コンテンツツーリズムとは、アニメや映画の舞台となった場所を訪ねる「聖地巡礼」に代表される観光行動の一つである。作品のストーリーを通じて醸成された地域固有のイメージにテーマ性やストーリーなどを付加し、新たな観光資源として活用している地域もある。地域に人を呼び込む手法として注目されている、コンテンツツーリズム成功の法則を探る。
毎月約4億5千万円の経済効果 イベントとアプリでファンを引き付ける
巨大な壁を築き、人を食う巨人の群れとの戦いを描いた漫画『進撃の巨人』。2009年9月に連載を開始し、単行本は180カ国以上で出版、アニメも放映されるなど、世界的な大ヒットとなっている。作者・諫山創氏の出身地である大分県日田市では、地方創生プロジェクト『進撃の巨人 in HITA〜進撃の日田』により、作品のキャラクターや世界観を活用してファンを引き付け、地域に大きな経済効果をもたらしている。
クラウドファンディングで銅像建立の資金を募集
日田市は大分県西部、福岡県との県境にある。観光といえば江戸時代のまち並みが残る地域や温泉街、鵜飼いを見る屋形船が主で、全国的な知名度が高いとはいえなかった。ところが2020年11月、市の山間部にある大山ダムの前に『進撃の巨人』のメインキャラクターであるエレン、ミカサ、アルミンの3人の銅像が建立されたことで、作品のファンから大きな注目を集めるようになった。
これは、作者の諫山創氏の「故郷の日田市に恩返しがしたい」という思いと、漫画の力で日田市を元気にしたいという地元の人たちの思いが合わさったものだ。19年の連載10周年を記念して、ファンが集う場を日田市につくることを目的とした活動により実現した。
この動きについて、「進撃の日田まちおこし協議会」の事務局を務めるIT関連企業、ティーアンドエスおおいたの石橋啓太郎さんはこう説明する。 「地元の有志が『進撃の日田まちおこし会議』を立ち上げたのが始まりです。日田市にご協力いただき、出版社や作者ご本人と話し合いを重ねて、銅像建立のためのクラウドファンディングの募集を19年8月7日に開 始しました。すると、その翌日には目標金額の1400万円を超え、最終的に754人から2968万円の支援金が集まりました」
目標の2倍以上の資金が集まったことから、作品中で人気の高いリヴァイ兵士長の銅像も日田駅前広場に建てることになった。その翌年に始まったコロナ禍により延期を余儀なくされたが、20年11月、作者の諫山氏も参加する中、大山ダム前に設置された銅像を公開する式典が開催された。
『進撃の巨人』を目当てに毎月多くの観光客が来訪
銅像が公開されたのを機に地方創生プロジェクト「進撃の巨人 in HITA〜進撃の日田」が始動し、特設サイトを開設。翌年3月にはリヴァイ兵士長の銅像も設置され、道の駅「水辺の郷おおやま」内には原画やオブジェなどを展示する「進撃の巨人 in HITAミュージアム」がオープンした。 「『まちおこし会議』は、二つの銅像を日田市に寄贈してその役目を終えました。そこで新たに『進撃の日田まちおこし協議会』を21年5月に設立し、まちおこし会議にボランティアで協力していたティーアンドエスおおいたが事務局となり、銅像建立前に開設した特設サイトを引き続き運営するほか、スマホアプリの開発、また他団体・企業との協力を得てイベント開催などを行っています」(石橋さん)
ティーアンドエスおおいたは、東京に本社があるIT関連企業のティーアンドエスのグループ会社で、会長の稲葉孝政氏は日田市に隣接する玖珠町の出身である。
銅像の設置以来、日田市を訪れる観光客の姿が目に見えて増えていった。それまでほとんど誰も来なかった大山ダムの駐車場に入る道は平日でも渋滞するようになり、外国人観光客も訪れるようになった。地元の人たちも積極的に関わるようになり、150店を超える店舗がスマホアプリのスタンプラリーに参加。30社超の地元企業が『進撃の巨人』とコラボして、さまざまな商品を販売している。
推計ではあるものの、1カ月4億5千万円、年間にして54億円もの経済効果があったと考えられるという。
イベント開催や情報の提供でファンの興味を引き続ける
多くのアニメ巡礼地とは異なり、日田市は『進撃の巨人』の舞台になったわけではない。それでも多くの人が訪れるのは、ファンを引き付けるためのさまざまな仕掛けを施しているからである。それは銅像やスタンプラリー、ミュージアムだけでなく、「進撃の日田スポット」として市内に作品を彷彿させる場所を設置したり、作者ゆかりの場所を紹介したりといったことが挙げられる。
もう一つが『進撃の巨人 in HITA〜進撃の日田』のスマホアプリである。日田市を舞台に巨人を倒していくスマホゲームはどこにいてもプレーできるが、それ以外のスタンプラリー、クーポン、AR(現実世界にデジタルの仮想世界を重ね合わせて表示する技術)は、日田市に来て初めて利用することができる。アニメファンの多くが若い世代であり、スマホアプリは、これからのコンテンツツーリズムにおいて必須となるだろう。
『進撃の巨人』は漫画が21年4月に、アニメは23年11月に最終回を迎えた。すると心配されるのが、ファンの興味が薄れ、日田市を訪れる人が減ってしまうことである。 「そのため、定期的なイベントを開催し、新しい情報を提供していくだけでなく、デジタルコンテンツの見せ方などを工夫して話題をつくっていきます。また、外国人のファンに向けて、特設サイトもさらに多言語化していきたい(23年12月時点では英語と韓国語)。そして『進撃の巨人』がきっかけで多くの人に日田市に来ていただけたらと思っています」(石橋さん)
日田市のコンテンツツーリズムは、行政やまちの有志、商店と企業、出版社、そして作者が協力していくことで、作品のファンたちを引き付け続けていくことだろう。
会社データ
事務局 : 株式会社ティーアンドエスおおいた
所在地 : 大分県日田市中央1-1-16
電 話 : 0973-27-5041
HP : https://shingeki-hita.com
代表者 : 稲葉孝政 会長
【日田商工会議所】
※月刊石垣2024年1月号に掲載された記事です。
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