ここへ来て、日経平均株価は約34年ぶりの高水準に達した。その背景には、海外投資家の買いがある。元々、わが国の株価は安値に放置されて割安感があったことに加え、円安の追い風もあり企業の収益力が向上している。相次ぐ半導体工場の建設や水素製鉄、全個体電池の開発など、わが国経済にとって明るいニュースが目立っていることも見逃せない要素だ。
経済産業省は1月下旬、NTTなどを中心に進める“光半導体”事業に最大で452億円を補助すると発表した。2019年、同プロジェクトは“IOWN(アイオン)”という光を用いた通信技術の研究開発を強化した。光半導体の潜在能力は非常に高い。重要なポイントは、今後、需要が高まるデータセンターの電力消費量を大幅に軽減する可能性などだ。生成AIの性能を引き上げるため、世界中でデータセンター需要は急増し、消費電力が大きく増加。国際エネルギー機関(IEA)は、データセンターでのAI学習強化により、26年の電力消費量は22年の2・3倍程度に増えると予想した。一方、主要国の電力供給能力の余裕は必ずしも多くはない。異常気象で冷暖房需要は増え、EVシフトも電力需要を押し上げる。供給面で、脱炭素に対応した発送電インフラの整備は一朝一夕に進まない。地政学リスクの上昇で、エネルギー資源調達コストの上昇も懸念される。光半導体は、世界経済の成長率向上と省エネの両立の切り札になり得る。 現在、データセンターで用いられるGPUやメモリーチップなどは、電子(電気)を用いてデータの演算や転送を行う。回路の線幅や半導体の精度向上などで、より多くの電力が必要になった。また、ロジック半導体の回路線幅の微細化は限界に近いとの指摘も多い。NTTなどはそうした課題を克服するため、光半導体の研究開発を強化した。光の速度は電子を上回る。光の特性を活用し、消費電力性能の向上など、より効率的なデータセンターの構築を目指す。そうした次世代技術への要請は高まっている。
AIの性能向上を実現し、より多くの効用を手に入れるため、あらゆる企業がデータセンターへのアクセスを強化する必要がある。必然的に、データセンターの電力消費量は増える。30年、世界全体でデータセンターの電力消費量は、2600テラワット/時に達するとの見方もある。実に18年の14倍だ。一方、短期間で主要国が電力の供給体制を拡大することは難しい。再生可能エネルギーの活用、サーバーの冷却など課題も多い。アイルランドではデータセンターが急増し、政府は電力逼迫(ひっぱく)を避けるため建設を規制せざるを得なくなった。それは、デジタル化の加速と経済成長率向上に足かせになる。電力問題の解消は、AI性能向上、それによる中長期的な経済成長、さらに社会の安定にも影響する。
政府からの補助をきっかけに、わが国企業を中心に国際的なコンソーシアム(企業連合)の形成を目指す可能性も高まった。次世代の超高速通信などに決定的な影響を持つ光半導体は、世界の経済・安全保障体制により大きな影響を与える。今後、どの企業が主導して、光半導体やそれを使った次世代通信などを推進するかだ。光半導体を実用化し量産技術を確立できる企業、その企業が本拠を置く国は、国際世論・世界経済の運営に主導的な影響を与える。産業、経済、安全保障などあらゆる分野で光半導体は大きな可能性を秘める。
研究開発の成果を守りつつ、よりオープンな姿勢で海外企業の参画を呼び込み、賛同企業を増やす。わが国の関連産業の需要獲得につながり、先端分野の需要創出・獲得を目指す企業は増えるはずだ。新しい半導体の開発を強化するライバルは多い。光半導体に関する製造技術の開発は、わが国企業が世界規模で新しい市場をつくり、優位に付加価値を獲得する重要な機会になる可能性はある。民間企業および政府が一貫して先端分野の研究開発を進め、主要国に先駆けて実用化することができるか否かは、中長期的なわが国経済の回復にも大きく影響するはずだ。 (2月11日執筆)
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