米国の有力紙ニューヨーク・タイムズが昨年の「世界の行くべき52カ所」の2番目に岩手県盛岡市を選び、東北6県の夏祭りが一堂に会する「東北絆まつり」も初夏を彩る風物詩として定着してきた。東日本大震災から13年。コロナ禍を乗り越え、今こそ魅力的な東北の観光資源を国内外へ強く発信すべき時だ。東北観光の〝いま”を追った。
情報・人流・エンターテインメントの要となるアクアマリンパークを推進
福島県いわき市の小名浜港沿岸にある商業観光施設「いわき・ら・ら・ミュウ」。その運営を担ういわき市観光物産センターは、コロナ禍中にマーケットや客層、コンセプトを見直し、より地元に軸足を置くリブランディングを図った。地物の海産物や特産品を見直し、「食べる」「買う」に「体験」をプラスして、地域のにぎわいの核となる施設として勢いづいている。
震災、水害、コロナ禍と苦難続きの観光スポット
いわき市観光物産センターは、第3セクターである。福島県といわき市の地方自治体が4割、民間企業や各種組合が6割を出資し、1994年9月に設立された。目的は商業観光施設「いわき・ら・ら・ミュウ」の運営で、同施設の管理や賃貸業務、直営店での観光土産品などの販売業務を行っている。
周囲の水族館「アクアマリンふくしま」や巨大ショッピングセンター「イオンモールいわき小名浜」などとともに、一大アクアマリンパークを形成する。だが、海沿いだけに東日本大震災の津波被害は甚大だった。 「当館も約4mの津波に襲われ、幸い犠牲者はいませんでしたが、1階フロアは全壊しました」
そう振り返るのは、代表取締役専務の本田和弘さんだ。500人以上のボランティア支援で、11年11月には営業を再開できたものの、風評被害は長引き、特に関係の深い漁業のダメージは大きいと語る。 「近年でも、震災前の漁獲量に対して沿岸漁業は2割、沖合・遠洋漁業は4割ほどと聞いています」
追い打ちをかけるように19年の令和元年東日本台風による水害、20年からのコロナ禍で業績は後退した。にぎわいが戻ってきたのは「24年になってから」と苦笑する。
V字回復へリブランディングに手応え
だが、その間、手をこまねいていたわけではない。18年度の入館者数は年間157万人で、20年度は89万人まで下がったが、21年度は98万人、22年度は130万人にまで盛り返した。大型バスによる団体客が激減する中、驚異の回復力である。では、どう挽回したのか。 「ほかの地域同様に飲食店のテイクアウトの実施やSNSを活用した情報発信、キャッシュレス決済の導入や近隣施設との連携などを実施しました。でも最も有効だったのが施設のリブランディングです」
21年を変革の年と位置付け、コンサルタントを招いて約1年かけてマーケットや客層、目指すべき姿を職員とともに協議を重ねた。そして打ち出したコンセプトが「HUG(ハグ)いわき」、キャッチコピーが「いわきをぎゅ~っと。」だ。Human(人)、Unique(ユニーク)、Glitter(光り輝く)の三つをテーマに、より地域色を押し出す戦略をとった。 「テナントは地元の人気店を誘致し、物産品は売れ筋や定番だけではなく、すぐに利益が見込めなくても将来性のある地元産品を仕入れました」
PB商品の開発も進め、地元の規格外のトマトやイチゴ、ブルーベリーを使い、洋菓子店とともにドーナツやマドレーヌを考案して「笑顔シリーズ」として販売。映画『フラガール』で知られるスパリゾート・ハワイアンズにちなんだ名物「フラまん」を復刻した菓子は、家族経営で量産できない状況を逆手に、お盆やお正月の期間限定で購買意欲をかき立てた。さらに元地域おこし協力隊の移住者が開発した「ハートニンニク」や、地元梨農家の小ロット品種など、ニッチな特産品にもスポットを当てた。
クルージングで集客アップフグの水揚げ増も追い風
さらに観光遊覧船によるクルージングや東北最大級の子ども向け室内型遊び場の併設、震災当時の展示や語り部の解説など「体験」にも力を入れた。自身も語り部として活動する本田さんは言う。 「震災、コロナ禍の中でやってきたことが今につながっています。食も観光も安心・安全に関して多角的に情報発信を積み重ねてきました。国内からは応援の声が多く寄せられ、ふるさと納税の申し込みは、地物の魚の調達が難しくなったほど急増しました。インバウンド効果はこれからですが、今は国内、地元に注力して業績を上げています」
お客さまを大事にするには、まず社員からと考え、23年には、いわき商工会議所の紹介で外部講師を招いたOJT研修(上司や先輩が指導役として実務を通した研修)を実施。定職率アップに向けた取り組みが功を奏し、新人2人の採用につながっている。 「海外に目を向ければ、魚食は欧米を中心に増加傾向です。海流の変化からか近年はフグが水揚げされ、当館でも2月開催のフグと福をかけた『ふく汁祭り』が活況です。魚全体が高騰する今、観光時などに魚を食べることが特別な体験にもなり、ある種の追い風です」
19年には、いわき市水産業振興協議会が発足。生産、流通、消費の関係者間の相互理解、連携を深める動きも出始めた。 「本年度で、センターの年間売り上げは約16億円の見込み。いわき市でも有数の集客力とポテンシャルがあると自負しています。行政と連携しながらまちの核となる施設として、漁業の活性化、地域振興に貢献できたらと思います」と本田さん。
いわき・ら・ら・ミュウはまだまだ進化すると語る表情は明るい。
会社データ
社 名 : 株式会社いわき市観光物産センター
所在地 : 福島県いわき市小名浜字辰巳町43-1
電 話 : 0246-92-3701
代表者 : 下山田松人 代表取締役
従業員 : 19人(嘱託職員含む)
【いわき商工会議所】
※月刊石垣2024年3月号に掲載された記事です。
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