金融商品取引法の改正に伴いM&A(合併・買収)を目的とした株式の大量取得について、TOB(株式公開買い付け)の実施義務が拡大した。非公開の取得で経営に重大な影響を及ぼすと、一般株主が損失を被りかねないためだ。いわゆる物言う株主の増加は経営健全化に一定の効果がある半面、短期間の株価上昇や配当増を求める姿には違和感を覚える。2000年代前半、なりふり構わず大企業の買収を仕掛けた若手経営者に対して、財界人が「ルールは守っていても、マナーがなっていない」と皮肉ったのを思い出す▼
「原材料費が上昇し、その対応で精いっぱい」と話す中堅企業の経営者は「ビジネスマナーや教養は必要だと思うが二の次になる」という。袋井商工会議所会頭を務める豊田浩子丸尾興商専務は、海外からの要人を迎える時も、逆に海外を訪問する時も「キモノ」姿で出向く。「着物は日本の四季も表現する」という豊田氏は「正装」で相手に接することが大事だと話す。相手を敬う気持ちは形に出るもの。米国留学でMBA(経営学修士)を取得しても、現地のIT企業経営者の軽装をまねるだけでは新時代の経営者とは呼べない。トップには周囲の尊敬を集めるだけの振る舞いが欠かせない▼
「旧制高校出身者は教養があった」とマスコミOBから聞くことが多いが、センター入試世代の若手経営者に同じことを要求するのは無理がある。自社だけでなく「相手ももうけさせ、社会に貢献する」ような品格が必要だと語る豊田氏は、先人の経営者の背中も見るべきだろうと指摘する。「教養は時間を経て自然と身に付くもの」(同氏)であり、そのためにも経営者としての姿勢が重要である
(時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)
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