建設業界の中でも中小規模の地域に根差した建設関連企業は、いわゆるゼネコン(大手総合建設会社)から専門業務を請け負うサブコンと呼ばれてきた。その中には専門分野に特化し、独立型としての立場を確立している企業がある。業績が伸びている建設関連企業の“今”に迫った。
業績と個々の将来像を「見える化」し5S活動で“安心・安全・信頼”を追求
人手不足が深刻化する建築業界で、建築鉄骨専業ファブリケーターの鐵建は、業績、従業員数をともに伸ばしている。賃金形態やキャリアパスの〝見える化〟で従業員のモチベーションアップを図り、本社工場移転を機に5S活動にも注力。設備投資や技術向上、人材確保・育成など、多角的に社内改革を進め、信頼される鉄骨工場として頭角を現している。
従業員のモチベーションをいかに上げるかが鍵
鐵建は、鉄骨製作を柱とするサブコンだ。公共施設や物流倉庫、大型商業施設などの大型建築物の鉄骨製作加工や組み立て、建方を行う鉄骨工事業を一手に担う。業績も従業員数も右肩上がりだが、それは長年社内改革を続けてきた結果で、昨日今日の戦略では決してない。 「戦後9年たった1954年、父が高崎駅から1・2㎞ほどの所に小さな機械製作所を開業したのが始まりです。それを89年に組織変更し、鉄骨工事に特化していきました。しかし、その後すぐにバブルがはじけ、業績が最も厳しい時期を迎えます。当時は今よりも小さい地場コン(地域密着型ゼネコン)との取引が多く、地場コンが倒産すれば弊社も立ち行かなくなる。生産管理能力と営業力は、このときに培われたと言っても過言ではありません」
そう語るのは、社長の小山慎一さんだ。新規顧客獲得と同時に生産性向上を図り、会社存続に奔走したという。 「製作する鉄骨がどれくらいの期間、どのくらいの量まで決まっているかといった受注状況を『山積み』というのですが、この山積みを1カ月後、半年後、1年後など先々を見通して確保しなければなりません。リアルタイムの情報収集は、今も日々続けています」
設備の充実を地道に図り、自社で鋼材の設計から現場組み立てまでできる体制を整えていった。こうした経験が、後のリーマンショックや昨今の資材高騰、2024年問題などの〝激震〟にも揺るがない組織となっていった。中でも重要視したのが、従業員のモチベーションアップだ。 「本格的に取り組んだのは、05年、現在地である東平井工業団地へ本社工場を移転してからです。モチベーションという言葉すらない時代で、従業員の〝張り合い〟を高めるにはどうしたらいいかと考え、生産量と目標達成率を〝見える化〟して、きちんと給料に反映させることに努めました。しかし、これだけでは次第に効果は薄れます。次に人事評価基準も〝見える化〟しました。従業員一人一人の、当社で働き続けた先に広がる未来像を具体的に描くようにしました」
見える化戦略が功を奏し、会社の業績は上がり、従業員は収入がアップするという好循環の基盤となっていった。
若者に選ばれる企業を分析し定職率を高水準でキープ
だが、人材育成の前段である確保に、「ここ数年は苦戦中」と苦笑する。最近の若者は、給料よりも年間休日数で会社を選ぶ傾向にあり、それも最低ラインは120日。建築業界では土曜日出勤が通例で、公共の建築事業で隔週土曜日を休日とするケースが出始めた程度という。学校が週5日制で育った若者らには、土曜出勤のハードルは高い。それでも同社は年間休日数を114日にまで増やし、産休や育休、介護が理由の休業制度の活用も促進している。それでも「まだ足りない」と企業努力を惜しまない。
さらに、従業員の待遇面の改善だけではなく、技術向上に向けた「資格取得サポート」も手厚い。受講料や受験料、試験会場までの交通費など資格取得にかかる費用を会社が全額負担。従業員の多くが技術資格や技能資格を複数取得する状況を導き出した。
女性活躍や外国人雇用にも積極的に取り組み、時流に即したワークライフバランス重視型の経営にシフトチェンジしている。社会的ニーズや従業者目線の多角的な改革で、定職率は高水準で推移している。
生産能力アップと5S活動で一気に高まる社外評価
