日本産水産物の輸出額は、世界的な和食ブームの広がりとともに拡大してきた。しかし、昨年輸出先1位だった中国による日本産水産物の全面禁輸が大きく響き、輸出額の伸びは大きく鈍化。だが、政府の「水産業を守る」政策パッケージに基づく水産物の輸出先の多角化などの取り組みも本格化しており、新たな商流構築にも期待が集まっている。そこで、逆境に負けずに日本産水産物の輸出に取り組んでいる地域企業の奮闘をリポートする。
日本のしめさばを世界へ 水産加工技術を使い新商品も
青森県八戸市にある武輪水産は、さばやいかなどを原料に多種の水産加工品を製造・販売している。中でも八戸港で水揚げ量の多かったさばを使った「しめさば」は多くの種類を製造しており、日本の商社を通じて海外へ輸出されている。同社は商品を輸出するため工場を改修し、衛生管理など各国のルールを守って対応しているが、HACCP認定などを通じて、新たな取り組みを進めている。
1970年代から米国へ HACCP認定で輸出量増
八戸市にある武輪水産は1948年創業の水産加工会社で、八戸港の近くに位置している。創業以来、八戸産を中心とする新鮮なさばやいかなどを原料に多種の水産加工品を製造販売してきたが、近年では漁獲量の変化に伴い、日本全国や海外からも原料を調達している。特にしめさばは、原料や産地の違い、味付けなどによってさまざまな種類の商品を製造しており、「武輪水産といえばしめさば」といわれている。
同社は、77年頃から日本の商社を通じて米国へ冷凍しめさばの輸出を開始した。その後、2000年に工場を改修して衛生管理を徹底し、米国HACCP認定を取得した。同社は、しめさば製造工場としては国内で唯一、対米輸出水産食品加工施設として厚生労働省によって認可されて、同社の冷凍しめさばを取り扱いたいという商社から注文が増え、一気に輸出量が増加していった。 「当社のしめさばは、米国では日本料理店や日本食材を扱うスーパーなどで販売されているようです。日本食ブームの影響もあったのかもしれません」と話すのは、同社代表取締役の武輪俊彦さんである。輸出額は、割合でいえば売り上げ全体の数%だったが、金額は数千万円になった。
衛生管理など各国の基準守り輸出先や品目増やす
その後、武輪さんはジェトロなどが主催する商談会などに行き、積極的に輸出を検討した。八戸にバイヤーを招いた商談会に加え、台湾や香港、中国の上海などで行われた展示会にも足を運び、海外の販路開拓に注力した。
水産物を輸出するには、商品を製造する工場などの施設と輸出品目を各国のルールに則して登録しなければならない。同社が取得した米国のHACCP認定はその一環で、原料の選別、凍結、出荷と各々の作業で厳しい衛生管理基準をクリアしなければならないが、八戸港で水揚げされたさばはこの基準を満たせない。そのため同社は、ノルウェー産さばを使ったしめさばで米国の認定を取得した。各国のルールは国や地域によってさまざまで、東南アジアやアフリカへ輸出するには米国のような厳しい制限はなく、国内産の原料でも登録することができた。こうして同社は、日本の商社を通じて次々に輸出先を増やし、輸出品目も冷凍しめさばのほか、冷凍さば、いか加工品などが加わった。
八戸港の水揚げが激減 依存から脱却し輸出拡大へ
ところが11年に東日本大震災が発生し、津波により同社では第三工場が被災した。また、水産物に対する震災の影響は大きく、国内需要が落ち込んでしまった。その需要を回復させるため、武輪さんは自社の海外向けの取り組みをやめざるを得なかった。
震災から2年後の13年、八戸港の一部が欧州連合(EU)のHACCP基準に対応した高度衛生管理型市場に改修された。それに伴い、同社は冷凍さばの製造ラインを改修し、16年にEUのHACCP認定を取得して、EU諸国を含めた海外へ冷凍さばの輸出を計画した。
しかし、この頃から大きな問題が起こった。八戸港のさばの水揚げ量が激減したのである。ピーク時には45万t以上だったさばの水揚げ量が減り続け、22年はわずか2000tにまで落ち込んだ。 「さばの回遊ルートが変わったのか、海水温の上昇の影響かは分かりません。でも一時的ではなく、本当に厳しくなっているという状況がはっきりと見えました。これまで、当社は八戸港の水揚げ量の多さに依存していたので、脱皮しないといけないと考えています」という武輪さん。現在、原料のさばは日本全国から仕入れたり、輸入したりしている。
原料の確保に苦慮しながらも、同社で加工された冷凍しめさばなどは、日本の商社を通じて輸出されており、現在では米国、カナダ、オーストラリア、ベトナム、UAEなど12カ国・地域に広がっている。円安の影響で輸入原料が高騰しているが、「新規開拓には円安はプラスに働く。攻めやすい条件ではあります」と販路開拓に意欲を見せている。
また、さばに限らず新たな商品開発にも積極的に取り組む。23年夏には、青森県産ホタテを使って八戸中央青果など3社と共同開発した「海と大地のSOUP」を発売した。この商品を携えて今後、日本政策金融公庫の「トライアル輸出支援事業」に参加し、新たな海外販路開拓に挑戦しようとしている。
武輪さんが会頭を務める八戸商工会議所では、昨年に取引拡大委員会を設置した。同委員会では、輸出に関心のある事業所の掘り起こし、並びに今後、海外を視野に事業展開を考えている会員事業所への支援事業として、政府が進める「新規輸出1万者支援プログラム」にのっとり、本年2月に中小機構の国際化・販路拡大アドバイザーやJETROから講師を招き「輸出促進セミナー」を開催する予定となっている。
会社データ
社 名 : 武輪水産株式会社(たけわすいさん)
所在地 : 青森県八戸市大字鮫町字下手代森32-1
電 話 : 0178-33-0121
代表者 : 武輪俊彦 代表取締役
従業員 : 148人
【八戸商工会議所】
※月刊石垣2024年1月号に掲載された記事です。
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