はじめに
本日は、日本商工会議所第137回通常会員総会の開催に当たり、政府・政党のご来賓の皆さま、全国の商工会議所の皆さまに、ご出席・ご視聴いただき誠にありがとうございます。
まず、先日の台風や豪雨災害に見舞われた被災者・事業者の皆さまに、心からお見舞い申し上げます。一日も早い復旧・復興を祈念します。
中小企業・小規模事業者の自己変革を伴走型で支援
この夏、5月の新型コロナの5類への引き下げにより、夏祭りなどのイベントが復活し、帰省客やインバウンドを含めた観光客が増加するなど、社会経済活動が戻り、ようやく活気が戻ってきました。いよいよコロナを乗り越える「ビヨンドコロナ」のステージに入りました。
コロナ禍において消費者のニーズが変わりましたので、企業は新たなニーズを捉え、ビジネスモデルを転換し、革新的な商品・サービスを提供することが求められます。われわれ、商工会議所は、「中小企業・小規模事業者の自己変革」へのチャレンジを、伴走型で力強く支援することが必要です。
今月、政府の感染症対策の司令塔(内閣感染症危機管理統括庁)が発足しました。コロナ禍の経験を今後の感染症対策の糧とし、次のパンデミックに備えていただきたいです。
対話を踏まえた政府への提言
昨年11月の会頭就任時、「現場主義」「双方向主義」の継承・徹底を掲げました。「対話が原点である」というのが、今も昔も変わらない私の信条です。早速、就任直後から、全国の多くの商工会議所の皆さまと対話を重ねてまいりました。
日頃、地域と企業の発展に向け誠心誠意、取り組んでおられる会頭をはじめとする皆さまから、中小企業や地域経済の実態や課題、さまざまな活動をお聞きし、とても感銘を受けました。また、商工会議所として目指すべき方向性が見えてまいりました。
皆さまのご意見などを踏まえ、岸田内閣総理大臣が主宰する新しい資本主義実現会議をはじめ政府のさまざまな会議に参画し、成長戦略や中小企業政策、DX・GX、少子化対策など、わが国の重要政策課題について、商工会議所の立場から提言しました。
第2次岸田再改造内閣に望む
直近では、9月13日に内閣が再改造されましたので、早速、「第2次岸田再改造内閣に望む」を取りまとめました。
3年余に及んだコロナ禍が収束に向かい、経済活動の正常化が加速しています。わが国は今、力強い経済成長により四半世紀にわたるデフレ経済から完全に脱却し、成長と分配による経済好循環を実現する「時代の転換」を図る絶好の好機を迎えています。
新しい資本主義をはじめとした政策と企業の積極的な挑戦により、足元では、企業の設備投資意欲が顕在化し、例年より高い賃上げが実現されるなど、時代の転換が萌芽(ほうが)し始めています。
明るい兆しが見られる一方、中小企業は、継続的な円安による原材料・エネルギー価格高騰によって収益が圧迫される中、慢性的な人手不足による防衛的賃上げを余儀なくされるなど、大きな課題に直面しています。
特に地方では、自然減と社会減の両方の人口減少に伴い、働き手が減少し域内消費が低迷するなど、地域経済の疲弊に拍車をかけています。
時代の転換点にある今こそ、経営者は自己変革に果敢に挑戦し、未来を切り開くことが必要です。われわれ、商工会議所は、「多様な主体の連携拠点」として、中小・中堅企業と地域の発展に全力で取り組む必要があります。
政府におかれては、国民と企業の成長期待を高め、地域において良質な産業と雇用が創出されるための大胆な経済財政政策を一気呵成(かせい)に実行すべきであり、以下の3点が、大きな課題であると考えています。
経済好循環の推進力である中小企業の変革と持続的発展
1点目は、「経済好循環の推進力である中小企業の変革と持続的発展」です。
わが国の中小企業は、雇用の7割を抱え、従業員、家族などを合わせると人口の半分を上回る、地域経済・コミュニティを支える存在です。わが国経済の持続的な成長には、GDPの6割を占める個人消費の拡大が不可欠であり、実質賃金がカ月連続でマイナスとなる中、中小企業関係者の継続的な賃上げや生活の向上なしに、日本経済の再生はあり得ません。
持続的な賃上げを実現するには、「中小企業の稼ぐ力」を強化することが不可欠です。ビジネス変革、デジタル化などによる生産性向上、研究開発や知財活用によるイノベーションの創出、地球温暖化対策に資する省エネを入口とした脱炭素・GX、海外展開による外需取り込みなど、「中小企業の自己変革への挑戦」を力強く後押しすることが必要です。
原材料費やエネルギー費、労務費などの原価を吸収し適正な利益を確保するには、「取引価格の適正化」が不可欠です。官民で推進し3万2千人を超える経営者が宣言している「パートナーシップ構築宣言」のさらなる拡大と、価格交渉促進月間や実態調査、企業名の公表などによる政府の監視機能の発揮、さらには労務費の転嫁指針の策定などを通じて、価格協議・価格転嫁が商習慣として定着するよう、粘り強く実行することが必要です。エネルギーの価格抑制と安定供給、そしてGXの推進には、安全が確保された原子力発電所の早期再稼働が不可欠です。
