自動車用タイヤ&ホイール専門店のコニシタイヤは、数万本に及ぶ商品在庫管理にデジタル技術を導入し、喫緊の課題だったピッキング(商品を選別し取り出す作業)の効率を改善。従業員が接客などの本来業務に専念できる環境をつくった。次いで経営の見える化にも取り組んで成果を上げ、「DXセレクション2023」の優良事例に選定された。
タイヤ販売には複雑な業務フローがある
全国でも有数の品ぞろえを誇り、実店舗に加え、EC販売にも力を入れているコニシタイヤ。社長の小西和也さんは、「社内の作業環境を紙ベースからデジタルベースへ転換し、倉庫から目的のタイヤを探し出して運ぶピッキングにかかる時間と手間を大きく減らすことができました」とDX推進の成果を話す。
なぜ同社はピッキングの作業効率改善から手を付けたのか。自動車のタイヤを買い換えるとき、客はタイヤ専門店へ出向き、店頭にある予算に合うタイヤを買うことになる。だが客側には、自分の車に合ったサイズ、用途、メーカーやブランドなど、選ぶ要素が多いため、タイヤ販売店は膨大な在庫を持つ必要があるのだ。
ところが、「その在庫管理ができていなかった」と、取締役で本社営業部部長の佐川純さんは反省する。「以前は受注伝票を見て必要なタイヤの種類や本数を紙に書き出し、そのリストを複数のスタッフに渡してピッキングを頼んでいました。倉庫のどこに何本の在庫があるのか把握できていなかったので、何人かで探す必要があったのです。スタッフ間でもお互いの作業状況が分からないため重複してピッキングしたり、商品の取り違いが起きたりしていました」
ピッキングそのものは単純作業だが、先に述べたように種類が多く専門商品知識が求められる。アルバイトを増員すればピッキングの時間が短縮されるというわけではない。 「そこで2018年頃からデジタル化の取り組みを始めました」と小西さん。地元のシステム会社に開発を依頼して、ピッキングシステムに求められる機能や性能、制約条件などを明確にする要件定義に手を付けた。だが、一筋縄ではいかないことが露呈したのだ。
初期段階では、納入されたタイヤのJANコード(国際規格の商品識別バーコード)と保管場所にあるQRコードを、スマホ型端末のハンディーターミナルで読み込み、ひも付ける システムを開発すればピッキングミスがなくなると考えていた。「ところが……」と佐川さんは続ける。 「例えばお客さまが“購入したタイヤを”ホイールに組んでクルマに取り付けるパターン、お客さまが“持ち込んだタイヤを”ホイールに組むパターン、明日来店するお客さまのために“事前にタイヤを準備しておく”パターン……というように、タイヤを倉庫から持って来るという行為は同じなのですが、前提となるパターンが多岐に渡っていて業務フローが複雑です」。開発を担当するSE(システムエンジニア)には口頭では伝え切れないので、ホワイトボードに要件を書き出して、お互いの認識をすり合わせていった。小西さんが、“前提となるパターン”を重視した理由をこう説明する。 「商品をピッキングするだけの物流システムではなく、独自の機能を持たせたかったのです。そこで現場部門と開発部門が密に意見を交わして、SEさんに常駐してもらい開発を進めていきました」
DX導入の決断はトップ DX推進は全社を挙げて
それでも使い始めると改善すべき点がいくつも見つかり、従業員からは不満の声が上がることもあったと、小西さんは振り返る。従業員は「仕事が楽になるという期待が大きかった分、裏切られた感も大きかったのだと思います。少しずつ改良を重ねて、当社だけのシステムが出来上がるまでに2年半ほどかかりました」
システムの完成により、在庫管理はもちろん、商談情報の共有といった顧客情報管理、さらには経理などバックオフィスとも連携し入金状況などの確認も効率化された。その結果、従業員は本来業務の接客に時間をかけることができ、サービスの質を上げられた。さらに現場の状況が数字で見える化されたことで、従業員から改善案が出るようになった。 「課題や困難はデジタルで解決するという選択をした方がいい。業務の一元化・平準化ができて、誰が担当しても高いレベルの成果が得られます」。決断はトップダウンで。開発と導入は経営と現場が足並みをそろえて。それが小西さんのアドバイスだ。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・商品管理や商品のピッキングが紙ベースだったため、商品を探し出すために人員も時間もかかりミスも発生していた。
DX推進のための工夫
・単に商品を探すだけでなく、顧客満足向上と作業効率の改善、経営の見える化を同時に実現するため、要件定義を詳細に行い、話し合いを重ねてSEと認識を一致させた。
・従業員がスマホの扱いに慣れているため、商品のJANコードを読む機器にスマホ型のハンディターミナルを選んだ。
成果
・ピッキングの効率と精度が飛躍的に向上した。
・従業員が本来業務の接客に集中できるようになった。
・顧客の問い合わせにも即答できるようになり、顧客満足が向上した。
会社データ
社 名 : 株式会社コニシタイヤ
所在地 : 秋田県秋田市土崎港西三丁目8-45
電 話 : 018-853-8313
HP : https://konishitire.co.jp
代表者 : 小西和也 代表取締役社長
従業員 : 27人
【秋田商工会議所】
※月刊石垣2024年7月号に掲載された記事です。
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