFT史上最高額で落札され、投資商品としてNFTアートが注目されたこともある。
その流れの中、22年3月「NFT鳴門美術館」が一般公開された。だが、代表理事の山口大世さんは全く違う視点でNFTを捉えている。 「前身は『鳴門ガレの森美術館』で、コロナ禍による来館者数の激減で、元の所有者が手放そうとしていたところを買い取りました。地方の美術館、博物館の収益は、入場料収入と国や自治体からの助成金の半々で基本的に赤字経営です。それにコロナ禍が追い打ちをかけて立ち行かなくなっている現状があります。そこで、新たな収益構造の構築、改ざんされない記録としてのデータ保存の有意性としてNFTに特化した美術館に刷新しました」
美術館は県との共有財産であるが、財団法人から一般財団法人に切り替え、自己資金を投じて館内のほとんどをAIアートやNFTアートに一新。初年度の来場者数を前年比の25〜30倍に押し上げた。
アートを鑑賞する場から参加できる場へ
山口さんが取り組んだのが、「作品を鑑賞する場」から、誰もが「作品を展示できる場」という〝参加型美術館〟への転換だ。その具体策が1枚2万円の「NarutoMuseumPass」で、22年5月13日に発売し、3日間で約1200万円の売り上げを計上した。このパスを購入すると無期限で美術館の入場料が無料になることに加え、自身が所有するNFTアートを美術館やメタバース上で展示することができる。作品は有名無名、ジャンルを問わないため、美大生や若手クリエーターの登竜門として利用価値が期待でき、NFTアートの所有者から見ても多くの人に作品を公開できるという魅力的な特典だ。 「新しいことに興味のある県外の方が多くご来場くださって、オープン当初から助成金を申請せずに収益化できています」(山口さん)
また、さまざまな作品との提携やコラボレーションも積極的に実施した。細田守監督の『竜とそばかす姫』と日本のアパレルブランド・アンリアレイジのコラボレーションNFT作品を落札。一般公開およびパブリックオークション形式で販売したり、羽田未来総合研究所とタッグを組んで、羽田空港第1ターミナルでアニメNFT展示イベントを開催したりと、アート業界に新風を巻き起こしていった。
個人の「思い出の品」も美術館が保管・管理
山口さんは、美術館がNFTの発行、審査、販売、流通を担うメリットは大きいと説く。というのも、NFTアートは作者と同じくらい発行元が重要で、無名の一個人が発行するNFTより、美術館発行の方が公共性、専門性の面でも信頼できるからだ。 「NFTと美術館の親和性はそこにあります。AI技術が猛スピードで発達する中、デジタル化だけでは歴史的な資料も作品も真偽の見分けがつかないほど改ざんが容易です。そこで、ブロックチェーン技術を活用して、安全かつ安心な市場を創出し、アートの所有や売買ができるようにするためにも、NFTを活用しない手はありません。美術館の役割としても、『デジタルアーカイブ』に力を入れていきたいと考えています」
さらに、山口さんは革新的な美術館保管サービスとして打ち出したのが「パーソナル・ヒストリー・ストレージ」だ。これは個人の歴史や思い出の品をNFTや美術館の金庫で保管・保存できるというもの。金額によって保管できるボリュームは異なるが、現物保存は共通して80年間美術館で、デジタルデータはブロックチェーンによって無期限で保存・管理される。 「ゆくゆくはカンパニーヒストリーへとサービス拡大していく予定です」と、個人から法人というアプローチでNFTの認知度と価値の向上を図る算段だ。 「NFTは、適正かつ透明性が高い歴史の保存ツールとして有効です。これはアート業界に限ったことではなく、個々のビジネスにどうNFTを活用できるのか、地元商工会議所や各業界と連携しながら伝えていくことも今後考えていきたいです」
NFTの可能性を知るためにも、美術館の動向から目が離せない。
会社データ
社名 : 一般財団法人NFT鳴門美術館(えぬえふてぃーなるとびじゅつかん)
所在地 : 徳島県鳴門市撫養町林崎北殿町149
電話 : 088-684-4445
HP : https://nftjp.org
代表者 : 山口大世 代表理事
従業員 : 4人(パート含む)
【鳴門商工会議所】
※月刊石垣2023年10月号に掲載された記事です。
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