トラック輸送をはじめ、物流は社会に欠かせないインフラだ。価格の上昇やサービスの低下などで他の産業や消費者にも大きな影響を及ぼす恐れのある、物流の「2024年問題」。働き方改革関連法によって2024年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間が960時間以内に制限されることで発生が予想される、さまざまな問題を指す。持続可能な物流の実現へ何ができるのか、企業はどう対応すべきなのか。
適正で効率的な労務管理でドライバーの収入安定を目指す
「オンリーワンNAKAICHI」をキャッチフレーズに、運輸、倉庫、アーカイブの3事業を展開している中一陸運。同社は物流の「2024年問題」を見据えながら、倉庫事業の運営強化や新規取引先開拓に力を入れるとともに、効率的な労務管理を可能にすることで、ドライバーの確保や収入安定に取り組んでいる。
倉庫事業への本格参入で運行管理がスムーズに
中一陸運は、北関東を拠点として首都圏、上信越、東北、東海、近畿を結ぶ運送ネットワークを確立し、独自の運輸・倉庫事業を展開している。大型製品のトレーラー輸送を得意とし、荷主から預かった荷物の輸送、保管、流通加工をワンストップで提供できるところが強みだ。
創業以来、着実に運輸事業を拡大してきた同社が、倉庫の運営にも乗り出したのは2014年のことだ。群馬県が記録的な大雪に見舞われ、主要取引先の倉庫が雪の重みで押しつぶされて、保管していた大型機械やエンジンがダメになってしまった。それらが処分できるまで、同社の倉庫で「預かってほしい」と頼まれたことがきっかけだ。 「当社は、それまでほとんど倉庫を活用していなかったのですが、それを機に荷物を受託するようになりました」と、同社専務の中川誠さんは振り返る。
倉庫事業は、同社に思わぬ恩恵をもたらした。トラック輸送の依頼は通常、荷主から時間や場所、作業内容を指定され、受注側がドライバーの時間をコントロールするのは難しい。その点、自社倉庫があれば荷物をいったん倉入れし、こちらのタイミングで荷物を運ぶことが可能になるため、時間が調整しやすくなったのだ。 「当社が運行管理をしやすくなるだけではありません。倉庫事業によって、荷主さんにもより効率的な物流サービスを提案することができます」
倉庫事業が加わったことで新たな柱となり、後に「2024年問題」への取り組みにもつながっていく。
大手経験者と顧問契約して業務を効率化
当初は倉庫運営や営業活動のノウハウが不足していたため、新規事業の立ち上げや新規顧客の開拓が進まなかった。さらに働き方改革関連法が成立し、ドライバーの働き方も考えていかなければならない。 「そこで専門知識のある人材を正社員採用しようと思ったんですが、給与面から断念しました。代わりにプロシェアリングサービスを通じて、外資系ロジスティック企業や大手倉庫会社で勤務経験のある人と月4回の顧問契約を結びました」
顧問の職歴を生かした的確なアドバイスにより、倉庫運営のノウハウが蓄積されていった。荷主ニーズや荷役状況に合わせて車両を使い分けることで、業務の効率化が進み、企業全体の運営能力も向上した。さらに新しい倉庫の建設も進め、一般保管倉庫のほか、同社が得意とする大型製品にも対応できる重量物クレーン倉庫を3カ所設けた。重量物クレーン倉庫は特殊で数も少ないため、その強みを生かして新規顧客を獲得していった。
並行して、ドライバーの労務管理の適正化にも取り組んだ。ポイントは受注側がいかに業務内容をコントロールできるかにかかっているが、荷主側にもメリットがないと受け入れてもらえない。そこで倉庫がある強みに加え、既存のトラックを燃費のいい車種、大型車に変えるなど、荷主の物流ニーズに対応できるようにインフラ整備を進めた。 「私がこの業界に入った頃は、荷主主導で運行ダイヤが組まれる、時間に間に合わないと値段を下げろと言われることも、一部にはありました。現在では、万一事故などが発生した場合、荷主側が責任を問われることも多く、荷主さんの意識も変わってきました。そういう意味で、適正な運行管理や労務管理を心掛けていることが当社を選んでもらえる理由になっています」
コミュニケーションを密にして従業員の理解を促す
「2024年問題」の対応においては、従業員の理解促進も不可欠だ。時間外上限規制で働く時間が減り、収入が減少するのではと不安になっているドライバーに対して、中川さんは「給料は減らさないから安心して」と伝えている。その具体策として、効率的な運行ダイヤを組むほか、希望するドライバーには倉庫オペレーターの仕事を覚えてもらい、長距離輸送などで上限規制を超えそうなときには倉庫業務に回って収入を確保してもらうなど、フレキシブルな勤務体制を構築している。 「また会社として従業員を守るには交渉力を持つことも欠かせません。ドライバーの働き方に無理が生じる可能性のある依頼には、こちらから適正な形を提案して交渉を試みます。それでも無理を言われた場合は、その仕事を断る勇気も必要と考えます」
適正な労務管理とドライバーの収入安定に向けて体制を整えてきた同社だが、来年4月の制度開始後に不測の事態が起こらないとも限らない。そのためにも、中川さんは日頃から従業員とのコミュニケーションを大事にしている。 「安心して長く働いてもらうためにも、働く環境整備を進めるとともに、交渉力を高めて荷主さんにきちんとモノが言える運送屋を目指したい」と展望を熱く語った。
会社データ
社 名 : 中一陸運株式会社(なかいちりくうん)
所在地 : 群馬県伊勢崎市三室町6201-9
電 話 : 0270-62-8888
HP : https://only1nakaichi.com
代表者 : 中川一 代表取締役
従業員 : 55人
【伊勢崎商工会議所】
※月刊石垣2023年12月号に掲載された記事です。
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