地域を代表する名産・工芸品が、生活の変化や後継者不足などにより厳しい状況にある。しかし、地域に伝承されてきた技術にこだわりながら斬新なデザインを施し、新たな発想を加えて魅力的な商品として進化させ、販路開拓と地域の魅力を発信していくことに挑み続けている地域企業がある。
地元・吉野杉の不燃木材を使った木の温もり感じるガソリンスタンド
奈良県で4カ所のサービスステーション(以下、SS)を展開している森本石油が今年1月にリニューアルし、地域ブランドである吉野産のスギなどの不燃木材を採用した木の温もりを感じるSSが評判を呼んでいる。地元老舗企業の開発した高い不燃機能を誇る建材の使用により、無垢材の美しさをそのままに安全性を確保。画期的な外観と新たに導入したサブスクリプションなどのサービスの相乗効果で新規顧客獲得に成功している。
無機質で画一的なガソリンスタンドからの脱却
ガソリン価格が高止まりしている昨今、ドライバーのSS選びはかなりシビアだ。SS側にすれば、いやが応でも価格競争に巻き込まれている状況で、1951年開業の森本石油も例外ではない。
「自動車がまだ珍しい時代に開業して、高度経済成長に乗じて70年に法人化、7SSまで増やしました。しかし、現在は小さいSSを閉じて4SSです。それでも、創業当初から変わらず『お客さまの満足』をモットーに、地域密着型店として、地元企業や個人事業主を対象とした、掛け売り販売を続けています」
そう語るのは2008年に二代目で代表取締役社長に就任した森本和佐子さんだ。だが、人口減やクレジットカードの普及で、掛け売り販売は減少傾向にある。さらに30人いる社員のうち4人は5年以内に定年。ちょうど一つのSSに配属する人数分が減る状況下にある。
そうした中、浮上したのがSSのリフォームだ。 「郡山横田給油所の設備の老朽化を機に、合理化と新規顧客の獲得に向けて森本石油初のセルフサービスのSSへの転換を図りました」
リニューアルをけん引した専務取締役の森本隆三さんは、そう振り返る。掛け売り販売のニーズは減っているとはいえ、地元密着型の森本石油の場合、顧客の半分強が利用している。だが、郡山横田給油所は改装前は現金販売が非常に少なかったが、西名阪郡山インターに近く、県外の新規顧客を呼び込める。それもセルフ型のSSに抵抗のない若い世代の利用者増が期待できる。そこで、セルフ化プラスαの魅力創出に向けて森本さんが着目したのが、無機質で画一的なSSの空間の改善だった。 「折に触れ、相談に乗ってくれたのが吉田製材代表取締役の吉田敦彦さんです。地域活動を通じて7年前から交流があって、吉田さんの建材に興味を持つようになっていきました」
それが吉田製材製造の不燃木材「むくふねん」だ。
20分間火の中に入れても燃えない不燃木材で空間を一新
「むくふねん」について吉田さんに説明してもらった。 「吉野産のスギやケヤキを使った内装材で、天然木に薬剤を含浸させて燃えないように加工した国土交通省認定の建材です。20分間火の中に入れても燃えない、法令で定めた不燃材料の基準をクリアしていて、人体にも無害。薬剤は食品添加物と同じくくりに位置付けられていて、自社では一般住宅にも多く採用されています」
そもそもSS内の建屋は消防法の規定で、木材など燃える建材は使えない。防災面で厳しい規制があるのも画一的なデザインになる理由の一つだが、「むくふねん」なら、消防法の基準に合致し、ほかのSSとの差別化を図ることができる。 「それでも前例がないため、消防機関との折衝には時間がかかりました。リニューアルオープンの日は決まっていたので、承認されるまでヒヤヒヤでした」
その上、薬剤を含んでいるため、通常の木材よりも重く、硬い。熟練の職人でないと扱うことが難しく、総工費も従来の約1000万円増だったが、森本さんは採用を決めた。
地域ブランドにも寄与する多目的な〝場〟の創出を図る
「給油するだけの所ではなく、お客さまのカーケア、カーライフを支えるSSとしての役割を第一に考えました。当社のお客さまも高齢化して、車に乗らない人も増えてきています。そうしたお客さまも利用できる場やサービスの提供を見据えてリニューアルしたかったのです」
内装材を一新しただけではなく、SSの敷地外にコーティングブースとピットを併設し、サブスクによる月額洗い放題の洗車サービスも展開。セルフサービスでも完全無人化せずに、3〜4人のスタッフを常駐させ、臨機応変で細やかなサービスにも力を入れている。
「給油時に『空気圧を見ておきましょうか』と声を掛けると、『そこまで気を使ってもらったのは初めて』などと喜んでくださるお客さまが多いと、スタッフから聞いています」。その言葉を裏付けるように、リニューアル前より利用者数はほぼ倍に伸びているという。 「計量器を減らしたこともあって軽油は減っていますが、カーピットを新しくしたので、コーティング需要が伸びて増販傾向を維持しています」
地元の製材会社とのコラボレーションによって生まれ変わったSS。「大きな投資はしばらく難しい」と苦笑しつつも、森本さんは地元の生産者やものづくり企業と連携して、奈良県の特産品や加工品の販売計画も構想中だ。地元産にこだわる吉田さんも、地元の観光地や飲食店を巡る工場体験ツアーを考えているという。
地元企業と交流し、地域活動にも熱心な森本石油。今後、SSが地域ブランドの情報発信スポットとしての役割を担う可能性も、十分考えられそうだ。
会社データ
社 名 : 森本石油株式会社(もりもとせきゆ)
所在地 : 奈良県橿原市忌部町47
電 話 : 0744-23-4151
HP : https://www.morimoto-oil.com
代表者 : 森本和佐子 代表取締役社長
従業員 : 30人
【橿原商工会議所】
※月刊石垣2023年11月号に掲載された記事です。
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