地域を代表する名産・工芸品が、生活の変化や後継者不足などにより厳しい状況にある。しかし、地域に伝承されてきた技術にこだわりながら斬新なデザインを施し、新たな発想を加えて魅力的な商品として進化させ、販路開拓と地域の魅力を発信していくことに挑み続けている地域企業がある。
誰でも貼れる「DIYタイル」開発美濃焼タイルのブランド化へ
美濃焼の産地として知られる岐阜県多治見市は、日本一のモザイクタイル生産地でもあるが、近年タイルの需要は減少している。藤垣窯業は、同市でタイルなどの建築資材を企画販売する会社だが、美濃焼タイルの普及に力を入れ、一般ユーザーが簡単に貼ることができる「DIYタイル」を開発した。同社は、このタイルをネット通販などで販売し、美濃焼タイルのブランド化に取り組んでいる。
水回りで使われたタイルだが海外製の影響などで需要減少
多治見市の美濃焼タイルは、100年以上前から生産されており、1970年代までは台所や浴室、トイレなど水回りの建築資材として欠かせないものだった。しかし、ユニットバスやホーローキッチンパネルなどの普及により需要が減少した上、中国製など安価な海外製品の増加により、美濃焼タイル工場は倒産や廃業が相次いでいるという。 「当社は日本一のタイルの産地にあるからこそ商売ができているので、なんとか美濃焼タイルの販路を拡大する方法はないかと考えました」と話すのは、藤垣窯業代表の藤垣伊織さんである。同社はタイルなどの建築資材を企画販売する会社だが、一般ユーザーが簡単に自分で貼ることができるタイルシート「DIYタイル」を開発し、8年前から販売している。
誰でも貼れるタイルを開発DIYブームで販路拡大へ
藤垣さんがこの商品を開発し始めたのは2013年のこと。美濃焼タイルは、床や外壁などに使用されるものと違い、モザイクタイルといわれる小さなタイルで、商業施設のトイレなどで装飾品として使われている。藤垣さんは、美濃焼タイルを個人の住宅で使ってもらえれば、多くの人の目に留まるようになるのではないかと考えた。
そこで、目地材が初めから付いたシートにして裏面をシールにすることで、誰でも簡単にタイルを貼ることができるようにした。このタイルシートの製造方法で藤垣さんは特許を取得する。最も問題となったのは目地の部分で、樹脂を流し込んで固める方法はあるが材料が高い。価格を抑えるために思い付いたのが塩化ビニール製シートで、目地の形に切ったシートにタイルをはめ込むことにした。裏面シールの粘着力は当初、壁のクロスなどに貼れる程度だったが、ブロックなどにも貼れる強度のものと、タイルを貼った後でも専用のはがし液を使えばはがせるものの3種類となった。
開発開始から2年後の15年に発売したが、それまでタイルといえば職人が施工するものだっただけに、一般ユーザー向けのタイルシートは新たな市場で、販路開拓が難しかったという。発売当初は違う商品名だったが、藤垣さんはネットで検索しやすいように「DIYタイル」という名称にして、自社サイトや大手ネット通販サイトで販売した。
17年からはホームセンターのバイヤーらが集まる展示会や百貨店の催事などに出展し、同年には東京の代官山に実店舗「D.I.Y. TILE 代官山」をオープンさせた。当時はDIYブームだったこともあり、女性を中心におしゃれなDIY好きから支持されて、売り上げは少しずつ伸びていった。20年からのコロナ禍でもDIYをする人が増え、DIYタイルの需要が増えたという。 「長年培った技術でタイルメーカーさんがつくるタイルを当社でシート加工することで、DIYタイルは新しい商品として誕生しました。美濃焼タイルにしか出せない色味で、若い人からは『レトロ感がある』と喜ばれています」という藤垣さん。サイトやカタログにはメーカーがつけたタイル名称のまま表記しており、DIYタイルを使った人が建材として使いたいときに探しやすいように工夫している。
商工会議所企画の研修でブランディングの重要性痛感
本業の建築資材販売とは取引先も販売量も金額も全く異なる。DIYタイル事業部は藤垣さんとパートスタッフだけで運営しているが、「DIYタイルをやっているところ」として本業でも会社の認知度アップにプラスになっているそうだ。現在、DIYタイルは同社売り上げ全体の約1割だが、3割を目標として、今後はネット広告戦略に力を入れるという。
伝統産業を新たにブランディングした成功事例として今治タオルが有名だが、藤垣さんは今年、多治見商工会議所が企画した研修で愛媛県今治市へ行き、今治タオル工業組合の担当者から話を聞いた。今治ではメーカーの組合がブランディングに取り組んだが、多治見にはメーカーだけではなく、藤垣さんのような販売業者でつくる組合もある。自分たちが美濃焼タイルを売らなくてどうするのかと痛感したという。 「元々、自社は何で商売をやってきたのか。伝統産業が関係するなら、それを途切れさせないためにはどうするかを考えなければなりません。これからは美濃焼タイルのブランディングに、同業者とともに取り組みたいです」と今治の成功事例に続きたいと話す。
会社データ
社 名 : 藤垣窯業株式会社(ふじがきようぎょう)
所在地 : 岐阜県多治見市旭ケ丘10丁目6番地18号
電 話 : 0572-29-2000
HP : https://diy-tile.com
代表者 : 藤垣伊織 代表取締役
従業員 : 17人
【多治見商工会議所】
※月刊石垣2023年11月号に掲載された記事です。
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