新たな分野や必要とされる商品を開発する着眼点と熱意を武器に、さまざまな困難を乗り越えて新商品を生み出している地域企業がある。中小企業にとっては想像以上に困難なことだが、諦めずに挑戦をやめない企業の原点と情熱に迫った。
業界の常識を覆したアルミコイルで高性能モーターを開発し世界へ
モーターやコイルを開発、製造販売するアスターは、これまでのコイルとは全く異なる革新的なコイルを発明し、さらに材料にアルミニウムを用いることに成功し、そのコイルを組み込んだ高性能モーターを開発した。世界の電力消費量の6割を占めるといわれるモーターの性能が飛躍的に向上することで、脱炭素社会の実現に貢献するものと、世界中から注目が集まっている。
自社開発のアイデアを「成功させる」と決意
秋田県横手市にあるアスターは、2010年に創業した。同社は、ある会社の秋田工場だったが、リーマンショックの影響を受けて閉鎖の危機となり、当時の工場長だった本郷武延さんが従業員の雇用を守るため、建屋を引き継いで新会社の代表に就任した。 「商工会議所はスタートアップには大事な存在です。私も創業当時お世話になったおかげで今があります」と本郷さんは振り返る。同社は当初、自動車用車載部品など精密部品の組み立てを行っていたが、本郷さんは「下請け仕事ではダメだ。自社で製品開発しなければ」と考えていた。
13年、本郷さんは知り合いから慶應義塾大学発のEVベンチャーを紹介された。その会社では、小型でもパワーを出せるモーターの開発に苦慮しており、本郷さんは一つのアイデアを提案する。既存品はモーター内のコイルは銅線を巻いていたが、板状の金属で成形すれば断面積が大きくなり、大電流を流せる、ということに着眼したのだ。その場で浮かんだアイデアだったが、熱く相手先に説明し、本郷さんは1カ月後に持ってくると約束した。「コイルやモーターの専門知識はありませんでしたが、何か仕事を持って帰らなければ、とわらにもすがる思いでした。画期的なコイルを開発する以外に生き残る道はないと思ったのです」と言う本郷さん。その後、工場内に寝泊まりし、従業員が帰った後、一人で何度も試作を重ねていった。こうして完成した独自の板状コイル「アスターコイル」をEVベンチャーに持参すると喜ばれ、本郷さんは「これは新たな商売になる!」と確信したという。
「アスターモーター」完成売り込みより認知を優先
同社のコイル技術を知った大手メーカーから引き合いがあり、共同でモーターを開発することになり、一時的に人材も資金も集まった。しかし、さまざまな問題が発生し、大手メーカーが途中で手を引いてしまった。当初、コイルの材料には銅を用いていたが、それは大手メーカーがいたからできたことで、当時の同社だけでは銅を入手できなかった。別の材料を探したところ、アルミニウムを使うことがひらめいた。 「アルミニウムでは高性能モーターはつくれない、というのが専門家の定説でしたが、私にはそういう先入観がなかった。無理だと言われても、われわれが生き残る道はそれしかありませんでした」という本郷さんは、再び試作を重ねた。数年後、コイルの材料にアルミニウムを用いた「アスターモーター」が完成。このモーターは、従来の巻線コイル以上に大きな断面積を持つ板状コイルにより、従来よりも高性能ながらモーターを軽量化できる上、リサイクル効率も格段に向上するというものだった。
業界の常識を覆した同社独自のモーターは、業界内で知られるようになり、問い合わせが急増した。東京の大学や大規模展示会などから講演の依頼があれば、本郷さんが自ら積極的に出掛けていき、知名度を上げていった。 「製品を売り込むのではなく、社会に認知される努力をしました。スマホや電気自動車のような新しいグローバルスタンダードもそうでしたが、新しい工業製品は、まず認知されないと使ってもらえません」という本郷さん。講演などはどこも反応が良く、人脈をつくることにもつながった。大手企業から同社へ転職する人も増え、本郷さんは「アスターモーターに吸い寄せられて、人材が集まってきました。このモーターを世界中に広めたい、という人たちが集まってきたんです」と笑顔で語る。同社では19年に新工場を竣工し、20年にはアスターモーターの量産準備が完了した。
インドや米国でEV車やドローンに使用
「当社の技術がどんなに素晴らしくても、地方の小さな会社ということもあり、日本では販路を見つけるのが困難ということが分かった」という本郷さんは、海外へと目を向け、インドと米国に活路を見いだした。インドでは、EVモビリティに同社のモーターとモーターコントローラーが使われている。米国では、同社のモーターがドローンに使用される予定で、同社と米国企業が一体となり、量産の準備を進めている。
横手市に本社工場を持ち、地域から世界に飛躍する技術・製品を発信する姿は、地方創生の観点から多くの経営者の模範であるとして、同社は公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会主催の第18回ニッポン新事業創出大賞のアントレプレナー部門で「地方創生賞」を受賞した。今後について本郷さんは「秋田県で従業員満足度ナンバーワンの会社にする」と、地域を大切にしながら世界を目指す展望を語った。
会社データ
社 名 : 株式会社アスター
所在地 : 秋田県横手市柳田12番地3
電 話 : 0182-38-8552
HP : https://www.ast-aster.biz
代表者 : 本郷武延 代表取締役
従業員 : 120人
【横手商工会議所】
※月刊石垣2024年5月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!