こうした取り組みが実を結び、同社は2010年、国土交通大臣認定の「Hグレード工場」に昇格している。鉄骨製造工場で製作された建築鉄骨溶接部の性能は、「S・H・M・R・J」の5段階に区分されており、国交大臣の許可を受けた外部評価機関が性能評価を行う制度が法律で定められている。しかも認定期間は5年。更新することで認定工場のクオリティーが維持される制度で、業界内でも高く支持されている。現在の認定工場は全国に1777社あり、上位区分であるHグレード工場は296社、うち群馬県は54社中7社のみがHグレードだ(全国鉄骨評価機構24年3月調べ)。同社は、MからHグレードに昇格したことで手掛けられる領域が広がり、工場としての格が格段に上がった。 「従業員一人一人の技術力を高め、張り合いを持って働ける環境づくりをしてきたことで得られた評価であると受け止めています。そして、05年に現在地に移転したことをきっかけに5S活動を浸透させてきた成果もあるように思います」と小山さんは分析する。
新工場をきれいに使い続けるための5S活動(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)は、①安全、②生産性の向上、③社会性認知を目的に07年より本格化した。日々の清掃はもとより、半期に一度、一つ以上の業務改善を全従業員が報告。鋼材の転倒防止や床置きの大型扇風機への梁(はり)の設置、製品表示方法の変更など、従業員発案の優れた改善策を高く評価し、現場に採用した。毎年12月には全従業員からスローガンを募集し、全員投票で決定する。4月と10月の年2回、「5Sパトロール隊」が出動して、本社や工場の内外を160〜210事項を設けてくまなくチェックする徹底ぶりだ。従業員主導型であることが、従業員の意識改革にもつながっている。 「5Sは新工場だから実践できた取り組みです。従業員もきれいな工場を保ちたいという思いは一緒で、スムーズに導入できましたし、5Sを通して団結力も高まったと感じています。また社外の方に好評なあいさつも、『いつでもどこでも何度でも』をスローガンに、長年根気強く伝え続けて今に至ります」
同業他社にも工場を公開 業界全体の技術向上に寄与
社内改革を長年にわたって地道に進めたことで、社外からの好評価も得られている。15年に群馬県優良企業表彰「ものづくり部門」優秀賞を受賞したのを皮切りに、「群馬県環境GS事業者」、経済産業省の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」「地域未来牽引企業」に認定され、「健康経営優良法人」に至っては過去4回認定されている。
CSR活動の一環で、地元の工業高校の人材育成プログラムに参画し、次世代の溶接技術者の育成をサポート。地域行事にも積極的に参加している。同業他社の工場見学や視察も多く、コロナ禍前の19年度に24回、227人を受け入れた経験があり、一度に60人が視察に訪れたこともあるという。 「『全国鐵構工業協会』が制作した『鉄骨ガールと工場見学』というビデオに弊社がモデル工場として出ているのです。その反響が大きく、工場見学の8割が同業者。見学NGの工場もありますが、私も若い頃に他社さんの工場を見て学んだことがたくさんあります。その恩返しと、業界全体の活性化、技術向上につながればと思って工場を公開しています。それに見たからといってすぐにまねできる設備、技術力ではないですし、本質が違うと自負しています」と小山さん。
日本の鉄骨造の建築物は1棟1棟の仕様が異なり、建築基準法の改正も多いため、海外企業の参入は少ない。また、懸案の2024年問題も運送費は当面据え置きや10%増で折り合いがついており、24年問題や資材高騰よりも、「建築現場の管理者不足が業界全体の深刻な課題」と警鐘を鳴らす。 「工業大学の建築学科は人気のある学科だったはずなのですが、今は科そのものがない工業大学が増えています。幸い地元の前橋工科大学にはあって、毎年同大学の学生を採用できていますし、県内の産業技術専門校とは20年来の付き合いがあります。生徒数は減っているものの、溶接技術科があって即戦力になる。5年前から外国人雇用も始めており、人材確保に苦戦中とはいえ、従業員の出身校の後輩が先輩の話を聞いて、入社を希望するケースが増えてきているのはうれしい限りです」
社内改革やCSR活動が社会性認知に波及し、地場コンとの信頼関係強固、若手人材の確保、そして業績アップへと還元されている。こうした好循環を生み出して、同社はゼネコンとのパイプを太く、長くし、世界トップの日本の鉄骨製造を下支えしている。
会社データ
社 名 : 株式会社鐵建(てっけん)
所在地 : 群馬県藤岡市東平井1410-4
電 話 : 0274-40-8040
HP : https://tekken-k.com
代表者 : 小山慎一 代表取締役
従業員 : 95人
【藤岡商工会議所】
※月刊石垣2024年7月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!