厚生労働省はこのほど、「令和5年版労働経済の分析~持続的な賃上げに向けて~(労働経済白書)」を公表した。
白書では、第Ⅰ部「労働経済の推移と特徴」で2022年の労働経済を巡る動向を振り返るとともに、第Ⅱ部「持続的な賃上げに向けて」において、わが国の賃上げによる企業・労働者・経済への効果や、持続的な賃上げに向けた今後の方向性などを分析。今後、持続的に賃金を増加させていくための方向性として、スタートアップ企業などの新規開業、転職によるキャリアアップに加え、非正規雇用労働者の正規雇用転換を取り上げ、これらが賃金に及ぼす影響を確認している。
また、白書では、企業と賃上げの状況について、売上総額や営業利益などが増加した企業や今後増加すると見込む企業ほど賃上げを実施している傾向があると指摘。価格転嫁は、8割以上転嫁できている企業は1割強にとどまる一方、全く転嫁できていない企業が3割に上り、価格転嫁ができている企業ほど賃上げができている傾向にあるとの分析結果を示した。
価格転嫁できない理由としては、「価格を引き上げると販売量が減少する可能性がある」との回答が約34%と最多。「適正な価格による販売・購入が行われるよう適切な価格転嫁を促し、社会全体で、企業が賃上げを行いやすい風潮・環境を整えていくことが重要」であると強調している。
スタートアップ企業などの新規開業と賃金の関係についても考察。OECD諸国では開業率と労働生産性・賃金には正の相関が見られることや、スタートアップ企業は、創業15年以上の企業よりも賃上げ率や成長見通しが高く、収益増を見通すスタートアップ企業は、ベースアップにも積極的な傾向があることから、スタートアップ企業が成長できる環境を整備できるよう起業を支える人材を育成・確保することなどが必要との見方を示している。
最低賃金の引き上げが及ぼす影響については、「最低賃金1%の引き上げは、パートタイム労働者下位10%の賃金を0.8%程度、中位層でも0.7%程度引き上げる可能性がある」との推計を提示。同一労働同一賃金の施行では、「正規・非正規雇用労働者の時給差を約10%縮小させた上、非正規雇用労働者に対して賞与を支給する事業所の割合を約5%上昇させた可能性が確認できた」と分析している。
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