併せて、中小企業の持続的発展に向けた環境整備が必要です。特に、事業承継は中小企業の永続的な課題であり、5年前に抜本拡充され来年3月末に申請期限が迫る「事業承継税制」については、まずは申請期限の十分な延長、そして制度の恒久化が不可欠です。
また、来月に始まる消費税インボイス制度の円滑な普及をはじめ、省人化・省力化、創業・事業再構築、事業再生などの推進や、経営支援体制の強化が必要です。中小企業は構造的な人手不足に直面しています。人材採用支援やDX・GXなどに対応した従業員のリスキリング、外国人材の受け入れ拡大などが求められます。働き方改革による物流2024年問題については、中小・中堅企業に対する設備投資支援を含め、物流効率化対策の加速化が重要です。
万博の確実な成功と地域経済の再生・活性化に向けた強力な政策的後押し
2点目は、「万博の確実な成功と地域経済の再生・活性化に向けた強力な政策的後押し」です。
2025年に「大阪・関西万博」(日本国際博覧会)が開催されます。想定来場者数約2820万人、経済波及効果約2兆円が見込まれる、国際的なビッグイベントです。国内外の来場者には、開催地の大阪をはじめとして、全国各地を訪問していただきたいと思います。開幕まであと1年半強となりました。万博の確実な成功に向け、万全の体制整備と迅速な実行、国内外での機運醸成が不可欠です。
コロナ禍が過ぎ、国内外の観光客が増加しています。地域活性化の切り札である「観光再生・復活」に向け、稼げる観光コンテンツの開発・高付加価値化、インバウンドの地方誘客などへの支援強化が重要です。
地域経済の再生には、地域の良質な雇用の創出が必要です。大手企業の製造拠点の国内回帰、外資系企業による半導体工場の建設など、国内投資への関心が高まっています。中小・中堅企業や地域経済に大きな波及効果が期待されます。この機を捉え、地域の中小企業の参画を含め、企業の地方立地促進に向けた大胆な支援強化が必要です。
居住人口を増やすには、地方都市のまちなか再生が不可欠です。百貨店など撤退した商業施設、空き店舗の再生などを通じた地域経済循環の促進が求められます。
近年、わが国は、さまざまなリスクが高まっています。地球温暖化の進行により台風・大雨などの自然災害は、激甚化・頻発化しています。老朽化するインフラなどの危機から地域経済社会を守るため、引き続き、防災・減災、国土強靱(きょうじん)化の強力な推進が必要です。また、昨今のサイバー攻撃のリスクの高まりを踏まえ、中小企業における「サイバーセキュリティ対策」の強化が欠かせません。
国民・企業を支える社会基盤の整備
3点目は、「国民・企業を支える社会基盤の整備」です。
政府は先月、ALPS処理水の海洋放出を始めましたが、風評被害や周辺国における輸入規制の撤廃に向け、より一層、国内外への科学的根拠に基づく積極的な説明・働きかけ、事業者への賠償や販路開拓支援を行う必要があります。
商工会議所としては、影響を受ける地域産品の魅力発信や需要喚起に向け、でき得る限りの取り組みを行いたいと存じます。急きょ、「水産物販路開拓・拡大応援パッケージ」を取りまとめ、展示会・商談会やクラウドファンディングによる支援など、515商工会議所と連携し全力で応援したいと思います。
この後の懇親パーティーでは、三陸・常磐や北海道の水産物を提供します。ぜひ、皆さまのご地元でも、水産物の消費やPR、販路開拓支援をよろしくお願いします。
民間の立場による他国との関係強化が重要であり、民間経済外交となる海外ミッションを再開しました。6月に韓国で6年ぶりの日韓商工会議所首脳会議を開催し、10月下旬には「訪フィリピン・マレーシア・シンガポール経済ミッション」を実施します。また「海外展開イニシアティブ」を通じて、中小企業の輸出を含む海外ビジネス促進に取り組みます。
地域とともに、未来を創る
このような現下の大きな課題に関し、われわれ、商工会議所が果たすべき役割は極めて大きいものがあります。
来年7月、商工会議所の創設者である渋沢栄一翁が、新1万円札の肖像画となります。渋沢翁の「逆境の時こそ、力を尽くす」という信念に学び、われわれ民間が新しい視点から積極的に変革に挑むことが求められています。
多くの商工会議所では、昨年11月に新しい役員・議員体制がスタートし、今年度から本格的に、伴走型支援など中小企業・小規模事業者の活力強化や、まちづくり・観光振興など地域活性化に向けた諸活動が、鋭意、展開されていることと存じます。
われわれ、商工会議所の強みは、全国515商工会議所と125万会員、青年部、女性会、海外の商工会議所などとのネットワーク力です。日本商工会議所では、この強みを存分に生かし、創立100周年宣言である「地域とともに、未来を創る」の実現に向けて、皆さまとともに新しい時代を切り開いていくべく、「日本再生・変革」に挑んでまいります。
今後とも、皆さまの多大なるご理解とご支援をお願い申し上げ、私のあいさつとします。
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