日本産水産物の輸出額は、世界的な和食ブームの広がりとともに拡大してきた。しかし、昨年輸出先1位だった中国による日本産水産物の全面禁輸が大きく響き、輸出額の伸びは大きく鈍化。だが、政府の「水産業を守る」政策パッケージに基づく水産物の輸出先の多角化などの取り組みも本格化しており、新たな商流構築にも期待が集まっている。そこで、逆境に負けずに日本産水産物の輸出に取り組んでいる地域企業の奮闘をリポートする。
希少性の高い高級魚・ノドグロで海外販路を開拓
30年以上前からフグのみりん干しの輸出に取り組み、海外展開を精力的に行っている島根県浜田市。シーライフも同地で水産物の干物や缶詰などを製造・販売している。同社は、2018年からジェトロや市の支援を受けて、ご当地の高級魚・ノドグロを使った加工品の海外展開に乗り出し、着々と販路を広げている。
人気急上昇のノドグロで再度の輸出に挑戦
ノドグロはアカムツの別名で、「白身のトロ」とも評される高級魚だ。その全国有数の漁場で、ノドグロを“市の魚”に掲げる浜田市では、サイズや鮮度などの条件を満たすものを「どんちっちノドグロ」としてブランド化している。そんな同市で創業したシーライフは、ノドグロの干物を中心に水産加工品を製造し、現在ではアジア諸国向けの輸出にも積極的に取り組んでいる。 「この辺りはカレイやアジの干物が特産ですが、フグのみりん干しの数少ない産地でもあります。それが珍味でおいしいと30年ほど前から中国で需要が高まり、当社を含め、市内の複数の水産加工会社が連携して盛んに輸出していました」と同社専務の河上清貴さんは輸出のきっかけを説明する。
ところがその後、諸外国でフグの輸入規制が強化され、輸出機会を失ってしまう。ほかの水産加工会社が海外展開に見切りをつける中、16年に家業に入った河上さんは「このままではダメだ」と直感した。最盛期に比べて干物の国内需要は落ちている上に、メイン販路のスーパーは価格勝負になりやすい。時代に合わせて新しいことをしなければと危機感を持った。 「ちょうどその頃、テニスの錦織圭選手の発言からノドグロ人気が急上昇していました。もともと需要は少なく当社は扱ってこなかったんですが、それを機にノドグロの干物をつくり、ふるさと納税でPRしました」
その狙いは当たり、ノドグロが同社売り上げの6~7割を占めるまでになる。その希少性やご当地性を生かして、再び輸出を模索し始めた。
専門家や行政と連携して海外展開に道筋を付ける
18年、河上さんは松江市にあるジェトロ島根の門をたたき、「新輸出大国コンソーシアム」の専門家による支援を仰いだ。セミナーなどを通じて輸出や貿易の知識を蓄えながら、専門家や市の職員にも同行してもらい香港や台湾での商談会に参加した。 「実際に現地に行ったことで、例えば台湾の人は健康志向で無添加製品を好むことが分かり、当社の塩だけで素材のうまみを凝縮した干物はうってつけだと思いました。ただ、輸出に関しては規制が厳しく、中間に業者を挟まず安く仕入れたいという意向が強いことも分かり、そうした商習慣を踏まえながら交渉を進めました」
マッチングは成立し、さらにタイ、マレーシア、シンガポールの商談会にも臨んだ。場数を踏む中で、国ごとに食文化や商習慣は違っても、商品を気に入ってもらえたという確かな手応えをつかんだ。ノドグロの輸出量は少ないが、日本製品をよく勉強している業者は、ノドグロが単に美味というだけでなく、希少でブランド価値が高いことを知っており、前向きに仕入れを検討してくれた。 「売り先として念頭に置いていたのは飲食店です。アジア圏の国は家で料理をするより外食の方が多いらしく、特にタイではフライパンさえない家庭も少なくないと聞きました。それなら日本食レストランや居酒屋のメニューに活用してほしいと考えたんです」 当初の想定以上に順調に販路を獲得し、缶詰など新商品も新たに開発した。
商品のPR力をさらに強化し定期的な商流確保を目指す
そんな矢先、新型コロナウイルスの流行が始まった。20年2月、河上さんは商談でシンガポールに滞在していたが、その後ほどなくしてロックダウンとなり、輸出は中断を余儀なくされた。再開に向けて当初は何をすればいいか分からなかったが、ジェトロを通じてオンラインでの商談を開始する。日本同様、海外でも在宅時間が増えて自宅用の商品ニーズが高まっていたことを受け、缶詰が求められるようになった。また、国内向けにはすぐに食べられる加工品の一般販売に軸足を置き、ネット通販に力を入れたことで、収益はさほど落ち込まずに済んだという。 「コロナ禍を経て、全体の売り上げはコロナ前の水準を超えるまでに回復しましたが、ノドグロの干物だけでは販路を拡大するのは難しいと思い至りました。ノドグロは高価で頻繁に食べるものではないので、普段用に安価なカレイやアジ、イカなどの干物も積極的にPRして、定期的な商流を確保することが今後の課題です」
現在、同社の売り上げ全体に占める輸出比率は約3%。コロナ禍の影響を受けて当初の目標を達成できていないというが、今後は施設認証を取って米国にも販路を広げたいと意気込む。 「昔はつくれば売れましたが、今はつくってどう売るか、どう食卓に載せてもらうかを考えなければなりません。ただ、海外展開という経験を経て感じたのは、地域や会社の規模に関係なくチャレンジした者が勝つということ。今後もテイクアウトやすしネタとしての活用など、各国の食文化に対応して新しい需要を掘り起こしていきたい」と河上さんは力を込めた。
会社データ
社 名 : 株式会社シーライフ
所在地 : 島根県浜田市原井町907-2
電 話 : 0855-23-3105
HP : https://sealife-hamada.net
代表者 : 河上清志 代表取締役
従業員 : 20人
【浜田商工会議所】
※月刊石垣2024年1月号に掲載された記事です。
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